建設業を始める最適な時期とその理由とは?

この記事の要約
- 建設業の会社設立で失敗しない最適な時期の判断基準を解説
- 繁忙期と閑散期、それぞれのメリット・デメリットを徹底比較
- 資金、事業計画、建設業許可など設立前に必須の準備がわかる
- 目次
- 会社設立の時期を左右する4つの外的要因
- 1. 業界の繁忙期・閑散期
- 2. 助成金・補助金の公募スケジュール
- 3. 法改正や税制変更のタイミング
- 4. 金融機関の融資審査の傾向
- 【比較】繁忙期と閑散期、会社設立するならどっち?
- 会社設立前に固めておくべき3つの内的要因
- 1. 自己資金と資金調達の目処
- 2. 事業計画の具体性
- 3. 建設業許可の取得準備
- 【HowTo】建設業の会社設立|基本的な6つのSTEP
- 1. 事業計画の策定と基本事項の決定
- 2. 商号調査と印鑑の作成
- 3. 定款の作成と認証
- 4. 資本金の払込み
- 5. 登記申請書類の作成と提出
- 6. 設立後の各種届出
- まとめ:最適なタイミングを見極める最終チェックリスト
- よくある質問
会社設立の時期を左右する4つの外的要因
建設業で会社設立を行う最適なタイミングは、ご自身の準備状況だけでなく、業界特有のトレンドや公的な制度スケジュールといった外部環境に大きく左右されます。これらを事前に把握し、戦略的に計画に組み込むことで、スタートダッシュを有利に進めることが可能です。ここでは、売上や資金繰り、手続きの効率性に直接関わる4つの主要な外的要因について、具体的かつ客観的に解説します。
1. 業界の繁忙期・閑散期
建設業界の業務量には、季節や公共事業の動向によって明確な波があります。このサイクルを理解することは、会社設立直後の売上予測や経営戦略を立てる上で極めて重要です。
・繁忙期(9月~3月頃)
この時期は、官公庁の公共工事が年度末の予算消化に向けて集中するほか、民間でも気候が安定し工事が進めやすくなるため、案件数が大幅に増加します。設立直後から売上を確保できる可能性が高い点は大きなメリットですが、一方で人材や協力業者の確保が困難になり、競争が激化するデメリットも存在します。
・閑散期(6月~8月頃)
梅雨や夏季の猛暑により、特に屋外での作業が中心となる工事は減少傾向にあります。売上が立ちにくいという側面はありますが、この期間を有効活用し、会社設立の手続き、建設業許可の申請、営業資料の作成、人材採用・教育などにじっくり時間を充てることができます。繁忙期に向けて万全の準備を整える戦略的な期間と捉えることが可能です。
2. 助成金・補助金の公募スケジュール
会社設立やその後の事業運営において、国や地方自治体が提供する助成金や補助金は非常に有効な資金調達手段です。これらの制度の多くは、年間の公募スケジュールが定められています。
- 創業時に活用できる制度の例
・創業促進補助金
・事業承継・引継ぎ補助金
・IT導入補助金
これらの制度を活用するには、公募期間内に事業計画書を提出し、審査を通過する必要があります。設立準備段階から利用可能な制度の情報を収集し、申請スケジュールから逆算して会社設立のタイミングを調整することで、自己資金の負担を軽減し、経営基盤を強化できます。
3. 法改正や税制変更のタイミング
消費税の税率変更や、法人税に関する優遇税制の導入・改正など、法律や税制度の変更は企業のキャッシュフローに直接的な影響を及ぼします。特に、設立時の資本金の額や役員報酬の設定は、納税額を大きく左右する重要な要素です。特定の設備投資に対する税額控除や、中小企業向けの特例措置などが新設されるタイミングに合わせて事業を開始できれば、大きな節税効果が期待できます。税理士などの専門家に相談し、最新の情報を踏まえた上で設立日を決定することが賢明です。
4. 金融機関の融資審査の傾向
金融機関からの融資は、多くの創業者にとって重要な資金調達の柱です。金融機関にも決算期があり、一般的に期末や年度末(3月、9月など)は融資案件が集中し、審査に通常より時間がかかる傾向があります。また、年度初め(4月など)は新たな融資目標に向けて積極的になるケースも見られます。融資を計画している場合、このような金融機関側の事情を考慮し、比較的審査がスムーズに進みやすい時期を狙って相談を開始するなど、余裕を持ったスケジュールを組むことが資金調達を成功させる鍵となります。

【比較】繁忙期と閑散期、会社設立するならどっち?
会社設立のタイミングを「繁忙期」と「閑散期」のどちらに設定するかは、経営者の事業戦略によって最適解が異なります。それぞれの時期が持つメリットとデメリットを客観的に比較し、自社のリソースや事業計画に最も適した選択をすることが重要です。以下の比較表は、両時期の特徴を整理したものです。ご自身の状況を当てはめ、具体的なシミュレーションにお役立てください。
繁忙期と閑散期のメリット・デメリット比較表
| 時期 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 繁忙期 | ・設立直後から案件を獲得しやすく、売上を早期に確保できる ・市場全体が活発なため、営業先の候補を見つけやすい |
・経験豊富な人材や信頼できる協力業者の確保が難しい ・競合が多く、厳しい価格競争に巻き込まれやすい ・設立手続きと現場管理の両立で多忙を極めやすい |
| 閑散期 | ・事業計画の策定や営業戦略のブラッシュアップに時間を割ける ・建設業許可など、複雑な行政手続きに集中して取り組める ・人材募集や従業員教育に十分な時間を投資できる |
・設立当初の売上が伸び悩む可能性がある ・市場が落ち着いているため、新規顧客の開拓に時間がかかる場合がある |
会社設立前に固めておくべき3つの内的要因
外部環境の変化をチャンスに変えるには、盤石な社内体制、すなわち「内的要因」が不可欠です。会社設立を成功させるための絶対条件として、以下の3つのポイントがすべて確実にクリアできているか、客観的に評価してください。
1. 自己資金と資金調達の目処
事業運営は、資金がなければ成り立ちません。会社設立には、登記費用だけでなく、事務所の契約、備品の購入、当面の運転資金など、多額の初期投資が必要です。まず、自己資金としていくら準備できるのかを正確に把握します。その上で、不足する資金については、日本政策金融公庫の創業融資や制度融資など、具体的な資金調達の計画を立て、その目処をつけておくことが不可欠です。
特に建設業においては、建設業許可を取得するために500万円以上の自己資本(または預金残高)といった資産要件が課せられます。この基準をクリアできなければ事業を開始できないため、最優先で確保すべき項目です。
2. 事業計画の具体性
情熱や技術力だけでは、ビジネスとして成功を収めることは困難です。金融機関からの融資審査や協力業者との関係構築においても、客観的で実現可能性の高い事業計画がその信頼性の基盤となります。以下の点を具体的に言語化・数値化できているか確認します。
・事業内容: どのような種類の工事を専門とするのか?
・ターゲット市場: 顧客は誰か?
・収益モデル: どのようにして売上を立て、利益を確保するのか?
・マーケティング戦略: どのようにして顧客を獲得するのか?
・財務計画: 損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の3つの具体的な財務予測。
綿密な市場調査と競合分析に基づき、自社の強みを最大限に活かせる事業計画を策定することが、持続可能な経営の第一歩です。
3. 建設業許可の取得準備
一件の請負代金が500万円以上(建築一式工事の場合は1,500万円以上)の工事を請け負う場合、「建設業許可」の取得が法律で義務付けられています。この許可なく該当の工事を行うことは法令違反となるため、会社設立計画において最重要項目の一つです。
- 建設業許可取得の主要な要件
・経営業務の管理責任者: 建設業での経営経験が5年以上ある役員等がいること。
・専任技術者: 許可業種に関する国家資格または10年以上の実務経験を持つ技術者がいること。
・財産的基礎: 自己資本が500万円以上、または500万円以上の資金調達能力があること。
[出典:国土交通省「建設業の許可とは」]

【HowTo】建設業の会社設立|基本的な6つのSTEP
最適なタイミングを見極めると同時に、会社設立の具体的な手続きを理解しておくことも重要です。ここでは、株式会社を設立する際の基本的な流れを6つのステップに分けて解説します。各ステップには専門的な知識が必要な場面もあるため、司法書士などの専門家と連携しながら進めるのが一般的です。
1. 事業計画の策定と基本事項の決定
会社の目的、商号(会社名)、本店所在地、資本金の額、事業年度、役員構成など、会社の骨格となる基本事項を決定します。これらはすべて定款(会社のルールブック)に記載する重要項目です。
2. 商号調査と印鑑の作成
類似商号の調査を法務局で行い、使用したい会社名が使えるか確認します。並行して、会社の実印(代表印)、銀行印、角印など、事業に必要な印鑑を作成します。
3. 定款の作成と認証
STEP1で決定した基本事項に基づき、定款を作成します。株式会社の場合、作成した定款は、公証役場で認証を受ける必要があります。
4. 資本金の払込み
発起人(会社を設立する人)個人の銀行口座に、定められた資本金を払い込みます。この時点ではまだ会社名義の口座は作れないため、払込みがあったことを証明する通帳のコピーなどが必要になります。
5. 登記申請書類の作成と提出
法務局に提出するための設立登記申請書、定款、役員の就任承諾書、資本金の払込証明書など、一連の書類を作成します。すべての書類が揃ったら、本店所在地を管轄する法務局に提出します。この登記申請日が、会社の設立日となります。
6. 設立後の各種届出
登記が完了したら、税務署への法人設立届出書の提出、都道府県や市町村への事業開始申告、年金事務所での社会保険の加入手続き、ハローワークでの雇用保険の加入手続きなど、事業運営に必要な各種届出を行います。
まとめ:最適なタイミングを見極める最終チェックリスト
建設業を始める最適な時期は、単一の正解があるわけではありません。その答えは、外的要因と内的要因という2つの歯車が噛み合った瞬間に見つかります。最終判断を下す前に、以下のチェックリストを使ってご自身の状況を客観的に評価してください。
- 建設業の会社設立タイミング|最終チェックリスト
・【外的要因】業界の繁忙期と閑散期のサイクルを事業計画に組み込んでいるか?
・【外的要因】活用できる助成金や補助金の公募スケジュールを確認したか?
・【内的要因】建設業許可の要件を満たす自己資金(500万円以上)の目処は立っているか?
・【内的要因】融資や取引先の信頼を得られる具体的な事業計画は完成しているか?
・【内的要因】建設業許可の人的要件(経営業務の管理責任者・専任技術者)は満たせているか?
・【手続き】設立手続きや許認可申請にかかる期間を考慮したスケジュールを立てているか?
よくある質問
Q1. 会社の設立日は自由に決められますか?
A1. はい、法務局の開庁日である平日であれば、原則として自由に設立日(登記申請日)を指定できます。縁起の良い「大安」や、事業に関連する記念日、覚えやすい日などを選ぶ経営者が多いです。ただし、書類の準備期間も考慮して、余裕を持ったスケジュールを設定することが重要です。
Q2. 建設業許可の申請から取得までどのくらいかかりますか?
A2. 申請書類に不備がない場合、標準的な審査期間は以下の通りです。
・知事許可: 約30日~60日
・大臣許可: 約90日~120日
これはあくまで目安であり、申請先の行政庁の混雑状況や、書類の補正指示の有無によって変動します。事業開始希望日から逆算し、可及的速やかに準備に着手することをお勧めします。
Q3. 法人設立と個人事業主、どちらで始めるべきですか?
A3. どちらにも明確なメリット・デメリットが存在するため、事業の将来像によって選択が異なります。
・法人設立が有利なケース: 元請けとして大規模な工事を受注したい(社会的信用度が高い)、年間利益が一定額を超える見込みがある(節税効果が高い)、金融機関からの融資を有利に進めたい。
・個人事業主が有利なケース: まずは小規模な工事から始めたい(開業・廃業の手続きが簡便)、経理処理などの事務負担を最小限に抑えたい。
将来的な事業拡大を見据えるのであれば、社会的信用や資金調達の面で有利な法人設立を選択する方が多い傾向にあります。




