BIMとは?建築業界の基本知識をやさしく解説

この記事の要約
- BIMの基本を3分で理解!CADとの決定的な違いがわかります。
- 設計・施工の生産性が向上するBIM導入のメリットを具体的に解説します。
- 建築業界の未来を担うBIM技術の重要性と、学習の第一歩がわかります。
- 目次
- BIMとは?基本をわかりやすく解説
- BIMの正式名称と基本的な意味
- 3次元モデルに「情報」を統合する仕組み
- なぜ今、BIMが重要視されるのか
- BIMで実現できること
- 設計・施工・維持管理まで一貫した情報活用
- 精度の高いシミュレーション
- 各種図面や数量の自動算出
- BIMとCADの決定的な違い
- 「情報」を持つモデルか、持たない図形か
- 比較表:BIMとCADの違い
- BIM導入のメリット・デメリット
- 【メリット】生産性向上と品質確保
- 【デメリット】導入コストと学習期間
- BIMで使われる代表的なソフト
- 主要なBIMソフトの特徴
- BIM導入・学習の進め方(ファーストステップ)
- STEP1:導入目的を明確にする
- STEP2:情報収集とソフト選定
- STEP3:学習計画を立てる
- まとめ:BIMは建築業界の未来を創る技術
- BIMに関するよくある質問
- Q. BIMを学ぶのは難しいですか?
- Q. 導入費用はどれくらいかかりますか?
- Q. 小規模な設計事務所でも導入できますか?
- Q. BIM技術者の将来性はどうですか?
BIMとは?基本をわかりやすく解説
BIMは、単なる3Dモデル作成ツールではありません。建築物の情報を一元化し、設計から施工、維持管理に至るまでの全工程で活用する画期的な仕組みです。本章では、BIMが持つ本来の意味と、なぜ今、建築業界全体でその導入が急がれているのか、その背景と基本的な概念をわかりやすく解説します。
BIMの正式名称と基本的な意味
BIMは「Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)」の頭文字を取った略称です。その名前が示す通り、単に建物の形を3次元で表現するだけでなく、建物(Building)が持つ様々な情報(Information)を統合して活用する考え方、またはその工程(Modeling)全体を指します。
具体的には、コンピューター上に作成したバーチャルな3Dの建物モデルに、部材の仕様、メーカー、価格、断熱性能といった属性情報を紐づけます。これにより、設計から施工、そして建物の寿命が終わるまでの維持管理まで、あらゆる段階でこの情報を活用し、業務の効率化と品質向上を目指すための仕組みです。
3次元モデルに「情報」を統合する仕組み
BIMの最大の特徴は、3Dモデルを構成する要素一つひとつが、単なる「カタチ」ではなく「意味のある情報」を持っている点にあります。
例えば、従来の3D CADで描かれた壁は、ただの「面」や「線」の集まりです。しかし、BIMで作成された壁は、「鉄筋コンクリート造、厚さ150mm、耐火時間1時間、単価〇〇円」といった具体的な情報を持つオブジェクトとして存在します。
この仕組みにより、モデルから部材の数量を自動で算出したり、特定の性能を持つ部材だけを抽出したりすることが可能です。つまり、BIMモデルは「建物のデータベース」そのものであり、単なる形状確認に留まらない、多角的で高度なデータ活用を実現します。

なぜ今、BIMが重要視されるのか
現在、日本の建築業界は、少子高齢化による人手不足や、長時間労働の是正といった働き方改革が喫緊の課題となっています。このような状況を背景に、建築生産プロセス全体の生産性を向上させる切り札としてBIMが注目されています。
BIMを活用することで、設計・施工のプロセスが効率化され、関係者間の情報共有が円滑になります。これにより、手戻りの削減や工期の短縮が期待できるのです。
こうした流れを受け、国土交通省もBIMの活用を強力に推進しています。公共事業を中心にBIM/CIM(※)の原則適用を進めるなど、官民一体となって導入が加速しており、BIMはもはや一部の先進的な取り組みではなく、業界標準の技術となりつつあります。
- (※)BIM/CIMとは
CIM(Construction Information Modeling/Management)は、BIMの考え方を土木分野(橋梁、ダム、トンネルなど)に展開したものです。国土交通省では両者をあわせて「BIM/CIM」と呼称し、建設事業全体の生産性向上を目指しています。
[出典:国土交通省 BIM/CIMポータルサイト]
BIMで実現できること
BIMを導入すると、従来の建築プロセスが劇的に変わる可能性があります。設計の初期段階から建物の完成後まで、一貫したデータ活用によって様々なメリットが生まれます。ここでは、BIMを活用することで具体的に何が実現できるのか、代表的な例を3つのポイントに分けてご紹介します。
設計・施工・維持管理まで一貫した情報活用
BIMで作成されたモデルの情報は、一度作って終わりではなく、建物のライフサイクル全体を通して活用され続けます。各段階で情報が引き継がれ、更新されていくことで、無駄のない一貫したプロジェクト管理が可能になります。
・設計段階: デザインの初期検討から構造計算、法規チェックまで、整合性の取れたモデル上で効率的に進められます。3Dモデルによるプレゼンテーションは、施主との合意形成にも役立ちます。
・施工段階: BIMモデルから施工用の図面(施工図)を切り出したり、鉄骨や配管の干渉を事前にチェックしたりできます。これにより、現場での手戻りや予期せぬトラブルを大幅に削減できます。
・維持管理段階: 竣工時のBIMモデルには、どの場所にどの部材が使われているか、いつ点検が必要かといった情報がすべて記録されています。これにより、将来的な修繕計画の立案や、効率的な施設管理が実現します。
精度の高いシミュレーション
BIMモデルには、形状だけでなく材質や性能といった物理的な情報が含まれているため、設計段階で非常に精度の高いシミュレーションが可能です。これにより、建物の性能を事前に予測し、設計品質を向上させることができます。
・環境シミュレーション: 建物内外の日当たりや風の流れ、騒音の伝わり方などを可視化し、快適で環境に配慮した設計に役立てます。
・省エネシミュレーション: 壁や窓の断熱性能、空調設備の種類といった情報から、建物の年間エネルギー消費量を予測。省エネ性能の高い設計を科学的な根拠に基づいて検討できます。
・避難シミュレーション: 火災や地震といった災害発生時に、建物内の人々がどのように避難するかをシミュレーションし、安全な避難経路が確保されているかを確認します。
各種図面や数量の自動算出
BIMモデルは、全ての情報の「マスターデータ」として機能します。そのため、モデルさえ正確に作られていれば、そこから必要な図面や資料を自動的に生成することが可能です。
例えば、BIMモデルの壁の位置を10cm動かすと、その変更は平面図、立面図、断面図、矩計図など、関連するすべての図面に自動で反映されます。これにより、図面間の不整合という、設計段階で頻発するミスを根本的に防ぐことができます。
さらに、壁の面積やコンクリートの体積、窓の数といった数量もモデルから自動で算出(自動拾い)できます。これは積算業務の大幅な効率化につながり、見積もりの精度向上にも貢献します。
BIMとCADの決定的な違い
BIMとしばしば比較されるのが、長年、建築設計で使われてきたCAD(キャド)です。どちらもコンピューターで設計作業を行うツールですが、その目的と仕組みは根本的に異なります。両者の違いを正しく理解することが、BIMの本質を知るための第一歩です。ここでは、BIMとCADの決定的な違いを解説します。
「情報」を持つモデルか、持たない図形か
BIMとCADの最も大きな違いは、扱うデータが「意味を持つ情報モデル」か「意味を持たない図形データ」かという点にあります。
- CAD(Computer-Aided Design)とは
いわば「電子的な製図板」です。CADが描くのは、あくまで線や円、面といった図形(ジオメトリ)の集まりです。例えば、2本の平行線を描いても、CADはそれを「壁」とは認識しません。人間が図面というルールの上でそれを壁だと解釈しているだけです。
- BIM(Building Information Modeling)とは
建物を構成する壁、柱、窓といった部材(オブジェクト)を組み立ててモデルを作成します。BIMの「壁」オブジェクトには、厚さや材質、価格などの情報が付加されており、ソフトウェアはそれを明確に「壁」として認識します。
つまり、CADの成果物が「図面」であるのに対し、BIMの成果物は「建物の情報データベース」そのものであると言えます。
比較表:BIMとCADの違い
BIMとCADの主な違いを以下の表にまとめました。目的や得意なこと、活用される場面が大きく異なることがわかります。
| 項目 | BIM (Building Information Modeling) | CAD (Computer-Aided Design) |
|---|---|---|
| 目的 | 建物の情報管理・活用 | 図面の作成(作図) |
| データ | 情報を持つ3Dモデル(オブジェクト) | 情報を持たない2D/3Dの図形(線、面) |
| 情報連携 | モデルと図面、数量などが完全連動 | 図面間の連携は手動での修正が必要 |
| 活用フェーズ | 設計・施工・維持管理の全工程 | 主に設計・施工段階 |
| 主な成果物 | BIMモデル、各種図面、積算書 | 図面データ |
BIM導入のメリット・デメリット
BIMの導入は、生産性の向上や品質確保といった大きなメリットをもたらしますが、一方で初期投資や人材育成などの課題も存在します。導入を成功させるためには、光と影の両側面を正しく理解し、計画的に進めることが不可欠です。ここでは、BIM導入の主なメリットとデメリットを整理して解説します。
【メリット】生産性向上と品質確保
BIMを導入することで得られる主なメリットは、以下の4つに集約されます。これらは相互に関連し合い、建築プロジェクト全体の質を高める効果があります。
・整合性の向上: 設計変更を行うと、関連する全ての図面や数量表に自動で反映されるため、図面間の食い違いや修正漏れといった人為的ミスがなくなります。
・合意形成の円滑化: 3Dモデルによって建物の完成イメージを誰にでもわかりやすく可視化でき、専門家でない施主や関係者とも初期段階から具体的なイメージを共有できます。
・手戻りの削減: BIMモデル上で、構造体と設備配管などがぶつかる部分(干渉)を事前に発見・修正できます。施工段階で問題が発覚するケースが大幅に減ります。
・業務の効率化: 図面の自動生成や数量の自動算出により、これまで多大な時間を要していた作図・積算業務が大幅に効率化されます。
【デメリット】導入コストと学習期間
多くのメリットがある一方、BIMの導入には乗り越えるべきハードルも存在します。特に以下の3点は、多くの企業が直面する課題です。
・初期コスト: BIMソフトウェアのライセンス費用は一般的に高価です。また、大容量のデータを扱うため、高性能なパソコンやサーバーへの投資も必要となります。
・学習コスト: 2D CADとは操作方法や設計思想が大きく異なるため、習得には一定の学習期間が必要です。新しい業務フローを社内に構築する時間と労力も求められます。
・データの互換性: 異なるBIMソフト間でのデータ連携は、IFCという標準フォーマットを介して行われますが、完全な互換性が保証されているわけではありません。
BIMで使われる代表的なソフト
BIMを実践するには、専用のソフトウェアが不可欠です。現在、国内外の様々なベンダーからBIMソフトが提供されており、それぞれに特徴や得意分野があります。自社の目的やプロジェクトの特性に合ったソフトを選ぶことが、BIMを成功させるための重要な鍵となります。ここでは、国内で広く使われている代表的なソフトを紹介します。
主要なBIMソフトの特徴
国内の建築業界で特にシェアの高い、代表的な3つのBIMソフトウェアの特徴を以下の表にまとめました。
| ソフト名 | 開発元 | 特徴 |
|---|---|---|
| Revit | Autodesk社 | 意匠・構造・設備を一つのソフトで統合的に扱えるのが最大の特徴。世界的にシェアが高く、関連情報やアドオンソフトも豊富。 |
| Archicad | GRAPHISOFT社 | 意匠設計の分野で評価が高く、直感的な操作性が魅力。BIMの草分け的存在で、Mac OSに対応している点も特徴の一つ。 |
| GLOOBE | 福井コンピュータアーキテクト社 | 日本の建築基準法や設計実務に準拠した機能が豊富に搭載されている国産ソフト。日本の確認申請業務などを効率化できる。 |
BIM導入・学習の進め方(ファーストステップ)
「BIMとは何か」を理解した次に知りたいのは、「では、何から始めれば良いのか」ということでしょう。BIMの導入と学習は、闇雲に進めてもうまくいきません。ここでは、BIM導入を成功させるための最初の3つのステップを、具体的なアクションとともに解説します。
STEP1:導入目的を明確にする
まず、自社がBIMを導入して「何をしたいのか」「どの業務を効率化したいのか」を具体的に定義します。
・設計プロセスの手戻りをなくしたい
・プレゼンテーションの質を向上させたい
・積算業務の時間を短縮したい
目的が明確になることで、必要な機能や学ぶべきスキルが絞られ、導入後のミスマッチを防ぐことができます。
STEP2:情報収集とソフト選定
目的が定まったら、それを実現できるソフトウェアの情報を収集します。各ソフトのウェブサイトや比較記事を参考にするだけでなく、可能であれば体験版を試してみましょう。また、主要な取引先や協力会社がどのソフトを使用しているかを確認し、データ連携がスムーズに行えるかを事前に調査することも不可欠です。

STEP3:学習計画を立てる
使用するソフトを決めたら、具体的な学習計画を立てます。
・書籍やオンライン教材の活用: 初心者向けの書籍や、ソフトウェアベンダーが提供する公式チュートリアルで基礎を固めます。
・研修やセミナーへの参加: 短期間で集中的に学びたい場合は、専門の研修機関が開催するセミナーに参加するのも有効です。
・社内での勉強会: 複数のメンバーで学習を進める場合は、定期的に勉強会を開き、知識を共有することで学習効率が高まります。
いきなり大規模なプロジェクトでBIMを導入するのではなく、まずは小規模なモデル作成から始めるなど、段階的にスキルアップしていくことが成功の鍵です。
まとめ:BIMは建築業界の未来を創る技術
この記事では、BIMの基本的な概念からCADとの違い、具体的なメリット・デメリット、そして導入の第一歩まで、建築業界におけるBIMの基本知識を網羅的に解説しました。
- この記事のポイント
・BIMとは: コンピューター上に作成した3Dモデルに、コストや性能などの情報を統合し、設計から施工、維持管理まで建物のライフサイクル全体で活用する仕組み。
・BIMの目的: 設計・施工プロセスの非効率を解消し、生産性と品質を向上させること。業界が抱える人手不足などの課題を解決する鍵となる。
・CADとの違い: CADが「情報を持たない図形」を描くツールであるのに対し、BIMは「情報を持つ建物のデータベース」を構築する仕組みである点が根本的に異なる。
BIMは、単なる便利な3D作図ツールではありません。それは、建築業界の働き方そのものを変革し、より良い社会基盤を創造していくための重要な基盤技術です。導入にはコストや学習といったハードルがありますが、それらを乗り越えることで得られるメリットは計り知れません。まずはBIMの基本を正しく理解し、自社にどのような可能性があるか情報収集から始めてみましょう。
BIMに関するよくある質問
Q. BIMを学ぶのは難しいですか?
A. これまで2D CADのみを使用していた方にとっては、3次元空間でモデルを構築する思考法や、部材に情報を入力していく概念に慣れるまで、ある程度の時間が必要です。しかし、各ソフトウェアベンダーが提供するトレーニングやオンラインのチュートリアル、書籍などが充実しているため、計画的に学習を進めれば習得は十分に可能です。最初は小規模なモデルから始めるなど、段階的にスキルアップしていくことが推奨されます。
Q. 導入費用はどれくらいかかりますか?
A. 導入費用は、企業の規模や導入範囲によって大きく異なります。主な内訳は、①ソフトウェアのライセンス費用(サブスクリプション形式で1ライセンスあたり年間数十万円が一般的)、②BIMを快適に操作できる高性能なパソコンやサーバーの購入費用、③従業員向けの研修費用などです。正確な費用を知るためには、複数のベンダーや販売代理店から見積もりを取得することをおすすめします。
Q. 小規模な設計事務所でも導入できますか?
A. はい、導入できます。BIMは大規模なプロジェクトだけの技術ではありません。近年では、比較的安価なライセンス形態(LT版など)や、必要な時だけ利用できるクラウドベースのサービスも増えており、小規模な組織でも導入しやすくなっています。業務の効率化や設計品質の向上といったメリットは、組織の規模に関わらず享受できるため、小規模なプロジェクトから試験的にBIMを導入し、徐々に活用範囲を広げていく設計事務所も多くあります。
Q. BIM技術者の将来性はどうですか?
A. 非常に高いと考えられます。国土交通省がBIM/CIM活用を推進していることからもわかるように、BIMは今後の建築業界におけるスタンダードな技術となります。BIMを扱える技術者は、設計事務所、ゼネコン、ハウスメーカーなど、幅広い分野で需要が高まっており、キャリアアップや好条件での転職において有利に働く可能性が高いです。




