CIMとは?BIMとの違いや導入効果を解説

この記事の要約
- CIMの基本概念と建設DXにおける役割がわかる
- CIMとBIMの対象分野や目的の明確な違いがわかる
- 導入で得られる5つのメリットと事前に知るべき課題がわかる
- 目次
- CIMとは?建設業界のDXを推進する基本概念
- CIMの目的と国土交通省が推進する背景
- CIMを構成する3次元モデルと属性情報
- CIMとBIMの具体的な違いを徹底比較
- 対象分野・目的・活用フェーズの違い
- 「BIM/CIM」という言葉が使われる理由
- CIM導入によって得られる5つの効果・メリット
- 効果1:フロントローディングによる手戻りの削減
- 効果2:関係者間のスムーズな合意形成
- 効果3:生産性の向上と業務効率化
- 効果4:維持管理の効率化と長寿命化
- 効果5:安全性の向上
- CIM導入を進める上での課題と注意点
- 課題1:導入・運用コスト
- 課題2:対応できる人材の確保・育成
- 課題3:関連ソフト・ツールの選定
- 【まとめ】CIMを正しく理解し、建設業界の未来を創る
- CIMに関するよくある質問
- Q1:CIMの導入は義務化されていますか?
- Q2:小規模な事業者でもCIMは導入できますか?
- Q3:CIMを学ぶにはどうすればいいですか?
CIMとは?建設業界のDXを推進する基本概念
CIM(シム)とは、建設業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する重要な概念です。単なる3D化ではなく、計画から維持管理までの全工程で情報を一元化し、建設生産システム全体の生産性向上を目指す取り組みを指します。ここでは、CIMの目的や基本構造について詳しく解説します。
- CIM(Construction Information Modeling/Management)の基本構成
・目的:計画、調査、設計、施工、維持管理という建設事業の全工程の情報を連携・活用し、一貫した生産管理システムを実現する。
・中核技術:3次元モデルに、コストや材質、時間などの属性情報を紐づけて管理する。
・推進背景:建設業界が抱える人手不足や生産性の課題を、デジタル技術の活用によって解決する。
CIMの目的と国土交通省が推進する背景
CIMの最大の目的は、一貫した建設生産管理システムの実現です。具体的には、事業の初期段階である計画・調査・設計から3次元モデルを導入し、そこで作成されたモデルに施工、さらには将来の維持管理に至るまでの全工程の情報を集約・活用します。
この取り組みは、日本の建設業界が直面する深刻な課題、特に熟練技術者の高齢化による人手不足や、それに伴う生産性の伸び悩みを解決するために、国土交通省が主導して強力に推進しています。情報をデジタルで一元管理し、プロセス全体を効率化することで、少ない人員でも高品質な社会インフラを整備・維持していくことを目指しています。
[出典:国土交通省 BIM/CIMポータルサイト]
CIMを構成する3次元モデルと属性情報
CIMを理解する上で欠かせないのが、「3次元モデル」とそれに紐づく「属性情報」という2つの要素です。
・3次元モデル:構造物の形状や寸法、周辺の地形などを立体的に表現したデータです。これにより、誰でも完成形を直感的に把握できます。
・属性情報:3次元モデルの各部品に付与されるテキストや数値情報です。例えば、部材の材質、強度、メーカー、単価、施工日、点検履歴などが含まれます。
この2つが連携することで、CIMは単なる「見える化」ツールを超えた価値を発揮します。例えば、設計変更時に必要なコンクリートの総量を自動で算出したり、特定の部材の耐用年数から最適なメンテナンス時期をシミュレーションしたりと、高度な情報活用が可能になるのです。
CIMとBIMの具体的な違いを徹底比較
CIMについて調べると、必ずと言っていいほど「BIM(ビム)」という言葉が出てきます。どちらも3次元モデルを情報基盤とする点で共通していますが、その成り立ちや主戦場が異なります。両者の違いを正確に理解することは、CIMへの理解を深める上で非常に重要です。ここでは、両者の違いを複数の観点から比較し、解説します。

対象分野・目的・活用フェーズの違い
CIMとBIMの最も大きな違いは、対象とする事業分野です。CIMが道路やダムといった土木分野を主対象とするのに対し、BIMはビルや商業施設などの建築分野で発展してきました。この対象分野の違いが、目的や活用されるフェーズの違いにもつながっています。
以下の表は、CIMとBIMの主な違いをまとめた比較表です。
| 比較項目 | CIM (Construction Information Modeling/Management) | BIM (Building Information Modeling/Management) |
|---|---|---|
| 主な対象分野 | 道路、橋、ダム、トンネルなどの土木分野 | ビル、マンション、商業施設などの建築分野 |
| 主な目的 | 建設生産プロセス全体の効率化・高度化 | 設計・施工の効率化、関係者間の合意形成 |
| 活用フェーズ | 計画・調査・設計・施工・維持管理 | 設計・施工 |
| 扱う空間 | 地形や地盤を含む広範囲な空間 | 主に建物とその周辺 |
このように、CIMはインフラ構造物のライフサイクル全体を見据えている点が大きな特徴です。
「BIM/CIM」という言葉が使われる理由
近年、国土交通省はこれら2つの概念を合わせて「BIM/CIM(ビムシム)」という呼称を公式に使用しています。これは、建築と土木という垣根を越え、3次元モデル活用のメリットを建設業界全体に広げ、日本の国際競争力を高めようという国の強い意志の表れです。
両者の基本的な理念や目指すゴールは「生産性向上」という点で共通しています。そのため、実務上は「土木分野ならCIM、建築分野ならBIM」と使い分けられてきた技術体系を、共通の旗印のもとに統合し、普及を加速させる目的で「BIM/CIM」という言葉が使われていると理解するのが適切です。
CIM導入によって得られる5つの効果・メリット
CIMの導入は、発注者、設計者、施工者といった事業に関わるすべての関係者に大きなメリットをもたらします。従来の手法では解決が難しかった課題を克服し、建設プロセス全体をより高度で効率的なものへと変革するポテンシャルを秘めています。ここでは、CIM導入によって得られる代表的な5つの効果を具体的に解説します。
効果1:フロントローディングによる手戻りの削減
フロントローディング(業務の初期段階に負荷を集中させる考え方)により、事業の初期段階で詳細な3次元モデルを構築し、構造物間の干渉チェックや施工手順のシミュレーションを高精度で行えます。これにより、施工段階で発覚していたような設計ミスや問題点を事前に洗い出して解決できるため、後工程での大規模な手戻りや仕様変更を劇的に削減できます。
効果2:関係者間のスムーズな合意形成
2次元の図面は専門家でなければ正確な理解が難しい場合が多く、認識のズレが生じる原因となりがちでした。一方、CIMの3次元モデルは視覚的に分かりやすく、誰でも完成イメージを直感的に共有できます。これにより、発注者や地域住民、施工業者など、あらゆる場面で関係者間のスムーズな合意形成を促進します。
効果3:生産性の向上と業務効率化
CIMは、さまざまな業務の自動化・効率化に貢献します。例えば、完成した3次元モデルから2次元の図面(平面図、断面図など)を自動で生成したり、積算に必要な数量を正確に算出したりできます。これまで多大な時間と労力を要していたこれらの作業を効率化することで、技術者はより創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになります。
効果4:維持管理の効率化と長寿命化
CIMの真価は、建物が完成した後も発揮されます。施工段階の正確なデータや点検履歴などを属性情報として3次元モデルに蓄積しておくことで、デジタル台帳として活用できます。これにより、将来のメンテナンス計画の立案が容易になり、インフラの長寿命化とライフサイクルコスト(LCC:建物の生涯にかかる総費用)の削減に大きく貢献します。
効果5:安全性の向上
建設現場の安全管理においてもCIMは有効です。クレーンの稼働範囲や作業員の動線などを3次元モデル上でシミュレーションすることで、潜在的な危険箇所を事前に特定し、具体的な安全対策を講じることが可能です。現場での事故リスクを低減し、作業員が安心して働ける環境づくりをサポートします。
CIM導入を進める上での課題と注意点
CIMがもたらすメリットは大きい一方で、その導入と定着にはいくつかのハードルが存在します。これらの課題をあらかじめ認識し、計画的に対策を講じることが、CIM導入を成功させるための鍵となります。これから導入を検討する事業者が直面しやすい、代表的な3つの課題と注意点を解説します。
課題1:導入・運用コスト
CIMを本格的に活用するためには、相応の初期投資が必要です。
- 主なコストの内訳
・初期コスト:3次元モデルを作成・処理するための高機能なソフトウェアや、ハイスペックなPCの導入費用。
・運用コスト:ソフトウェアの年間ライセンス料や、大容量データを保管・管理するためのサーバー費用など。
これらのコスト負担は、特に中小企業にとって大きな課題となる可能性があります。
課題2:対応できる人材の確保・育成
CIMを使いこなすには、ツールの操作スキルはもちろん、3次元的な思考や土木工学の専門知識が求められます。しかし、現状ではこれらのスキルを兼ね備えた人材はまだ不足しています。そのため、多くの企業では、体系的な研修プログラムの構築や、OJTによる継続的なスキルアップの仕組みづくりが不可欠です。
課題3:関連ソフト・ツールの選定
CIMに関連するソフトウェアは数多く存在し、それぞれに特徴や得意分野があります。自社の事業内容やプロジェクトの規模、予算に合わせて、どのソフトウェアを導入すべきかを見極めることが重要です。また、異なるソフトウェア間でデータをスムーズに連携できるか(データ互換性)も、業務効率を左右する重要な選定ポイントとなります。
【まとめ】CIMを正しく理解し、建設業界の未来を創る
この記事では、CIMの基本的な概念から、BIMとの違い、導入によるメリット、そして乗り越えるべき課題について網羅的に解説しました。
CIMは、単なる3D作図ツールではありません。それは、建設生産プロセス全体をデジタルデータでつなぎ、生産性、品質、安全性を飛躍的に向上させるための革新的な取り組みです。
導入には初期コストや人材育成といった乗り越えるべき課題も確かに存在します。しかし、それらを克服して得られる手戻りの削減や維持管理の効率化といった効果は、事業の競争力を大きく高める計り知れない価値を持ちます。
CIMを正しく理解し、自社の事業に積極的に活用していくことが、これからの建設業界の発展、そしてより安全で豊かな社会インフラの実現につながる第一歩となるでしょう。
CIMに関するよくある質問
Q1:CIMの導入は義務化されていますか?
A1:はい、国土交通省が発注する公共工事では事実上義務化されています。2023年(令和5年)度から、小規模工事などを除くすべての公共工事に「BIM/CIM原則適用」が開始されました。これは、従来からの段階的な活用義務化をさらに推し進めるもので、今後の建設業界のスタンダードとなる動きです。この流れは、将来的には地方自治体や民間工事にも拡大していくと見られています。
[出典:国土交通省「令和5年度からのBIM/CIM原則適用について」]
Q2:小規模な事業者でもCIMは導入できますか?
A2:はい、可能です。近年では比較的安価なサブスクリプション型のソフトウェアや、クラウドベースのサービスも増えています。まずは特定の業務や小規模なプロジェクトから部分的に導入する「スモールスタート」で始め、徐々に対応範囲を広げていくのが現実的なアプローチです。
Q3:CIMを学ぶにはどうすればいいですか?
A3:学習方法は多岐にわたります。主な方法としては、以下のものが挙げられます。
・1. 研修・セミナーへの参加:各ソフトウェアベンダーや建設関連団体が主催する研修会やセミナーに参加する。
・2. オンライン教材の活用:eラーニングや動画チュートリアルなどで、自分のペースで学習を進める。
・3. 書籍での学習:CIMや関連ソフトウェアの入門書・専門書を読んで体系的な知識を身につける。
・4. 公式ガイドラインの参照:国土交通省が公開しているBIM/CIMに関するガイドラインや各種マニュアルは、公的基準を理解する上で非常に有用です。




