積算と見積もりの違いとは?初心者向けに整理

この記事の要約
- 積算と見積もりは目的と算出対象が明確に違う
- 積算は見積もりの根拠となる正確な原価計算
- 正しい手順を理解し企業の利益を確保しよう
- 目次
- 積算と見積もりの基本的な違い【早わかり比較表】
- 積算と見積もりは目的と役割が異なる
- 両者の連携がビジネスの成功を左右する
- 積算とは?その目的と重要性を深掘り
- 積算の目的は「正確な原価の把握」
- なぜ積算は重要なのか?
- 見積もりとは?その目的と作成プロセス
- 見積もりの目的は「契約金額の提示」
- 見積もり作成の一般的な流れ
- 積算と見積もりの関係性【流れで理解】
- 「積算」が土台、「見積もり」が最終提示
- 積算の精度が見積もりの質を決める
- 【初心者向け】積算と見積もりでよくある不安
- 計算が複雑で、合っているか不安…
- どこまでが経費に含まれるのか分からない…
- 利益はどのくらい乗せるのが適切?
- まとめ:積算と見積もりの違いを理解し、適切な価格設定を
- よくある質問
- Q. 積算を行わずに、見積もりだけを作成することはできますか?
- Q. 「実行予算」と「積算」は同じものですか?
- Q. 積算のスキルを身につけるにはどうすればよいですか?
積算と見積もりの基本的な違い【早わかり比較表】
「積算」と「見積もり」は、プロジェクトの価格を決める上でどちらも不可欠な工程ですが、その役割は明確に分かれています。積算が「事実に基づく技術的な原価計算」であるのに対し、見積もりは「市場や戦略を考慮した営業的な価格提示」です。このセクションでは、まず両者の本質的な違いを比較表で整理し、全体像を掴みましょう。
積算と見積もりは目的と役割が異なる
「積算」と「見積もり」は、一連の業務フローの中にありますが、その目的と担う役割は明確に異なります。一言でいえば、積算は「かかる費用の正確な算出」、見積もりは「提示する契約金額の決定」を指します。
この違いを理解するため、それぞれの役割を担う担当者の視点も加えてみましょう。積算は主に専門の積算担当者や設計・技術者が客観的な数値に基づいて行います。一方、見積もりは営業担当者などが、積算で算出された原価に利益や市場競争力を加味して最終決定します。
両者の具体的な違いを、以下の比較表で体系的に確認しましょう。
- 「積算」と「見積もり」の比較表
項目 積算 (せきさん) 見積もり (みつもり) 目的 工事や製品にかかる原価(コスト)を正確に算出すること 発注者に対して契約金額を提示すること 算出対象 材料費、労務費、経費などの内訳を一つずつ積み上げる 積算で算出した原価に、一般管理費や利益を加える 役割 技術的・客観的な原価計算 営業的・戦略的な価格決定 担当部署/役割 積算部、技術部、設計部など 営業部、事業部など 作成タイミング 見積もりを作成する前(土台) 積算が完了した後(仕上げ) 提出先 主に社内で利用 主に社外(発注者・クライアント)へ提出
両者の連携がビジネスの成功を左右する
このように、積算は見積もりを作成するための技術的な根拠となる、非常に重要な工程です。積算担当者が算出した正確な原価がなければ、営業担当者は自信を持って価格交渉に臨むことができません。両者の役割を正しく理解し、部門間で正確に情報連携を行うことが、企業の利益を最大化する鍵となります。次の章から、それぞれの内容をより詳しく解説していきます。
積算とは?その目的と重要性を深掘り
このセクションでは、対策キーワードでもある「積算」に焦点を当て、その本質的な目的とビジネスにおける重要性を深掘りします。積算とは、単なる計算作業ではありません。設計図や仕様書という「計画」を、具体的な「金額」という現実に落とし込むための不可欠なプロセスです。企業の利益を根底から支える、この重要な業務について詳しく見ていきましょう。
積算の目的は「正確な原価の把握」
積算の最大の目的は、プロジェクトにかかる費用、つまり原価を正確に把握することです。ここでの原価とは、利益を含まない純粋なコストを指します。具体的には、設計図や仕様書をもとに、必要な材料の数量や作業員の人数(工数)、機械の使用時間などを一つひとつ拾い出し、それぞれの単価を掛け合わせて費用を算出します。
この作業は、以下の要素を積み上げていくことで構成されます。
・直接工事費:材料費、労務費、機械のレンタル代など、工事に直接必要な費用。
・間接工事費(共通費):現場監督の給与や事務所の費用など、複数の工事に共通してかかる費用。
この作業により、利益を考慮する前の「純粋なコスト」が明らかになり、これが後の価格設定の絶対的な基準となります。

なぜ積算は重要なのか?
積算は、企業の利益を左右する生命線ともいえる重要な業務です。その重要性は、以下の3つの側面に集約されます。
- 積算の3つの重要性
・適正な価格設定のため
正確な原価が分からなければ、確保すべき利益を乗せた適正な見積もり金額を提示できません。原価把握が曖昧なままでは、感覚的な価格設定に陥り、企業の収益性を著しく損なう危険性があります。・予算管理のため
積算によって算出された原価は、契約後に作成される実行予算の基礎情報となります。プロジェクトが予算内で進行しているかを管理し、万が一コストが超過しそうになった場合に早期に対策を打つための重要な指標となります。・リスク回避のため
原価を低く見積もりすぎると、受注できても利益が出ない「赤字工事」になるリスクがあります。逆に、高く見積もりすぎると競合他社に価格で負けてしまい「失注」のリスクが高まります。精度の高い積算は、これらのビジネスリスクを最小限に抑え、企業の持続的な成長を支えます。
見積もりとは?その目的と作成プロセス
積算によって原価が明らかになった後、次に行われるのが「見積もり」の作成です。このセクションでは、見積もりの目的と、実際にクライアントへ提出されるまでの具体的なプロセスを解説します。積算が社内向けの緻密な計算であるのに対し、見積もりは社の利益を乗せ、交渉のスタートラインとなる社外向けの公式な意思表示です。
見積もりの目的は「契約金額の提示」
見積もりの目的は、クライアントや発注者に対して「この金額で契約してください」と正式に提示することです。この提示金額は「見積価格」と呼ばれ、単なる原価の合計ではありません。
見積価格は、一般的に以下の構成で成り立っています。
見積価格 = 直接工事費 + 間接工事費 + 一般管理費 + 利益
積算で算出した原価(直接工事費+間接工事費)に加えて、本社スタッフの人件費や事務所の家賃といった、会社の運営全体に必要な一般管理費、そして会社の事業継続と成長のために不可欠な利益が含まれます。つまり、見積もりとは、企業の専門知識や技術、管理能力といった付加価値を価格に反映させ、ビジネスとして成立させるための最終的な金額提示なのです。
見積もり作成の一般的な流れ
見積もりは、積算という内部プロセスを経て、顧客への価値提供という外部プロセスへとつながる橋渡しの役割を担います。その作成は、以下のような流れで行われるのが一般的です。
- 見積もり作成の4ステップ
1. クライアントからの依頼(引き合い)
発注者から、プロジェクトの概要が記載された仕様書や設計図とともに、見積もりの作成依頼を受けます。この段階で、要求される品質や納期などを正確にヒアリングすることが重要です。2. 積算の実施
受け取った資料をもとに、専門の担当者が原価を算出します。前述の通り、材料費や労務費などを一つひとつ正確に積み上げ、プロジェクトの純粋なコストを明らかにします。3. 利益・経費の加算
積算で算出した原価に、一般管理費や確保したい利益を上乗せします。この利益率は、市場の相場、競合の状況、自社の経営戦略などを考慮して慎重に決定されます。4. 見積書の作成・提出
最終的な契約希望金額、工事や業務の範囲、納期、支払い条件などを明記した見積書を作成します。この書類が、クライアントとの契約交渉のベースとなる公式な文書となります。
積算と見積もりの関係性【流れで理解】
ここまで積算と見積もりをそれぞれ個別に解説してきましたが、両者は切り離せない一連のプロセスです。このセクションでは、設計図の確認から見積書の提出まで、両者がどのように連携し、一つの流れを形成しているのかを具体的に解説します。この関係性を理解することで、なぜ精度の高い積산が重要なのかが一層明確になります。
「積算」が土台、「見積もり」が最終提示
これまで解説してきたように、積算と見積もりは密接に関連しており、「積算 → 見積もり」という順番で作業が行われます。この関係性を無視することはできません。家を建てる際に、基礎工事なしに柱を立てられないのと同じで、積算という土台なくして、適切な見積もりという構造物は成り立ちません。
この一連の流れを、具体的なステップで見ていきましょう。
- 【STEP1】設計図・仕様書の確認
目的:プロジェクトの全体像と要求事項を正確に把握します。
内容:クライアントから提供された資料を読み込み、どのような材料がどれだけ必要で、どのような工法が求められているのかを確認します。
- 【STEP2】積算
目的:プロジェクトの実行にかかる原価を算出します。
内容:STEP1で確認した情報に基づき、必要な材料や人件費などの原価を一つずつ正確に計算します。この段階では、まだ利益は含まれません。
- 【STEP3】見積もり
目的:契約金額を決定します。
内容:積算で算出した原価に、会社の利益や一般管理費などを上乗せし、クライアントに提示する最終的な契約金額を決定します。
- 【STEP4】見積書の提出
目的:クライアントへ契約金額を正式に提示します。
内容:STEP3で決定した最終金額や業務範囲などを記載した書類を作成し、クライアントに渡して契約交渉を開始します。

積算の精度が見積もりの質を決める
この流れから分かるように、積算の精度が低ければ、その後の見積もり金額の妥当性も揺らいでしまいます。例えば、積算段階で材料の拾い漏れがあれば、その分のコストが原価に反映されず、結果的に利益を圧迫したり、最悪の場合は赤字になったりします。逆に、過剰に積算してしまうと、見積もり金額が高くなりすぎて失注の原因となります。精度の高い積算こそが、適正な価格での受注と、企業の利益確保に直結するのです。
【初心者向け】積算と見積もりでよくある不安
積算や見積もりは専門性が高く、特に業務に慣れないうちは多くの不安や疑問が生じるものです。このセクションでは、初心者が抱きがちな3つの典型的な悩みを取り上げ、それらに対する具体的な考え方や解決策を解説します。これらのポイントを押さえることで、自信を持って業務に取り組む助けとなるでしょう。
計算が複雑で、合っているか不安…
はい、特に初心者のうちは、膨大な項目の計算ミスや拾い漏れが不安になることが多いです。まずは、国土交通省が定める公共建築工事の積算基準のような公的な資料や、社内で蓄積された過去のデータを参考に、一つひとつ丁寧に作業を進めることが大切です。また、近年では積算専用のソフトウェアも多く登場しており、手作業に比べて計算ミスを劇的に減らし、作業を大幅に効率化できます。ソフトウェアの導入も視野に入れ、ダブルチェックの体制を組むなど、ミスを減らす工夫をしましょう。
[出典:国土交通省 公共建築工事積算基準等]
どこまでが経費に含まれるのか分からない…
積算で算出する直接経費(機械レンタル代など)と、見積もりで加算する一般管理費(本社の家賃や事務員の人件費など)の区別は、慣れるまで難しいかもしれません。この区分は、企業の会計ルールや業界の慣習によっても異なります。まずは自社の過去の見積書や原価管理のルールを確認することが第一歩です。不明な点があれば、決して自己判断せず、上司や先輩に積極的に質問し、知識を深めていくことが重要です。
利益はどのくらい乗せるのが適切?
適切な利益率は、プロジェクトの規模や技術的な難易度、工期、競合他社の状況など、様々な要因によって変動するため、一概に「何%が正解」とは言えません。これは経営戦略に関わる重要な判断です。判断材料としては、過去の同種案件の利益率を参考にしたり、市場の動向を分析したりすることが挙げられます。まずは、自社が目標とする利益率を理解し、その上で案件ごとのリスクや市場価値を考慮して、戦略的に決定する必要があります。
まとめ:積算と見積もりの違いを理解し、適切な価格設定を
この記事では、積算と見積もりの違いについて、それぞれの目的、プロセス、そして両者の関係性に焦点を当てて解説しました。これらの業務は、企業の収益性を左右する根幹であり、その違いを正確に理解することが、ビジネスの成功に不可欠です。最後に、本記事の要点を改めて確認しましょう。
- この記事の要点
・積算は、プロジェクトにかかる原価を正確に算出する作業であり、見積もりの土台となります。これは主に社内で完結する緻密な計算プロセスです。
・見積もりは、積算で算出した原価に利益や経費を上乗せし、クライアントに契約金額を提示することです。これは企業の価値を価格として提示する社外向けの活動です。
・「積算 → 見積もり」という一連の流れを理解し、それぞれの目的と役割を区別することが重要です。精度の高い積算が、信頼性の高い見積もりを生み出します。
この2つの違いを正しく理解し、それぞれのプロセスを丁寧に行うことは、適正な価格で受注し、企業の利益を確保するための第一歩です。本記事で解説した内容が、日々の業務の一助となれば幸いです。
よくある質問
このセクションでは、本文で触れられなかった積算と見積もりに関する、さらに具体的な質問にお答えします。実務で役立つ知識やキャリアに関する情報も含んでいるため、ぜひ参考にしてください。
Q. 積算を行わずに、見積もりだけを作成することはできますか?
A. 原則としてできません。積算という客観的な根拠がなければ、いわゆる「どんぶり勘定」での見積もり作成になってしまいます。それでは適正な原価を把握できず、受注できたとしても赤字になるリスクが非常に高くなります。正確な積算こそが、信頼性が高く、企業の利益を守る見積もりの基礎となります。
Q. 「実行予算」と「積算」は同じものですか?
A. 異なります。「積算」は契約前に、受注を目指して原価を算出する作業を指すことが多いです。一方、「実行予算」は契約後に、そのプロジェクトを実際に利益を出して完成させるために組む、より現実に即した予算を指します。積算額をベースにしますが、より効率的な工法や材料の調達方法を検討し、利益を最大化するために最適化される点が大きな違いです。
Q. 積算のスキルを身につけるにはどうすればよいですか?
A. 実務経験を地道に積むことが最も重要ですが、スキルアップには体系的な学習も有効です。例えば、一般社団法人 日本建築積算協会が認定する「建築積算士」などの関連資格の勉強をすることで、積算に関する知識を網羅的に身につけることができます。また、業界団体が主催するセミナーなどに参加し、最新の技術や単価の動向を学ぶこともスキル向上につながります。
[出典:一般社団法人 日本建築積算協会 資格制度]




