建設業で知っておきたい主要法律8選とは?

この記事の要約
- 建設業の事業運営に不可欠な8つの重要法律を解説
- 法律違反が引き起こす行政処分や罰金などのリスク
- 法令遵守(コンプライアンス)が企業価値を高める
建設業で法律の遵守が不可欠な理由
建設業は、公共の安全や社会インフラに直結するため、数多くの法律によって厳しく規制されています。これらの法律を正しく理解し遵守する「コンプライアンス(法令遵守)」は、単なる義務に留まりません。企業の信頼性を担保し、持続的な成長を遂げるための経営基盤そのものであると言えます。この章では、建設業界においてなぜ法律知識が不可欠なのか、その重要性を解説します。
「知らなかった」では済されない建設業の法律知識
建設業を営むには、建設業法に基づく許可の取得から、個々の工事現場における安全管理、労働者の雇用条件、廃棄物の処理方法に至るまで、事業のあらゆる場面で法律が関わってきます。これらの規制は、労働災害の防止、建造物の安全確保、公正な取引の実現などを目的として定められています。万が一、意図せず法律に違反してしまった場合でも、「知らなかった」という言い訳は通用しません。違反が発覚すれば、営業停止命令や許可の取消しといった厳しい行政処分、あるいは罰金や懲役などの刑事罰が科されるリスクがあります。
コンプライアンスが企業の信頼性を高める
法律を遵守する姿勢を徹底することは、企業の社会的信頼を構築する上で最も重要な要素です。発注者や金融機関は、コンプライアンス体制が整備されている企業を信頼し、安心して取引を行います。特に公共事業の入札においては、過去の法令違反歴が厳しくチェックされるため、法令遵守は受注機会の確保に直結します。また、従業員にとっても、安全で公正な労働環境を提供する企業は魅力的であり、優秀な人材の確保と定着にも繋がるでしょう。このように、コンプライアンスは企業を守る「盾」であると同時に、成長を促進する「武器」にもなるのです。
【一覧】建設業に関わる主要な法律8選
建設業界には数多くの関連法律が存在しますが、その中でも特に事業の根幹に関わる重要な8つの法律をピックアップしました。これらの法律は、事業許可、建物の安全性、労働者の保護、取引の公正性など、建設業の根幹をなすテーマを網羅しています。自社の事業にどの法律が、どのように関わるのかを正確に把握することが、健全な企業経営の第一歩です。

以下は、建設業に関連する主要な8つの法律とその目的をまとめた表です。
| 法律名 | 主な目的 |
|---|---|
| 建設業法 | 建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進する。 |
| 建築基準法 | 建築物の敷地、構造、設備、用途に関する最低の基準を定め、国民の生命、健康、財産の保護を図る。 |
| 労働安全衛生法 | 職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進する。 |
| 労働基準法 | 労働条件に関する最低基準を定め、労働者の基本的な権利を保護する。 |
| 廃棄物処理法 | 廃棄物の排出を抑制し、適正な処理を行うことで、生活環境の保全と公衆衛生の向上を図る。 |
| 下請代金支払遅延等防止法 | 親事業者の下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まり、下請事業者の利益を保護する。 |
| 独占禁止法 | 私的独占、不当な取引制限(カルテル・談合など)、不公正な取引方法を禁止し、公正かつ自由な競争を促進する。 |
| 製造物責任法(PL法) | 製造物の欠陥によって生命、身体、財産に損害が生じた場合の製造業者等の損害賠償責任について定める。 |
1. 建設業法
建設業法は、建設業を営む上での最も基本的なルールを定めた法律です。
- 建設業法のポイント
・目的
建設工事の品質確保、発注者の保護、建設業界全体の健全な発展。・主な規定
一定規模以上の工事を請け負うために必要な「建設業許可」制度、工事請負契約における書面の交付義務、一括下請負(丸投げ)の原則禁止など。・建設業でのポイント
事業を開始する際の許可取得はもちろん、契約や施工体制に関するルールを遵守することが事業継続の前提となります。
[出典:国土交通省 建設業法]
2. 建築基準法
建築基準法は、私たちが利用する建物の安全性を確保するための法律です。
- 建築基準法のポイント
・目的
国民の生命、健康、財産の保護。・主な規定
建物を建てる際の敷地、構造、設備、用途に関する最低基準。具体的には、地震に耐えるための耐震基準、火災の延焼を防ぐための防火・耐火基準など。・建設業でのポイント
設計図通りに施工することはもちろん、最新の基準に適合しているかを確認する義務があります。違反建築は企業の信用を根本から揺るがします。
[出典:e-Gov法令検索 建築基準法]
3. 労働安全衛生法
労働安全衛生法は、建設現場をはじめとするあらゆる職場で、労働者の安全と健康を守るための法律です。
- 労働安全衛生法のポイント
・目的
労働災害を防止し、労働者の安全と健康を確保すること。・主な規定
安全衛生管理体制(総括安全衛生管理者等の選任)の整備、危険な作業を行う際の作業主任者の配置、労働者に対する安全衛生教育の実施など。・建設業でのポイント
特に墜落・転落災害や建設機械による事故が多い建設現場では、具体的な危険防止措置の実施が厳しく求められます。
[出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生法]
4. 労働基準法
労働基準法は、労働者の労働条件に関する最低基準を定めた法律です。
- 労働基準法のポイント
・目的
労働者の基本的な権利を保障し、安心して働ける環境を確保する。・主な規定
労働時間、休日、休憩、賃金の支払い、有給休暇など。・建設業でのポイント(2024年問題)
2024年4月1日から、建設業にも罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されました。これにより、時間外労働は原則として年720時間以内などに制限されます。
[出典:厚生労働省 時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務]
5. 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)
廃棄物処理法は、建設工事で発生する産業廃棄物が不適切に処理されることを防ぎ、生活環境を守るための法律です。
- 廃棄物処理法のポイント
・目的
廃棄物の適正な処理による生活環境の保全と公衆衛生の向上。・主な規定
排出事業者(元請業者)の廃棄物処理責任、産業廃棄物管理票(マニフェスト)による管理の徹底など。・建設業でのポイント
不法投棄は厳しい罰則の対象となります。解体工事などで発生する廃棄物の種類に応じて、適切な許可を持つ処理業者に委託する必要があります。
[出典:環境省 廃棄物の処理及び清掃に関する法律]
6. 下請代金支払遅延等防止法(下請法)
下請法は、元請負人(親事業者)と下請負人(下請事業者)との間の取引を公正に保ち、立場の弱い下請事業者を保護するための法律です。
- 下請法のポイント
・目的
下請事業者の利益を保護し、取引を適正化すること。・主な規定
親事業者に対する発注書面の交付義務、下請代金の支払期日を定める義務、不当な代金の減額や買いたたきの禁止など。・建設業でのポイント
重層的な下請構造が一般的な建設業界では、協力会社との良好な関係を築く上で、この法律の遵守が極めて重要です。
[出典:公正取引委員会 下請代金支払遅延等防止法]
7. 独占禁止法
独占禁止法は、公正で自由な市場競争を守るための法律です。
- 独占禁止法のポイント
・目的
公正かつ自由な競争を促進すること。・主な規定
私的独占、不当な取引制限(カルテル・入札談合など)、不公正な取引方法の禁止。・建設業でのポイント
特に公共工事などの入札において、同業者間で受注価格や受注者を事前に取り決める入札談合は、企業の存続を揺るがす重大な違反行為とされます。
[出典:公正取引委員会 独占禁止法]
8. 製造物責任法(PL法)
製造物責任法(PL法)は、施工した建物などの「製造物」の欠陥によって損害が生じた場合の、施工業者の損害賠償責任を定めた法律です。
- 製造物責任法(PL法)のポイント
・目的
製造物の欠陥による被害者を保護すること。・主な規定
被害者側が事業者の「過失」を証明しなくても、製造物に「欠陥」があったことを証明できれば、損害賠償を請求できる。・建設業でのポイント
施工ミスや設計上の問題が原因で雨漏りや構造上の欠陥が発生し、利用者に損害を与えた場合、この法律に基づき賠償責任を負う可能性があります。
[出典:消費者庁 製造物責任(PL)法]
建設業の法律違反で起こりうるリスクとは?
建設業に関わる法律に違反した場合、企業はどのようなペナルティを受けるのでしょうか。そのリスクは、単に罰金を支払えば済むという単純なものではありません。事業の継続そのものを困難にするような、多岐にわたる深刻な影響が考えられます。ここでは、法律違反によって企業が直面する具体的なリスクを解説します。

以下は、法律違反によって起こりうる主なリスクを種類別に整理した比較表です。
| リスクの種類 | 具体例 | 関連する法律の例 |
|---|---|---|
| 行政処分 | ・営業停止命令 ・建設業許可の取消し ・公共事業への指名停止 |
建設業法、廃棄物処理法 |
| 刑事罰 | ・懲役 ・罰金 |
労働安全衛生法、独占禁止法 |
| 民事上の責任 | ・損害賠償請求 | 建築基準法、製造物責任法(PL法) |
| 社会的信用の失墜 | ・取引先からの契約解除 ・金融機関からの融資停止 ・人材採用の困難化 |
全ての法律違反に関わる |
行政処分(営業停止・許可取消しなど)
法律違反が監督官庁(国土交通省や都道府県など)によって認定されると、行政処分が下されます。処分の内容は違反の重さに応じて異なりますが、最も軽いもので指示処分(是正勧告)、重いものでは営業停止命令や、事業の根幹である建設業許可の取消しに至るケースもあります。営業停止になればその期間の売上はゼロになり、許可が取り消されれば、事実上、建設業を営むことができなくなります。
刑事罰(懲役・罰金)
特に悪質な法律違反や、重大な結果を引き起こした場合には、行政処分だけでなく刑事罰の対象となります。例えば、安全対策を怠った結果、死亡事故などの重大な労働災害を発生させた場合は労働安全衛生法違反として、経営者個人が懲役刑や罰金刑に処される可能性があります。また、公共工事の入札で談合を行った場合は独占禁止法違反として、会社に多額の罰金が科されるとともに、関与した役員や従業員も刑事罰を受けることがあります。
社会的信用の失墜
法律違反がもたらす最大のダメージは、目に見えない「社会的信用」の失墜かもしれません。法律違反の事実はニュースなどで報道され、企業の評判は一瞬にして地に落ちます。その結果、次のような事態を引き起こす可能性があります。
- 社会的信用失墜による影響
・取引先からの契約打ち切りや新規取引の停止
・金融機関からの融資の引き揚げや条件の厳格化
・優秀な人材の離職や、新規採用活動の困難化
・消費者や地域住民からの不信感
一度失った信頼を回復するには、長い年月と多大な努力が必要です。企業の存続を根本から揺るがす、最も深刻なリスクと言えるでしょう。
まとめ
本記事では、建設業で事業を行う上で最低限知っておきたい主要な法律8選と、法律に違反した場合の深刻なリスクについて解説しました。
建設業に関わる法律は多岐にわたりますが、企業の健全な発展のために、特に以下の3つのポイントを意識することが不可欠です。
- 建設業コンプライアンスの3つの要点
*1. 建設業法と建築基準法が事業の基本
適正な許可の取得と、安全な建物の提供が全ての土台です。事業の根幹をなすこの2つの法律への深い理解が求められます。*2. 労働関連法規の遵守が人材確保の鍵
労働者の安全と公正な労働条件を守ることは、企業の社会的責任であると同時に、人材不足が深刻化する業界で選ばれる企業になるための重要な戦略です。*3. コンプライアンス意識が企業を守る
法律知識を常に最新の状態に保ち、経営層から現場の従業員まで、全社的に法令遵守の意識を徹底することが、あらゆるリスクから会社を守る最善の策となります。
これらの法律を正しく理解し遵守する体制を構築することで、企業の信頼性を高め、社会から必要とされる企業として持続的な成長を目指しましょう。
建設業の法律に関するよくある質問
Q. 特に重要な法律はどれですか?
A. 全ての法律が重要ですが、事業運営の根幹という意味では「建設業法」が最も基本となります。また、建造物の安全に直結する「建築基準法」と、従業員の生命と健康を守る「労働安全衛生法」も、極めて重要性の高い法律です。これら3つは、特に優先して理解を深めるべきでしょう。
Q. 法律について、どこに相談すればよいですか?
A. 法律に関する専門的な相談は、目的に応じて相談先を選ぶのが効率的です。
・一般的な法律相談・トラブル対応:弁護士
・建設業許可などの許認可手続き:行政書士
・労働環境や社会保険関連:社会保険労務士
また、各都道府県の建設業担当部署や、地域の建設業協会、商工会議所などが相談窓口を設けている場合もあります。
Q. 最新の法改正情報はどこで確認できますか?
A. 法律は社会情勢の変化に合わせて改正されます。最新の情報を得るためには、一次情報源を確認するのが最も確実です。
・国土交通省:建設業法、建築基準法など
・厚生労働省:労働安全衛生法、労働基準法など
・環境省:廃棄物処理法など
これらの省庁のウェブサイトでは、法改正の概要や施行時期などが公表されています。




