「見積もり」の基本知識

建設業の見積書と契約書の違いとは?役割と使い分けを解説


更新日: 2025/10/23
建設業の見積書と契約書の違いとは?役割と使い分けを解説


summaries:

  • 見積書は「提案書」、契約書は「法的な合意書」です。
  • 建設業法では、金額にかかわらず書面契約が義務付けられています。
  • 見積もり内容の確認と、契約書への正確な反映がトラブルを防ぎます。

建設業の「見積もり」書と契約書の違い

建設業の取引において、「見積書」と「契約書」は頻繁に登場しますが、この二つは根本的に異なる役割を持ちます。見積書が「提案」の段階であるのに対し、契約書は「合意」の段階で作成されます。この違いを理解しないまま進めると、費用や工事内容に関する認識の齟齬を生む原因となります。まずは、目的、法的拘束力、発行のタイミングなど、両者の決定的な違いを一覧で比較し、それぞれの位置づけを明確にしましょう。

見積書と契約書の比較一覧

見積書と契約書の違いを項目ごとに整理すると、以下のようになります。特に法的拘束力の有無金額の性質(概算か確定か)が最大の相違点です。

比較項目 見積書 契約書
役割・目的 工事内容や金額の「提案」「概算」を提示する 工事内容や条件について「合意」したことを証明する
法的拘束力 原則として、ない(双方の合意形成前) ある(双方が署名・捺印し合意した後)
発行タイミング 契約前(発注の検討段階) 契約時(双方の合意時)
主な記載内容 工事内容、数量、単価、合計金額(概算)、有効期限など 工事内容、請負代金額(確定)、支払条件、工期、契約不適合責任、遅延損害金など
金額の性質 あくまで「見積もり額(概算)」であり、交渉により変動し得る 双方が合意した「確定額(請負代金)
収入印紙 不要 必要(請負金額に応じて)

建設業における「見積もり」書の役割と確認ポイント

建設業における「見積もり」書は、単に工事金額を提示するだけの書類ではありません。それは発注者が工事の全体像を把握し、予算と照らし合わせ、さらには他社と比較検討(相見積もり)を行うための、最も基礎的かつ重要な「提案書」です。この見積もりの内容が、後の契約内容の土台となります。ここでは、見積書が持つ主要な役割と、受け取った際に最低限確認すべき重要なチェックポイントを解説します。

見積書(みつもりしょ)とは

受注を希望する建設業者が、発注者に対し、提供予定の工事内容、仕様、数量、単価、概算金額、工期、その他の条件を提示するために作成・提出する文書です。

見積書の3つの主な役割

見積書は、発注者と受注者の円滑な取引において、以下の3つの重要な役割を担います。

役割1:発注検討の判断材料
発注者にとって、見積書は工事を発注するかどうか、またどの業者に依頼するかを決定するための最も重要な判断材料です。記載された工事内容と概算費用を基に、自社の予算内で実行可能か、提示された金額が適正かを判断します。複数の業者から見積もりを取る「相見積もり」の際にも、この書類が比較のベースとなります。

役割2:工事内容の具体化
見積書には、どのような工事を、どのような材料や工法を用いて行うのかが具体的に記載されます。「〇〇工事」といった大枠だけでなく、使用する資材の等級や数量、必要な作業内容が示されることで、発注者は完成イメージを具体化できます。受注者側にとっては、自社の提案内容を明確に伝える手段となります。

役割3:交渉・調整のベース
提示された見積書は、あくまで「提案」です。発注者はこの内容を基に、「この部分の仕様を変更したい」「予算内に収めるために調整できないか」といった交渉を行います。見積書は、双方が納得のいく契約内容へと詳細を詰め、合意形成を図るための「たたき台」として機能します。

見積書を受け取ったら確認すべき4つのポイント

精度の高い見積もりは、後のトラブル防止につながります。見積書を受け取ったら、以下の4点を必ず確認してください。

ポイント1:「一式」の内訳は明確か?
「諸経費一式」「〇〇工事一式」といった大雑把な記載が多くないかを確認しましょう。便利である反面、具体的に何が含まれているのかが不透明です。可能な限り、材料費、労務費、運搬費、諸経費などの内訳が明記されているかを確認し、不明瞭な点は必ず質問してください。

ポイント2:数量・単価は妥当か?
工事に必要な資材の数量や、それぞれの単価が記載されているかを確認します。例えば、壁紙の面積(㎡)や使用する部材の本数などです。これらの数量や単価が、実際の工事規模や市場の相場とかけ離れていないかをチェックすることが重要です。

ポイント3:見積もりの前提条件は記載されているか?
見積もり金額は、特定の前提条件に基づいて算出されています。「現地調査の結果、地盤改良が別途必要になる場合がある」「残置物の撤去費用は含まない」など、金額が変動し得る条件(見積もり範囲外の作業)が明記されているかを確認します。

ポイント4:有効期限はいつまでか?
資材価格や労務費は時期によって変動するため、見積書には通常「発行から〇〇日以内」といった有効期限が設けられています。この期限を過ぎると、提示された見積もり金額での発注ができなくなる可能性があるため、いつまでに発注の判断をすべきかを把握しておきましょう。


「見積もり」内容を確定させる「契約書」の重要性と法的効力

見積もり内容について双方が合意したら、いよいよ契約です。建設業法では、工事の規模にかかわらず、書面による契約の締結が義務付けられています(建設業法 第19条)。見積書が「提案」であったのに対し、契約書は双方が遵守すべき「約束」であり、強い法的拘束力を持つ、取引において最も重要な書類です。

契約書の役割と法的拘束力

見積書は、発行した時点では原則として法的な拘束力を持ちません。しかし、契約書は、発注者と受注者(請負者)の双方が内容に合意し、署名(または記名)と捺印を行った瞬間に、法的な効力が発生します。

これは、契約書に記載された内容(「いつまでに(工期)」「いくらで(請負代金)」「何をするか(工事内容)」)を、双方が誠実に実行する義務を負うことを意味します。万が一、工期の遅延、代金の未払い、工事内容の不備(契約不適合)などのトラブルが発生した場合、この契約書が裁判などにおいて、双方の権利と義務を証明する最も強力な証拠となります。

建設業の契約書で最低限確認すべき必須項目

建設業法第19条第1項では、トラブルを未然に防ぐため、契約書に記載すべき16の項目を定めています。これらが網羅されていない契約書は法令違反となる可能性があります。特に以下の項目は、見積もり内容との相違がないか、必ず確認しましょう。

工事内容と請負代金
最終的に合意した工事内容が正確に記載されているか。また、金額は見積もり段階の概算ではなく、「確定金額」として明記されているか。

工期(着工日と完成日)
工事の開始日と完了日(引き渡し日)が具体的に特定されているか。

支払方法と時期
請負代金をいつ、どのような方法で支払うか(例:着手金30%、中間金30%、完了時40%など)。

契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)
完成した建物や工作物に欠陥(契約内容と異なる点)が見つかった場合、受注者がどのような責任(修補、損害賠償など)を、どれくらいの期間負うのか。

遅延損害金
発注者の代金支払いが遅れた場合、または受注者の工期が遅れた場合に発生するペナルティ(損害金)の利率や計算方法。

契約の解除に関する条件
どのような事態が発生した場合に、一方または双方がこの契約を解除できるのか、その条件と手続き。

[出典:e-Gov法令検索 建設業法 第十九条]


「見積もり」から契約締結までの流れと注意点

建設業の取引をスムーズに進め、トラブルを回避するためには、「見積もり」の依頼から「契約」の締結まで、正しいステップを踏むことが不可欠です。見積書の内容を精査し、双方が納得するまで協議を重ね、最終的な合意内容を書面(契約書)に残す。この一連の流れを理解し、各段階で押さえるべき注意点を実行することが、健全な取引関係の構築につながります。

建設現場の事務所で図面を見ながら協議する発注者と受注者

見積もりから契約までの基本ステップ

建設工事の契約は、一般的に以下の手順(STEP)で進められます。

  1. 【発注者】見積もりの依頼
    発注者が建設会社(受注者)に対し、希望する工事内容、予算、希望工期などを伝えます。必要に応じて現地調査を依頼し、より正確な見積もり作成のための情報を提供します。

  2. 【受注者】現地調査・見積書の作成と提示
    受注者は、発注者の要望や現地調査の結果、図面などに基づき、工事に必要な費用を積算し、「見積書」を作成して発注者に提示します。

  3. 【双方】協議・調整
    発注者は提示された見積書を精査します。内容に不明点があれば説明を求め、仕様の変更や金額、工期について交渉・調整を行います。(※この段階で、必要に応じて見積書が再提出されることもあります。)

  4. 【双方】内容の合意
    協議の結果、見積もり内容(工事内容、金額、工期など)について双方が納得し、合意します。

  5. 【受注者】契約書(案)の作成・提示
    受注者は、合意した内容に基づき、法的な要件(建設業法第19条)を満した「契約書(案)」を作成し、発注者に提示します。

  6. 【発注者】契約書(案)の精査
    発注者は、契約書(案)の内容が、合意した見積もり内容や協議結果と相違ないか、法的に不利な条項が含まれていないかを最終確認します。

  7. 【双方】契約締結
    双方が契約書の内容に問題がないことを確認した後、署名(または記名)・捺印を行います。契約書は通常2部作成し、それぞれが1通ずつ保管します。(※請負金額によっては収入印紙の貼付が必要です。)

見積もりと契約で失敗しないための注意点

見積もりから契約に至る過程では、以下の3つの点に特に注意してください。

口約束は絶対に避ける
「いつも頼んでいるから」「少額の工事だから」といった理由で、口約束だけで工事を進めるのは非常に危険です。「言った・言わない」のトラブルの温床となります。建設業法で書面契約が義務付けられている通り、どんなに小規模な工事であっても、必ず合意内容を明記した契約書を取り交わしましょう。

「見積書=契約書」ではないことを認識する
見積書はあくまで提案書です。発注者が見積書に「発注します」とサイン(承諾)しただけでは、契約に必要な条件(契約不適合責任や遅延損害金など)が網羅されておらず、法的に不十分な場合があります。必ず見積書とは別に、正式な「工事請負契約書」を締結してください。

追加・変更工事のルールを確認する
工事の途中で、発注者側の都合による仕様変更や、予期せぬ事態による追加工事が発生することは少なくありません。そのような場合に、追加費用の見積もりや工期の変更をどのように決定し、書面で確認するのか、そのルールが契約書で事前に定められているかを必ず確認しましょう。


まとめ:「見積もり」と「契約書」を正しく使い分け健全な取引を

本記事では、建設業における「見積書」と「契約書」の違いについて解説しました。

見積書
工事内容や金額の「提案書(概算)」です。発注者が契約を結ぶかどうかの判断材料であり、原則として法的な拘束力はありません。

契約書
見積もり内容などを基に双方が合意した「約束の証(確定)」です。強い法的な拘束力を持ち、トラブル発生時には双方の権利義務を証明する証拠となります。

建設業において、「見積もり」は取引のスタートラインであり、契約書はゴール(合意)の証です。両者の役割と違いを正確に理解し、内容をしっかり確認することが、後のトラブルを防ぎ、安心して工事を進めるための鍵となります。


建設業の見積もりと契約に関するよくある質問

Q. 見積書だけで工事を発注できますか?

A. できません。見積書はあくまで提案書であり、法的に必要な契約条件が全て記載されているわけではありません。見積書の内容に合意した後、必ず別途「工事請負契約書」を作成し、双方で取り交わす必要があります。建設業法(第19条)でも、工事請負契約は書面で行うことが義務付けられています。

Q. 見積もり金額と契約金額が変わることはありますか?

A. あります。見積もりはあくまで「概算」です。見積もり提示後に、発注者からの要望で仕様を変更したり、追加工事が発生したりした場合、最終的に合意する「契約金額」が見積もり額と異なることは珍しくありません。重要なのは、交渉・協議の結果、最終的にいくらで合意したのかを「契約書」に確定金額として明記することです。

Q. 注文書(発注書)と契約書はどう違いますか?

A. 「注文書(発注書)」は発注者側が「この内容でお願いします」という意思を示す書類、「注文請書」は受注者側が「その内容で承ります」と意思を示す書類です。実務上、この2つ(注文書と注文請書)が揃うことで、契約が成立したとみなされる場合も多いです。
ただし、これらを使用する場合でも、建設業法が定める契約書の必須項目(工期、契約不適合責任など)が記載されている必要があります。詳細な条件やトラブル時の取り決めを明確にするためには、別途「工事請負契約書」を作成・締結するのが最も安全で確実な方法です。

Q. 複数の会社から見積もり(相見積もり)を取っても良いですか?

A. 問題ありません。むしろ推奨されます。発注者には業者を自由に選定する権利があります。複数の業者から見積もりを取る「相見積もり(あいみつもり)」は、提示された金額や工事内容が適正であるかを判断するための有効な手段です。ただし、各社に見積もり作成の手間が発生していることを理解し、誠実な態度で対応することがマナーです。

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