「積算」の基本知識

積算が必要な理由とは?建設コスト管理の基本


更新日: 2025/10/23
積算が必要な理由とは?建設コスト管理の基本

この記事の要約

  • 積算とは何か、見積もりとの違いを明確化
  • 積算が建設プロジェクトで不可欠な4つの理由
  • 積算の精度がコスト管理に与える重要な影響

積算とは?建設業における基本的な意味

積算とは、建設工事にかかる費用を事前に算出する業務です。プロジェクトのコストを管理する上で最も基本的な作業であり、その定義は明確です。ここでは、積算が具体的に何を指すのか、そして混同されがちな「見積もり」や「原価計算」といった用語とどう違うのかを、比較しながら解説します。

積算の定義と目的

積算の定義は、「設計図書(図面や仕様書)に基づき、工事に必要な材料の数量、人件費、機械経費などを一つひとつ拾い出し、積み上げていくことで、工事全体の費用(工事原価)を算出する作業」です。

感覚や経験則だけに頼るのではなく、図面という客観的な根拠に基づいて数値を積み上げる点が特徴です。

積算の主な目的

適切な見積もり作成: 発注者へ提示する見積書の根拠となる、正確な工事原価を把握する。
実行予算の策定: 施工会社が実際に工事を行うための社内予算(実行予算)を組む。

設計図面とPCを使って積算作業を行う様子

「見積もり」「原価計算」との違いを比較

積算と似た言葉に「見積もり」や「原価計算」がありますが、これらは目的と実施するタイミングが明確に異なります。積算は「工事原価」を算出する作業そのものを指し、見積もりはそれに利益などを加えた「請負金額」を提示する行為を指します。

以下の表は、3つの業務の役割の違いをまとめたものです。

項目 積算 見積もり 原価計算
目的 工事にかかる費用を構成要素ごとに積み上げ、総費用(工事原価)を算出すること 発注者へ提示する請負金額(工事原価+一般管理費+利益)を決定すること 実際にかかった工事費用を計算・分析し、予算との差異を管理すること
算出タイミング 主に設計段階・見積もり作成前 主に見積もり依頼時(積算後) 主に工事中および工事完了後
算出の基礎 設計図書、仕様書、歩掛、単価 積算結果、諸経費、利益 実際の仕入れ伝票、労務費、外注費などの実績値

建設プロジェクトで積算が必要不可欠な4つの理由

なぜ建設プロジェクトにおいて、手間と時間をかけてまで正確な積算を行う必要があるのでしょうか。その理由は、単に費用を計算するだけにとどまりません。プロジェクトの成否を左右するコスト管理、資金計画、そして関係者間の信頼構築の基盤となるため、積算は不可欠なプロセスです。

理由1:正確な工事費用の算出

積算の最も基本的かつ重要な役割は、「この工事にいくらかかるのか」を客観的かつ詳細に算出することです。設計図書や仕様書という明確な根拠に基づき、必要な材料費、労務費、機械経費などを一つひとつ積み上げます。このプロセスを経ることで、過去の経験則や感覚的な「どんぶり勘定」ではなく、精度の高い工事費用が明らかになります。

理由2:適切な予算・資金計画の立案

正確な積算結果は、プロジェクトに関わる双方にとって、現実的な資金計画を立てるための必須情報となります。

発注者側: 積算額に基づいて必要な予算を確保できます。
施工会社側: 算出された工事原価をもとに、無理のない実行予算(実際に工事を行うための予算)を組むことができます。

積算が不正確だと、計画段階で予算不足に陥ったり、施工会社が赤字覚悟で受注せざるを得なくなったりするリスクが生じます。

理由3:発注者との円滑な合意形成

積算によって作成される「内訳明細書」は、工事費用の内訳(何にいくらかかるか)を詳細に可視化します。この明細書は、発注者と施工会社が費用について協議する際の共通言語となります。

発注者は、提示された金額がどのような根拠に基づいているのかを理解し、その妥当性を判断できます。これにより、透明性の高いコミュニケーションが促進され、円滑な価格交渉と合意形成が可能になります。

理由4:コスト超過リスクの回避(建設コスト管理)

精度の高い積算は、建設プロジェクトにおける最大の懸念事項の一つである「コスト超過リスク」を回避するための強力な武器となります。

積算段階で工事に必要な費用を詳細に把握し、潜在的なリスクもある程度見込んでおくことで、工事が始まってからの予期せぬ出費を最小限に抑えることができます。これは、建設コスト管理の基盤を強固にすることに直結します。

積算の具体的なプロセスと流れ

積算業務は、設計図書というインプットから「工事費内訳明細書」というアウトプットを生み出すまで、体系化された手順に沿って進められます。このプロセスを正確に踏むことが、積算精度を担保する鍵となります。ここでは、積算の基本的な4つのステップを解説します。

  1. 設計図書・仕様書の読み込み

    • 目的: プロジェクトの全体像と詳細な要求仕様を把握する。
    • 作業内容: まず、工事の設計図(平面図、立面図、断面図、詳細図など)や仕様書(使用する材料の品質、工法、仕上げの基準など)を徹底的に読み込みます。ここで図面の意図を正確に解釈することが、後続の作業の精度に直結します。
  2. 数量の拾い出し

    • 目的: 工事に必要なすべての要素の「量」を算出する。
    • 作業内容: 図面や仕様書から、工事に必要な資材(例:コンクリートの体積 $m^3$、鉄筋の重量 $t$、内装材の面積 $m^2$)や、作業(例:掘削の土量 $m^3$、型枠の面積 $m^2$、塗装の面積 $m^2$)の数量・面積・体積・箇所数などを正確に拾い出します。これは積算業務において最も時間と労力を要する作業の一つです。
  3. 単価の設定と費用の掛け合わせ

    • 目的: 拾い出した数量に単価を乗じ、各項目の費用を算出する。
    • 作業内容: 拾い出した数量に対し、最新の材料単価、地域や職種ごとの労務単価(人件費)、使用する機械経費などを設定します。この際、「歩掛(ぶがかり)」(ある作業を単位量行うのに必要な手間や資材の標準的な数値)を用います。
  4. 内訳明細書の作成

    • 目的: 算出した全費用を集計し、積算の成果物としてまとめる。
    • 作業内容: 算出した費用を工種ごと(例:仮設工事、土工事、鉄筋コンクリート工事、内装工事など)に分類・集計し、「工事費内訳明細書」としてまとめます。これが発注者への見積もり提示や、社内の実行予算策定の基礎資料となります。

積算精度が建設コスト管理に与える影響

積算の精度は、単なる計算結果の正しさ以上の意味を持ちます。その精度が低いか高いかによって、プロジェクトの利益性、発注者との信頼関係、さらには企業の経営基盤にまで直接的な影響を及ぼします。ここでは、積算精度が建設コスト管理に与える具体的な影響について解説します。

積算精度が低い場合のよくある不安・リスク

もし積算の精度が低い(不正確な)場合、プロジェクトのさまざまな段階で深刻な問題を引き起こす可能性があります。これは、発注者と施工者の双方にとって大きなリスクとなります。

実行予算の大幅な超過(赤字プロジェクト化):
最も直接的なリスクです。積算額が実際の工事費よりも著しく低かった場合、施工会社は実行予算を超過し、プロジェクトが赤字になる恐れがあります。

発注者とのトラブル:
見積もり額が安すぎたために、工事の途中で追加費用を請求せざるを得ない状況が発生すると、発注者の不信感を招き、深刻なトラブルに発展する可能性があります。

機会損失(失注):
逆に、積算額が実態よりも高すぎた場合、競争力のある見積もりを提示できず、受注の機会を逃してしまう(失注)ことになります。

品質・安全性の低下:
無理な(低すぎる)積算額に合わせて工事を強行しようとすると、コスト削減のために材料の品質を落としたり、安全対策を怠ったりする事態を招きかねません。

高い積算精度を保つためのポイント

上記のようなリスクを避け、適切な建設コスト管理を実現するためには、積算の精度を可能な限り高める継続的な努力が不可欠です。精度の高い積算を実現するためには、以下のポイントが重要となります。

専門知識と豊富な経験:
図面を正確に読み解く読解力、最適な工法を選定する知識、そして過去の類似案件から変動要素を予測する経験値が求められます。

最新の単価情報の把握:
資材価格や労務費は、社会情勢や季節によって常に変動します。公共機関が発表する単価データや、取引先からの最新情報を常にキャッチアップし、積算に反映させる必要があります。

積算ソフト・システムの活用:
複雑な計算や膨大な数量の拾い出しには、専用の積算ソフトやシステムを活用することが有効です。ヒューマンエラーを減らし、計算作業を大幅に効率化・標準化できます。

ダブルチェック体制の構築:
どれだけ経験豊富な担当者でも、ミスをゼロにすることは困難です。拾い漏れや計算ミス、単価の適用間違いなどを防ぐため、複数の目で確認するダブルチェック体制を構築することが極めて重要です。

積算担当者が抱える課題と今後の展望

建設コスト管理の要である積算業務ですが、その重要性とは裏腹に、多くの課題に直面しています。しかし、同時にこれらの課題を解決するための新しい技術も登場しており、積算業務は大きな変革期を迎えています。ここでは、積算が直面する課題と、その未来について解説します。

複雑化する設計と人手不足という課題

近年、建築物のデザインは多様化し、環境性能や耐震性など求められる機能も高度化しています。これにより、設計図書は複雑化の一途をたどっており、積算業務もより高度で専門的な知識を要するようになっています。

一方で、他の建設関連業務と同様に、専門知識を持つ積算担当者の不足や、既存担当者の高齢化が深刻な課題となっています。この需給ギャップが、積算精度の維持や業務の迅速な処理を困難にしている側面があります。

BIMの3Dモデルを見ながら議論する建設技術者

BIMやAI活用による積算業務の効率化

こうした課題の有力な解決策として、デジタル技術の活用が進んでいます。特に注目されているのがBIM(Building Information Modeling)です。

BIMは、従来の2D図面とは異なり、3Dモデルに部材の仕様、コスト、数量などの情報を持たせることができます。BIMを活用することで、モデルから直接数量を自動算出することが可能になり、数量の拾い出しにかかる時間を劇的に短縮し、ヒューマンエラーを減らすことができます。

さらに、今後はAI(人工知能)が過去の膨大な積算データや図面を学習し、設計の初期段階で精度の高いコスト予測を行ったり、図面の変更箇所を自動で検知して積算に反映させたりするなど、積算業務のさらなる効率化と高度化が期待されています。

まとめ:積算は建設コスト管理の「礎」である

この記事では、建設業における積算の定義から、その重要性、具体的なプロセス、そして将来の展望に至るまでを網羅的に解説しました。

積算が必要な理由は、単に工事費を計算するためだけではありません。

積算が「礎」である理由

・ プロジェクトの正確な費用を客観的に把握し、
・ 発注者と施工者双方の適切な予算計画の立案を可能にし、
・ 費用の明確な根拠を示すことで円滑な合意形成を促し、
・ そして、プロジェクト全体のコスト超過リスクを回避する

という、建設コスト管理の「礎(いしずえ)」となる、非常に重要な業務です。

正確な積算なくして、プロジェクトの成功はあり得ません。この基本を深く理解することが、発注者にとっても施工者にとっても、適切なコスト管理を実現するための第一歩となります。

積算に関するよくある質問

最後に、積算業務に関して多く寄せられる質問にお答えします。積算の学習方法、ソフトの利点、そして公共工事と民間工事の違いといった基本的な疑問点を、Q&A形式で簡潔に解説します。

Q1. 積算を学ぶにはどうすればいいですか?

A1. 積算のスキルを習得するには、いくつかの方法があります。

実務経験: 建設会社、設計事務所、積算事務所などでOJT(On-the-Job Training)を通じて実務経験を積むのが最も一般的です。
学校・講座: 専門学校や職業訓練校、民間のスクールなどで開催される建築積算の専門講座を受講し、基礎知識を体系的に学ぶ方法もあります。
資格取得: 「建築積算士」や「建築コスト管理士」といった関連資格の取得を目指して勉強することも、知識の習得とスキルの証明に有効です。
独学: 市販されている専門書籍や、国土交通省などが公開している積算基準を読み解くことで独学も可能ですが、図面の読解など実践的なスキルは実務や講座で補うことが推奨されます。

Q2. 積算ソフトを使うメリットは何ですか?

A2. 積算ソフトを導入する主なメリットは「効率化」と「標準化(精度の向上)」です。

効率化: 図面データ(特にCADやBIM)と連携し、数量の拾い出しや計算を自動化・半自動化できるため、手作業に比べて作業時間を大幅に短縮できます。
標準化(精度の向上): 計算ミスや拾い漏れといったヒューマンエラーを最小限に抑えることができます。また、社内で統一された単価マスタや歩掛を使用することで、担当者ごとのバラツキをなくし、積算品質を標準化できる点も大きな強みです。

Q3. 公共工事と民間工事で積算の方法は違いますか?

A3. 積算の基本的な考え方(数量を拾い、単価を掛ける)は同じですが、ルールの厳格さにおいて大きな違いがあります。

公共工事: 国や地方自治体が発注する工事は、税金が原資となるため、公正性・透明性・客観性が厳格に求められます。そのため、国土交通省などが定める「公共工事標準積算基準」や「公共建築工事標準積算基準」といった統一ルールに基づき、定められた歩掛や単価(公共工事設計労務単価など)を用いて積算する必要があります。[出典:国土交通省 官庁営繕の積算基準について]
民間工事: 民間企業間の契約であるため、公共工事ほどの厳格な統一基準はありません。過去の実績データに基づいた独自の単価や、発注者との協議によって積算方法や見積もりの形式が決まる部分が大きくなります。

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