「見積もり」の基本知識

建設業の見積業務とは?基本を理解するためのガイド


更新日: 2025/10/21
建設業の見積業務とは?基本を理解するためのガイド

この記事の要約

  • 建設工事の見積もりは企業の利益を左右する重要な業務です
  • 見積もりは直接工事費や間接工事費などの項目で構成されます
  • 正確な見積もりは5つの基本的なステップに沿って作成します

建設業における見積もり業務の基本と重要性

建設プロジェクトの第一歩であり、企業の利益を左右する極めて重要な業務が見積もりです。この章では、建設業における見積もりの基本的な役割と、なぜ正確な見積もりがプロジェクトの成功に不可欠なのかを解説します。また、混同されがちな関連用語との違いも明確にします。

そもそも見積もりとは?その役割と目的

建設業における「見積もり」とは、発注者から提示された設計図書や仕様書に基づき、その工事を完成させるために必要となる費用を算出し、契約金額の提示として書面で提出する行為、またはその書類(見積書)自体を指します。これは、受注を決定づけるだけでなく、その後の工事全体の資金計画の基盤となる、非常に重要な役割を担っています。正確な見積もりは、発注者との信頼関係を築くための第一歩でもあります。

見積もりと「実行予算」「積算」の違い

見積もり業務を理解する上で、類似した用語との違いを知ることは重要です。それぞれの目的と対象が異なるため、以下の表でその関係性を整理します。簡単に言えば、「積算」という計算行為を経て、「見積もり」として発注者に提示し、受注後に社内管理用の「実行予算」を組むという流れになります。

【見積もり・積算・実行予算の比較表】

用語 目的 対象
見積もり 発注者に提示し、契約金額を決定する 発注者
積算 設計図書から材料や手間を拾い出し、工事費を算出する行為 見積もり作成の過程
実行予算 受注後に、利益を確保するための社内的な予算 自社(社内管理用)

正確な見積もりに欠かせない内訳(構成要素)

建設工事の見積もりは、様々な費用の積み重ねで成り立っています。見積書の金額がどのような要素で構成されているのかを理解することは、適正な価格設定と顧客への説明責任を果たす上で不可欠です。ここでは、見積書を構成する主な費用の内訳を解説します。

設計図面と電卓を使い建設費用の見積もり計算をする手元

直接工事費:工事に直接かかる費用

工事の施工に直接的に必要となる費用で、工事原価の中心を占めるものです。主に以下の3つの要素で構成されます。

材料費: 建設物そのものになる鉄筋、コンクリート、木材といった資材や材料の費用。
労務費: 現場で実際に作業を行う職人や作業員に支払われる人件費。
直接経費: 機械のリース費用、特許使用料、水道光熱費など、材料費・労務費以外で工事に直接かかる費用。

間接工事費:現場を運営するための費用

直接工事費には含まれないものの、工事全体を支え、現場を円滑に運営するために必要となる費用です。これを「共通費」と総称することもあります。

共通仮設費: 工事用の道路、仮設事務所、足場、養生シートなど、工事完了後には撤却される仮設物にかかる費用。
現場管理費: 現場監督や現場事務員などの給与、事務所の通信費や賃料、法定福利費、保険料など、工事現場を管理・運営するための費用。

一般管理費と利益

工事原価(直接工事費+間接工事費)に加えて、本社で働く従業員の給与や事務所の経費など、会社の経営を維持するために必要な費用が「一般管理費」です。そして、これら全ての費用を合計したものに、企業の持続的な経営のために必要となる「利益」を加えて、最終的な見積金額が算出されます。

建設業の見積もり作成の基本的な流れ【5ステップ】

精度の高い見積もりは、体系的な手順を踏むことで作成されます。ここでは、建設業における見積もり作成の基本的なプロセスを5つのステップに分けて解説します。この流れを理解することで、業務の全体像を把握し、抜け漏れを防ぐことができます。

建設現場でタブレットを見ながら打ち合わせをする2人の技術者

1. ステップ1:図面・仕様書の受領と内容確認
発注者から設計図書、仕様書、現場案内書などを受け取り、要求されている建物の規模、構造、品質、工期などを正確に読み解きます。数量や仕様に不明点や疑問点があれば、この段階で発注者に質問し、認識の齟齬をなくしておくことが重要です。

2. ステップ2:現地の調査(現地踏査)
実際に工事を行う現場へ赴き、土地の形状、地盤の状態、周辺環境、資材の搬入経路、インフラ(電気・水道)の状況などを自分の目で確認します。図面だけでは分からない現地の制約条件や潜在的なリスクを洗い出し、計画に反映させます。

3. ステップ3:工事費の積算(数量の拾い出しと単価設定)
図面から必要なコンクリートの量、鉄筋の本数、壁の面積といった資材の数量や作業量を算出する「数量拾い」を行います。そして、拾い出した数量にそれぞれの単価を掛け合わせて工事費を算出する「積算」を実施します。この積算の精度が、見積もり全体の精度を大きく左右する最も重要な工程です。

4. ステップ4:諸経費の計上と見積書の作成
積算で算出した直接工事費に、現場管理費や共通仮設費といった間接工事費、さらに一般管理費などを加えて全体の工事原価を算出します。そこに企業の利益を乗せて最終的な見積金額を決定し、定められた書式に従って内訳を明記した見積書を作成します。

5. ステップ5:提出と内容説明・調整
完成した見積書を発注者に提出します。提出後は、金額の根拠や工事内容について説明を求められることも多く、質疑応答を通じて発注者の理解を得ます。必要に応じて、仕様の変更に伴う再見積もりなど、内容の調整や交渉を行います。

見積もり業務でよくある課題と担当者の不安

見積もり業務は専門性が高く、担当者には大きなプレッシャーがかかります。ここでは、多くの企業や担当者が抱える典型的な課題や、初心者が感じやすい不安について解説し、その背景にある問題点を明らかにします。

【読者のよくある不安】拾い漏れや計算ミスが怖い

建設工事は使用する部材や工程が非常に多く、一つでも数量の拾い漏れや単価の計算ミスがあると、それが大きな赤字に直結する可能性があります。特に経験の浅い担当者にとっては、「自分のミスが会社の損失になるかもしれない」というプレッシャーが大きな負担となります。

専門知識の属人化と担当者への負担集中

見積もりには、建築法規、各種工法、最新の材料単価など、幅広い専門知識と豊富な経験が求められます。そのため、業務が特定のベテラン社員に集中しがちで、その人がいないと業務が滞ってしまう「属人化」が起こりやすい課題があります。

見積もり精度が会社の利益を左右するプレッシャー

安すぎる見積もりは受注できても赤字工事につながり、高すぎる見積もりは失注の原因となります。会社の利益に直結する重要な業務であるため、担当者は常に「適正価格」を見極めるという大きなプレッシャーの中で業務を行っています。

見積もり業務の精度と効率を上げるには?

見積もり業務が抱える「属人化」や「ヒューマンエラー」といった課題に対し、多くの企業が精度と効率の向上に取り組んでいます。ここでは、業務品質を高め、担当者の負担を軽減するための具体的なアプローチを2つ紹介します。

過去データの活用と標準化

過去に作成した膨大な見積もりデータは、企業の貴重な資産です。類似案件の見積もりを参考にすることで、積算のスピードと精度は飛躍的に向上します。また、社内で材料単価や歩掛かり(作業手間)の標準ルールを設け、データベース化することで、担当者ごとの判断のバラつきをなくし、業務の属人化を防ぐことができます。

見積もりソフト・システムの導入メリット

専用の見積もりソフトや積算システムを導入することは、最も効果的な解決策の一つです。これらのツールは、数量の自動計算、単価データベースとの連携、書類作成の自動化といった機能を備えており、拾い漏れや計算ミスといったヒューマンエラーを大幅に削減します。さらに、クラウド型のシステムであれば、複数人での情報共有やデータの一元管理も容易になり、業務全体の効率化に大きく貢献します。

まとめ:正確な見積もりが建設プロジェクト成功の第一歩

本記事では、建設業における見積もり業務の基本から、その構成要素、作成手順、そして業務上の課題と対策について解説しました。

見積もりは、単に工事の価格を提示するだけの作業ではありません。それは、プロジェクトの採算性を確保し、発注者との信頼関係を築き、最終的に工事を成功に導くための出発点となる、極めて重要なプロセスです。正確な積算、適切な経費計上、そして明確な根拠に基づいた価格提示が、企業の競争力と信頼性を支えます。

この記事で解説した基本を理解し、自社の見積もり業務の精度向上に役立ててください。

建設業の見積もりに関するよくある質問

Q. 見積もりに有効期限はありますか?
A. はい、一般的に有効期限を設定します。資材価格や労務単価は時期によって変動するため、「発行日から◯ヶ月」のように期限を設けるのが通例です。有効期限を記載することで、契約前に単価が変動してしまうリスクを避けることができます。

Q. 「相見積もり」とは何ですか?
A. 発注者が複数の業者から同じ条件で見積もりを取り、価格や内容を比較検討することです。「あいみつ」とも呼ばれます。施工業者を選定する際に、競争原理を働かせて適正な価格と品質の業者を見つけるために行われます。

Q. 見積もり作成に資格は必要ですか?
A. 見積もり業務自体に必須の国家資格はありません。しかし、建築士や建築施工管理技士などの資格保有者は、建築に関する深い知識を有しているため、精度の高い見積もり作成において有利であり、顧客からの信頼も得やすくなります。

[出典:国土交通省 公共建築工事積算基準等]

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