「労務」の基本知識

建設業の労務とは?押さえるべき基本知識を解説


更新日: 2025/10/14
建設業の労務とは?押さえるべき基本知識を解説

この記事の要約

  • 建設業の労務は従業員の安全と会社の未来を守る重要な業務です
  • 勤怠管理から2024年問題まで今すぐ役立つ知識を解説します
  • 労務管理を効率化し働きやすい現場を作るヒントがわかります

建設業における労務とは、従業員の「働く」に関わるすべての管理業務を指します。具体的には、勤怠管理、給与計算、社会保険手続き、そして何よりも重要な安全衛生管理まで、その範囲は多岐にわたります。特に建設業では、従業員の安全確保と法令遵守が企業の存続に直結するため、極めて重要な役割を担います。

なぜ建設業で労務管理が特に重要なのか?

建設業の労務管理は、企業のコンプライアンス遵守はもちろん、従業員の生命と健康を守り、企業の持続的な成長を支えるために不可欠です。他業種と比較して労働災害のリスクが高いという特性から、より専門的で徹底した管理体制が求められます。ここでは、その重要性の根幹となる特有のリスクと、一般的な労務管理との違いを解説します。

建設業特有のリスクと労務管理の役割

建設業界は、高所作業や重機の操作、重量物の運搬など、常に危険が伴う作業環境です。そのため、労働災害の発生率が他業種に比べて高い傾向にあります。適切な労務管理は、これらのリスクを低減させるための重要な役割を担います。

具体的には、労働安全衛生法に基づいた安全教育の実施や健康診断の管理、作業環境の点検・改善などを通じて、事故を未然に防ぎます。万が一事故が発生してしまった場合でも、適切な労災保険の手続きを行うことで、従業員とその家族の生活を守ります。このような取り組みは、従業員の安全を守るだけでなく、企業の社会的信頼を維持し、経営リスクを管理する上で極めて重要です。

一般的な労務管理との違い【比較表で解説】

建設業の労務管理は、デスクワーク中心の一般的なオフィス業務とは大きく異なります。現場作業が中心となるため、労働時間や賃金、安全管理の各側面で特有の対応が求められます。

以下の表は、一般的な労務管理と建設業の労務管理の主な違いをまとめたものです。

比較項目 一般的な労務管理(オフィスワーク) 建設業の労務管理
勤怠管理 ・主に社内でのタイムカード打刻
・労働時間が比較的固定的
・現場への直行直帰が多い
・天候等で労働時間が変動しやすい
賃金体系 ・月給制が中心 ・日給制、日給月給制なども混在
・現場手当などの変動手当が多い
安全衛生 ・VDT作業などデスクワーク中心の対策 ・墜落、転落、重機災害など
・物理的な危険への対策が最重要
社会保険 ・自社の従業員のみが対象 ・下請企業の労働者も対象に含めた
・元請としての管理責任が発生

建設業の労務担当者が行う主な5つの仕事内容

建設業の労務担当者が担う業務は、従業員の入社から退職までの手続きに留まりません。日々の勤怠把握から現場の安全確保まで、その責任範囲は広く、専門的な知識が求められます。ここでは、労務担当者が行う中核的な5つの仕事内容について、それぞれの業務のポイントを具体的に解説します。

建設現場で安全に関する朝礼を行う作業員たち

1. 勤怠管理

従業員の労働時間を正確に記録・管理する業務です。建設業では、現場への直行直帰、早朝・夜間作業、天候による作業中止など、労働時間が不規則になりがちです。これらの状況を正確に把握し、労働基準法に定められた労働時間や休憩、休日が適切に管理されているかを確認します。正確な勤怠管理は、後述する給与計算の基礎となり、未払い残業代などの労務トラブルを防ぐための第一歩です。

2. 給与計算

勤怠データと賃金規程に基づき、毎月の給与を計算します。日給制や日給月給制、月給制など多様な賃金体系に対応し、時間外労働や休日労働、深夜労働に対する割増賃金を正確に算出する必要があります。また、現場手当や資格手当、通勤手当といった各種手当の計算、社会保険料や税金の控除も行います。ミスが許されない、非常に正確性が求められる業務です。

3. 社会保険・労働保険の手続き

従業員の入社・退職に伴う、以下の保険手続きを行います。
健康保険
厚生年金保険
雇用保険
労災保険

これらの手続きは、従業員の生活保障に直結するため、迅速かつ正確に行う必要があります。特に建設業では、現場単位で労災保険の保険関係を成立させる必要があったり、一人親方が特別加入制度を利用したりするなど、特有の手続きが存在します。

4. 安全衛生管理

従業員の労働災害を防止し、安全と健康を確保するための取り組みです。労働安全衛生法に基づき、事業者は安全衛生管理体制を整える義務があります。

安全衛生管理における具体的な業務内容

管理項目 具体的な業務内容
安全教育 ・新規入場者教育、職長・安全衛生責任者教育
・危険予知(KY)活動の推進、特別教育の実施
健康管理 ・定期健康診断、雇入れ時健康診断の実施
・特殊健康診断の結果管理と事後措置
作業環境 ・現場の安全パトロール、ヒヤリハット報告の収集・分析
・リスクアセスメントの実施支援

これらの活動を通じて、現場の危険要因を特定・除去し、安全な職場環境を形成します。

5. 就業規則の作成・運用

就業規則は、労働時間や賃金、服務規律などを定めた、いわば「会社のルールブック」です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。労務担当者は、法改正に合わせて就業規則の内容を定期的に見直し、変更した内容を従業員に周知徹底する役割を担います。

【IT活用】煩雑な建設業の労務管理を効率化する具体的な方法

手作業や旧来の方法に頼った労務管理は、担当者に大きな負担をかけるだけでなく、ヒューマンエラーのリスクも伴います。ITツールや専門家のサポートを適切に活用することで、業務の正確性と効率を飛躍的に向上させることが可能です。ここでは、すぐにでも検討できる具体的な効率化の方法を3つ紹介します。

パソコンとヘルメットが置かれ、建設業の労務管理がデジタル化されている様子

勤怠管理システムの導入

直行直帰や複数現場での稼働など、複雑な勤怠状況を正確に把握するためには、勤怠管理システムの導入が最も効果的です。

勤怠管理システムの主な機能とメリット

目的:労働時間の客観的かつ正確な記録、集計作業の自動化
主な機能
 ・スマートフォンやタブレットからのGPS打刻
 ・残業時間や休日出勤の自動計算
 ・各種給与計算ソフトとの連携
メリット:手作業によるミスや不正を防ぎ、リアルタイムで労働状況を可視化できます。これにより、「2024年問題」で定められた時間外労働の上限規制を遵守しやすくなります。

給与計算ソフトの活用

多様な賃金体系や手当が絡む建設業の給与計算は、専用の給与計算ソフトで自動化するのが賢明です。多くのソフトは勤怠管理システムと連携可能で、打刻データを取り込んで給与明細の発行までをシームレスに行えます。法改正に伴う保険料率の変更などにも自動でアップデート対応するため、常に正確な計算が可能です。

専門家(社会保険労務士)への相談

自社だけでの対応に限界を感じる場合は、労務管理の専門家である社会保険労務士(社労士)に相談するのも有効な選択肢です。特に、以下のような課題を抱えている企業にとっては、大きな助けとなります。
・就業規則を長年見直していない
・法改正に正しく対応できているか不安
・活用できる助成金について知りたい

専門家の客観的な視点を取り入れることで、潜在的な労務リスクを回避し、より健全な経営体制を構築できます。

建設業の労務で注意すべき法律と制度

建設業の労務管理は、数多くの法律や業界特有の制度と密接に関わっています。これらを正しく理解し、遵守することは、企業のコンプライアンス上、極めて重要です。特に「労働基準法」「労働安全衛生法」の二大法規に加え、近年の大きな変化である「建設キャリアアップシステム」や「2024年問題」への対応は必須です。

労働基準法と36協定

労働基準法は、労働時間や休日、賃金など、労働条件の最低基準を定めた法律です。建設業で特に重要なのが、時間外労働に関する「36(サブロク)協定」です。法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超えて従業員に労働させる場合は、必ずこの協定を締結し、労働基準監督署へ届け出なければなりません。

労働安全衛生法

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康の確保を目的とする法律です。建設現場における墜落・転落防止措置や、重機作業に関する安全基準など、具体的な遵守事項が数多く定められています。これらの規定に違反し労働災害を発生させた場合、事業者には厳しい罰則が科される可能性があります。

建設キャリアアップシステム(CCUS)

建設キャリアアップシステム(CCUS)は、技能者一人ひとりの就業実績や資格を業界横断で登録・蓄積する仕組みです。CCUSへの登録・活用は、技能者の処遇改善につながるだけでなく、事業者が公共工事の入札に参加する際の経営事項審査で加点評価されるなど、企業側にもメリットがあります。
[出典:国土交通省 建設キャリアアップシステム(CCUS)]

【罰則あり】2024年問題への対応

「2024年問題」とは、働き方改革関連法の適用により、2024年4月1日から建設業にも時間外労働の上限規制が罰則付きで適用されたことを指します。この規制への対応は、現在すべての建設事業者にとって喫緊の課題です。

時間外労働の上限規制のポイント

時間外労働の上限:原則として月45時間・年360時間。臨時的な特別な事情がある場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満などの上限を守る必要があります。

罰則の適用:上限規制に違反した場合、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されるおそれがあります。

求められる対応:勤怠管理のデジタル化による客観的な労働時間の把握、週休2日制の導入促進など、長時間労働の是正に向けた具体的な取り組みが不可欠です。

[出典:厚生労働省 時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務]

まとめ:適切な労務管理で、働きやすい建設現場を目指そう

本記事では、建設業における労務の重要性から具体的な仕事内容、遵守すべき法律や制度、そして業務効率化の方法までを網羅的に解説しました。

建設業の労務管理は、その専門性の高さから難しいイメージがあるかもしれません。しかし、適切な管理を徹底することは、単に法律を守るだけでなく、以下の好循環を生み出します。
・従業員の安全と健康が守られる
・従業員の定着率が向上し、人材不足が解消される
・生産性が向上し、企業の競争力が高まる
・企業の社会的信頼が高まり、受注機会が増える

まずは自社の労務管理の現状を把握し、ITツールの導入や専門家への相談など、できることから改善に着手することが、企業の持続的な成長への第一歩となるでしょう。

よくある質問

Q1. 建設業の労務管理で、一番大変なことは何ですか?
A1. 多くの企業で、現場ごと・従業員ごとに異なる労働時間を正確に把握する「勤怠管理」が課題となっています。直行直帰や天候による急な休日など、変動要素が多いため、管理が煩雑になりがちです。客観的な記録が難しく、残業代の未払いリスクにも繋がります。

Q2. 労務管理を効率化する方法はありますか?
A2. はい、勤怠管理システムや給与計算ソフトなどのITツールを導入することで、大幅な効率化が期待できます。例えば、スマートフォンアプリで打刻できる勤怠管理システムを導入すれば、従業員がどこにいても正確な労働時間をリアルタイムで記録できます。これにより、手作業による集計ミスや不正を防ぎ、労務担当者の負担を大幅に軽減できます。

Q3. 労務に関する相談はどこにすればよいですか?
A3. 労務管理に関する専門的な相談は、以下の窓口で行うことをおすすめします。
社会保険労務士(社労士):労務管理全般の専門家です。就業規則の作成や法改正への対応、助成金の申請など、具体的なアドバイスや手続きの代行を依頼できます。
労働基準監督署:労働基準法などの法律に関する相談や、行政指導に関する問い合わせに対応しています。
建設業団体:各都道府県の建設業協会などでは、会員企業向けに労務管理に関する相談窓口を設けている場合があります。

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