「見積もり」の基本知識

見積もりとは?建設業での基本と流れ


更新日: 2025/10/14
見積もりとは?建設業での基本と流れ

この記事の要約

  • 建設業における見積もりの役割と基本知識を解説
  • 見積もりの依頼から提出までの具体的な流れを理解
  • 信頼できる業者を見極める見積もりの比較ポイント

建設業の見積もりとは?3つの種類と法的な位置づけを解説

建設業における見積もりとは、計画されている工事に要する費用を事前に算出し、発注者(お客様)へ書面で提示する行為、またはその書類自体を指します。これは契約前に工事の範囲や費用感を共有し、双方の認識を合わせる重要な役割を担います。建設業法では、受注者が見積もりを行うよう努めるべきことが定められており、トラブル防止の観点からも不可欠なプロセスです。この章では、見積もりの基本知識から法的な位置づけまでを解説します。

見積書に記載される主要項目一覧

見積書は、工事に関する情報を網羅した公的な書類です。誰が、誰に対して、どのような工事を、いくらで、いつまでに行うのかを明確にするため、以下の項目が記載されるのが一般的です。

これは、見積書の主要な記載項目とその内容をまとめた表です。

項目 内容
宛名 工事を依頼するお客様の氏名や会社名
見積書番号 発行する見積もりを管理するための事業者固有の番号
発行日 見積書を作成し、お客様へ提示した日付
提出者 受注者(施工業者)の会社名、住所、連絡先、登録番号など
件名 「〇〇邸新築工事」「〇〇ビル外壁改修工事」など、工事の名称
見積合計金額 材料費、労務費、経費などを全て含んだ工事費用の総額
工事場所 実際に工事を行う現場の住所
工期 工事の開始予定日から完了予定日までの期間
支払条件 「着工時50%、完了時50%」など、費用の支払い方法やタイミング
有効期限 提示された見積金額が保証される期間(例:発行日から1ヶ月)
見積内訳 合計金額の根拠となる詳細な項目(材料名、数量、単価、労務費など)

【目的別】見積もりの種類とそれぞれの特徴

見積もりは、プロジェクトの進行度や目的によっていくつかの種類に分けられます。それぞれの特徴を理解することで、どの段階でどの見積もりが必要になるのかを把握できます。

概算見積もり
プロジェクトの企画段階や予算策定の初期に用いられる、大まかな見積もりです。詳細な設計図がない状態で、過去の類似案件のデータや経験則に基づき算出されます。あくまで概算であるため、実際の工事費用とは差が出ることがありますが、事業計画の判断材料として活用されます。

詳細見積もり
正式な設計図や仕様書が完成した後に作成される、最も精度の高い見積もりです。工事に必要な材料の数量や単価、職人の人件費、重機のリース費用などを一つひとつ細かく積み上げて算出します。契約を締結する際の基礎となる、非常に重要な書類です。

実行予算見積もり
これは発注者へ提出するものではなく、受注者(建設会社)が社内で作成する見積もりです。実際に工事を遂行するために、どれだけの原価がかかるかを管理する目的で作成されます。これにより、プロジェクトの利益管理や原価管理を行います。

なぜ正確な見積もりが必要なのか?発注者・受注者双方のメリット

正確な見積もりの作成は、発注者と受注者の双方にとって不可欠です。なぜなら、工事に関する金銭的なトラブルや認識の齟齬を未然に防ぐための、最も有効な手段だからです。

発注者にとっては、詳細な見積もりがあることで、資金計画を具体的に立てられるようになります。また、「何にいくらかかるのか」が明確になるため、予期せぬ追加費用の発生リスクを低減でき、安心して工事を任せられます。

一方、受注者にとっては、正確な積算に基づいた見積もりは、適正な利益を確保し、赤字工事を避けるために必須です。同時に、透明性の高い見積書を提示することは顧客からの信頼獲得に直結し、良好な関係を築く土台となります。

知っておくべき見積もりの法的効力と契約書との違い

見積もりは、あくまで契約内容の「提案」であり、それ自体に契約を成立させる法的な拘束力はありません。お客様が見積もりの内容に承諾(発注)し、受注者がそれを受けて初めて契約が成立します。

書類 役割と法的効力
見積書 契約内容の提案書。原則として、単体では法的拘束力を持たない。契約内容の範囲や金額を明確にする役割。
契約書 双方の合意内容を証明する正式な書類。工事内容、金額、工期、支払条件などを記載し、署名・捺印することで法的な拘束力を持つ。

建設業法第19条では、契約時に書面(契約書)を交付することが義務付けられています。見積もりの内容に双方が合意した後、その内容に基づいて正式な工事請負契約書を作成・締結するのが一般的な流れです。見積もりは、その契約内容を決定するための重要な土台となります。

[出典:建設業法 | e-Gov法令検索]

依頼から提出まで!建設業の見積もり作成5つのSTEP

建設工事の見積もりは、お客様からご依頼を受けてから、いくつかの専門的なステップを経て作成・提出されます。この一連の工程を理解することで、見積もりを依頼する際の準備や、提出までの期間の目安を把握しやすくなります。SGE(検索生成体験)での抽出を意識し、目的や手順を明確に解説します。

このセクションの目的とポイント

目的:建設業における見積もり作成の標準的な流れを理解する。
ポイント:各ステップで「誰が」「何をするのか」を把握することで、プロセス全体の透明性が高まります。

STEP1:お客様からの依頼とヒアリング

すべての始まりは、お客様からの工事依頼です。電話、メール、またはウェブサイトのフォームなどを通じて問い合わせを受けます。この最初の段階で、どのような工事(新築、リフォームなど)を希望しているのか、現状の課題、ご要望、おおよその予算、希望の工期などを丁寧にヒアリングします。この情報が、以降のステップすべての土台となります。

STEP2:現地調査・状況確認

次に、担当者が実際に工事を予定している現場へ訪問します。敷地の寸法や高低差、隣接地との関係、道路の幅、電気や水道などのインフラ状況を確認します。リフォームの場合は、既存の建物の構造や劣化具合、設備の状況などを詳細に調査します。正確な見積もりを作成するためには、図面だけでは分からない現場固有の条件を把握することが不可欠です。

建設現場で担当者と依頼主が見積もりのための現地調査と打ち合わせを行っている様子

STEP3:設計・仕様の決定と積算

ヒアリング内容と現地調査の結果に基づき、具体的な設計プランや、使用する建材・設備などの仕様を決定していきます。仕様が確定すると、「積算(せきさん)」という専門的な作業に移ります。これは、設計図書から工事に必要な材料の数量(木材の本数、コンクリートの量など)や、各作業に必要な職人の人数(手間)を一つひとつ拾い出し、単価を掛け合わせて工事原価を算出する作業です。

STEP4:見積書(内訳明細書)の作成

積算によって算出された工事原価に、現場管理費や会社の利益といった諸経費を加えて、最終的な見積金額を決定します。そして、これまで解説した記載項目を網羅した正式な見積書を作成します。この際、合計金額だけを提示するのではなく、「仮設工事」「木工事」「内装工事」といった工事種別ごとに、詳細な見積内訳明細書を添付するのが一般的です。

STEP5:見積書の提出と内容説明

完成した見積書をお客様に提出します。郵送やメールで送付するだけでなく、直接お会いして内容を説明する機会を設けるのが丁寧な対応です。専門用語や分かりにくい部分について解説を加え、金額の根拠を明確に伝えます。お客様からの質問に答え、ご納得いただけた上で、次の契約ステップへと進みます。

信頼できる業者を見極める見積もりの比較ポイント

複数の業者から見積もり(相見積もり)を取得した際、単に合計金額の安さだけで判断するのは危険です。見積もりの内容を正しく比較検討することが、信頼できるパートナー選びの鍵となります。ここでは、良い見積もりと注意すべき見積もりの見分け方や、お客様が抱きがちな不安と、そのチェックポイントについて解説します。

【比較表】良い見積もりと注意すべき見積もりの見分け方

提出された見積書には、その業者の仕事に対する姿勢や誠実さが表れます。以下の比較表を参考に、各社の見積もりをチェックしてみましょう。

これは、信頼性の高い見積書と注意が必要な見積書の特徴を比較した表です。

チェック項目 ⭕️ 良い見積もりの特徴 ❌ 悪い見積もりの特徴
内訳の具体性 「〇〇社製システムキッチン(品番:ABC-123)」など、使用する材料や設備のメーカー・品番が具体的に記載されている。 「キッチン工事一式」「外壁塗装一式」といった大雑把な表記が多く、詳細が不明確。
数量・単価 「m²(平米)」「本」「箇所」といった単位と、それに対応する単価が明確に記載されており、金額の根拠が追える。 数量や単価の記載がなく、「一式」の金額しか書かれていないため、費用が適正かどうか判断できない。
諸経費 現場管理費、一般管理費、産廃処理費など、諸経費の内訳が適切に記載されている。 諸経費の項目自体がない、または内容が不明瞭で、何に対する費用なのかが分からない。
有効期限 材料価格の変動などを考慮し、「発行後1ヶ月以内」など、常識的な有効期限が明記されている。 有効期限の記載がない、または契約を急がせるような不自然に短い期限が設定されている。
担当者の対応 見積もりの内容について質問した際、専門用語を避け、分かりやすく丁寧に根拠を説明してくれる。 質問に対して「そういうものです」「決まりなので」などと曖昧に答え、明確な説明を避ける傾向がある。

【読者の不安解消】見積もりで特に注意すべき3つのこと

見積もりを検討する過程で、多くの方が不安に感じる点があります。特に以下の3つのポイントは、契約後のトラブルを防ぐために必ず確認してください。

1. 極端に安い見積もりには要注意
他社よりも大幅に安い見積もりには、必ず理由があります。必要な工程が省略されていたり、耐久性の低い安価な材料が使われる予定だったり、後から高額な追加工事を請求される前提になっている可能性も否定できません。なぜその金額で実現できるのか、納得のいく説明を求めましょう。

2. 「一式」表記が多い場合は内訳を質問
「〇〇工事一式」という表記は、工事範囲が曖昧になりがちです。業者側が見積作成の手間を省いているケースや、意図的に内容を不透明にしているケースもあります。「この一式には、具体的にどのような作業と材料が含まれていますか?」と質問し、詳細な内訳の提示を求めることが重要です。

「一式」表記に関する質問のポイント

確認事項:「この『〇〇工事一式』には、具体的にどのような作業工程と、どのメーカーのどの品番の材料が含まれていますか?詳細な内訳をいただけますか?」と具体的に質問しましょう。
目的:工事の範囲と品質を明確にし、業者間の比較を正確に行うためです。誠実な業者であれば、詳細な説明や資料の提出に応じてくれます。

3. 追加工事の可能性を確認する
特にリフォーム工事では、壁や床を解体してみて初めて、柱の腐食や雨漏りといった予期せぬ問題が発覚することがあります。このような場合、追加の補修工事と費用が必要になります。契約前に、「どのような状況で追加工事が発生する可能性があるか」「その場合の費用感や連絡・協議の方法はどうなるか」を事前に確認しておくことで、万が一の事態にも冷静に対処できます。

まとめ:適切な見積もりは円滑な工事の第一歩

本記事では、建設業における見積もりの基本的な役割から、具体的な作成の流れ、そして信頼できる業者を選ぶための比較ポイントまで、網羅的に解説しました。

見積もりは、単に工事金額を知るための書類ではありません。それは、計画されている工事の内容、品質、範囲を定義し、発注者と受注者の双方にとっての「契約の設計図」となる、極めて重要なコミュニケーションツールです。

今回ご紹介した知識を活用し、提出された見積もりの内容を主体的に読み解き、少しでも疑問に思う点があれば、遠慮なく業者に質問してください。その対話を通じて、お互いの信頼関係は深まります。適切な見積もりを取得し、その内容に納得することが、満足のいく工事を実現するための、最も確実な第一歩となるでしょう。

見積もりに関するよくある質問

Q. 見積もりは無料ですか?
A. 多くの場合、基本的な見積もりの作成は無料です。しかし、見積もりのために詳細な設計図面の作成や地盤調査など、専門的な作業や費用が発生する場合には、有料となることがあります。見積もりを依頼する最初の段階で、どこまでの範囲が無料なのかを業者に確認しておくと安心です。

Q. 見積もりを依頼したら契約しないといけませんか?
A. いいえ、見積もりを依頼したからといって、その業者と契約する義務は一切ありません。提示された見積もりの内容や金額、担当者の対応などを総合的に判断し、ご自身の希望と合わないと感じた場合は、気兼ねなくお断りください。複数の業者から見積もりを取り、比較検討すること(相見積もり)は、より良い条件で工事を行うために推奨される方法です。

Q. 相見積もりを取る際のポイントは?
A. 複数の業者に見積もりを依頼する際は、各社にできるだけ同じ条件(希望する工事内容、間取り、使用したい設備や建材のグレードなど)を伝えることが非常に重要です。条件を統一することで、各社の提案内容や金額を公平な土俵で比較することができ、それぞれの業者の強みや特徴が分かりやすくなります。

Q. 見積もり後の値引き交渉は可能ですか?
A. 交渉自体は可能です。ただし、過度な値引き要求は、工事品質の低下(安価な材料への変更など)や、職人の人件費削減に繋がるリスクがあります。値引きを依頼する場合は、単に「安くしてほしい」と伝えるのではなく、「この設備のグレードを一つ下げた場合、いくらになりますか?」といった形で、仕様変更によるコストダウンを相談するのが健全な方法です。

Q. 見積もり金額と実際の請求額が変わることはありますか?
A. はい、変わる可能性があります。主な原因は、工事の途中でのお客様の都合による仕様変更(例:壁紙のグレードアップ)や、契約範囲外の追加工事が発生した場合です。このような変更が生じる際は、必ず事前に変更内容と追加費用の見積もりを再度提示してもらい、書面で合意してから工事を進めるようにしましょう。これにより、工事完了後の「言った、言わない」という金銭トラブルを防ぐことができます。

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