建設業の人事とは?役割と業務を体系的に解説

この記事の要約
- 建設業の人事の仕事とは?その特殊性と重要性が5分でわかる
- 採用から安全管理まで、具体的な業務内容と他業界との違いを比較
- 2024年問題への対応など、今求められる人事の役割を徹底解説
なぜ今重要なのか?建設業の人事を取り巻く課題と役割
建設業界は、人手不足、高齢化、そして「2024年問題」に直面し、大きな変革期を迎えています。この「2024年問題」とは、働き方改革関連法により、2024年4月1日から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されたことで生じる諸問題の総称です。この規制に対応しつつ事業を継続するため、戦略的な人事施策の重要性がこれまでになく高まっています。人事は単なる管理部門ではなく、これらの業界課題を解決し、企業の未来を創るためのキーパーソンなのです。

具体的には、建設業の人事は以下の課題解決に直接貢献します。
・人手不足と採用競争の激化への対応
若年層の入職者減少とベテラン層の大量離職が進む中、企業の魅力を高め、多様な人材(女性、外国人材など)を確保する採用戦略の立案と実行が求められます。
・「2024年問題」への具体的な労務管理
時間外労働の上限(原則月45時間・年360時間)を遵守するための、勤怠管理の厳格化、適正な人員配置、生産性向上を促す評価制度の構築が急務です。法令遵守と従業員の健康確保の両立は、人事の腕の見せ所と言えるでしょう。
[出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務」]
・技術継承と人材育成
熟練技術者が持つノウハウを若手へスムーズに継承するための、体系的な研修プログラムや資格取得支援制度の設計が不可欠です。
・安全な労働環境の整備
他業種に比べ労働災害のリスクが高い建設業において、従業員の命を守る安全衛生管理体制の強化は、人事部門が担う最も重要な責務の一つです。
経営を根幹から支える、建設業の人事が担う5つのミッション
企業の「人」に関するあらゆる業務を担う人事部ですが、その役割は多岐にわたります。特に社会的な責任が大きく、専門性の高い人材が不可欠な建設業においては、人事部門は経営の根幹を支える重要な機能を果たします。ここでは、建設業の人事が担う主要な5つのミッションについて、それぞれ具体的に見ていきましょう。
- 建設業における人事の5大ミッション
・1. 経営資源の最適化
企業の経営計画や事業戦略に基づき、最も重要な経営資源である「人材」を、プロジェクトの規模や内容に応じて最適に配置します。適材適所の人員配置は、生産性の向上とプロジェクトの成功に直結します。・2. 労働環境の整備
従業員が心身ともに健康で、かつ安全に働ける環境を構築・維持します。長時間労働の是正、ハラスメント対策、福利厚生の充実などを通じて、働きがいのある職場を実現し、定着率の向上を目指します。・3. 人材の確保と育成
事業の継続と成長に不可欠な、専門知識や技術を持つ人材を確保するための採用活動を行います。また、入社後の研修や資格取得支援を通じて従業員のスキルアップを促し、組織全体の技術力を底上げします。・4. 組織文化の醸成
企業の理念やビジョン(MVV)を社内全体に浸透させ、従業員一人ひとりのエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を高める組織文化を創り上げます。一体感のある組織は、困難なプロジェクトを乗り越える力となります。・5. コンプライアンスの遵守
労働基準法や労働安全衛生法、建設業法といった、業界に関連する多岐にわたる法規を遵守した企業運営を徹底します。法令違反は企業の信頼を失墜させる重大なリスクであり、人事部門がその防波堤となります。
[出典:国土交通省「建設業法」]
【業務別】建設業における人事の具体的な仕事内容
建設業の人事業務は、本社で働くオフィスワーカーから、全国各地の工事現場で働く技術者や技能者まで、非常に多様な人材を対象とします。そのため、業務内容は多岐にわたり、高い専門性が求められます。ここでは、人事の具体的な業務内容を4つのカテゴリーに分けて詳しく解説します。
企業の未来を創る採用・配置業務
企業の成長ドライバーとなる優秀な人材を確保し、その能力が最大限に発揮される部署やプロジェクトへ配置する、人事の根幹をなす業務です。特に専門職が多い建設業では、戦略的な採用計画が企業の競争力を左右します。
建設業における採用・配置業務の具体例
| 業務項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 採用計画の立案 | 事業計画に基づき、年度ごとに必要な人員数、職種(施工管理、設計、積算等)、求めるスキル要件を明確に定義します。 |
| 募集活動 | 求人媒体への出稿、新卒・中途向け会社説明会の企画・運営、工業高校や大学への訪問、人材紹介エージェントとの連携など、多様なチャネルを活用します。 |
| 選考・面接 | 応募者の書類選考から、専門知識を問う筆記試験、複数回の面接を実施し、候補者の技術力、コミュニケーション能力、適性などを総合的に見極めます。 |
| 内定・入社手続き | 内定者への条件通知、雇用契約の締結、健康保険や厚生年金などの社会保険加入手続き、入社前研修の案内などを行います。 |
| 人員配置 | 本人の希望や適性、各部門のニーズを考慮し、新入社員の配属先を決定します。また、既存社員の異動や昇進に伴う配置転換も担当します。 |
技術と誇りを次世代へ繋ぐ人材育成・研修業務
従業員一人ひとりのスキルアップとキャリア形成を支援し、組織全体の技術力と生産性を向上させるための重要な業務です。建設業では、技術の継承と新しい工法への対応が常に求められるため、継続的な人材育成が不可欠です。
1. 新入社員研修
社会人としてのビジネスマナーや心構えから、建設業界の基礎知識、そして最も重要な安全教育まで、現場に出るための土台を築きます。
2. 階層別研修
若手社員、中堅社員、管理職といった各階層に求められる役割やスキル(リーダーシップ、マネジメント能力など)を習得するための研修を企画・実施します。
3. 職種別専門研修
施工管理、設計、積算、営業など、各職種の専門性をさらに高めるための研修です。最新の技術動向や法改正に関する内容も含まれます。
4. 資格取得支援制度の企画・運用
建築士や施工管理技士といった業務に必要な国家資格の取得を奨励するため、受験費用の補助や合格報奨金制度などを企画し、運用します。
従業員の安全と生活を守る労務・労働安全衛生業務
従業員が法令に則って保護され、安全かつ安心して働ける環境を整備する、建設業において最も重要視される業務の一つです。特に現場作業員の安全確保は、人事部門の最優先課題となります。
・勤怠管理・給与計算
現場ごとに異なる労働時間や休日、天候による作業中止などを正確に把握し、労働時間や休暇を管理します。それに基づき、毎月の給与計算と支給を間違いなく行います。
・社会保険手続き
従業員の入退社に伴う健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険などの加入・喪失手続きを迅速かつ正確に行います。
・就業規則の管理
働き方改革関連法などの法改正に対応するため、定期的に就業規則や賃金規程など社内規程の見直しと改定を行います。
・安全衛生管理
労働安全衛生法に基づき、安全衛生委員会の運営、定期健康診断やストレスチェックの実施、現場の安全パトロールへの帯同など、従業員の心身の健康と安全を守るための活動を主導します。
[出典:厚生労働省「労働安全衛生法の概要」]
・労災対応
万が一、労働災害が発生してしまった際の労働基準監督署への報告、労災保険の申請手続き、そして最も重要な再発防止策の策定と実行を行います。
公平な評価で組織を活性化する人事評価・制度設計業務
従業員の仕事への貢献度や成果を公正に評価し、処遇(昇給・昇格・賞与)に反映させることで、モチベーション向上と組織全体の活性化を図る業務です。客観的で透明性の高い制度を設計・運用することが求められます。
・人事評価制度の企画・運用
企業のビジョンや事業目標と連動した評価制度を設計し、半期または通期で評価を実施・運用します。
・評価基準の策定と評価者研修
職種や役職ごとに明確で公正な評価基準を策定します。また、評価者(管理職)が適切に評価を行えるよう、研修を実施して評価スキルの向上を図ります。
・評価結果に基づく処遇決定
評価結果を集計・分析し、それに基づいて従業員一人ひとりの昇給額、賞与額、昇格の可否などを決定します。
・各種人事制度の設計・見直し
従業員が長期的に安心して働けるよう、賃金制度、退職金制度、福利厚生制度など、時代や経営状況に合わせて各種制度の設計や見直しを行います。
【徹底比較】一般的な人事と建設業の人事はここが違う
建設業の人事には、デスクワーク中心の他業界の人事業務とは異なる、特有の難しさと専門性があります。ここでは、一般的な人事(メーカーやIT企業の事務職などを想定)と建設業の人事の違いを比較し、その特徴を明確にすることで、業務への理解を深めます。
一般的な人事と建設業の人事の業務比較表
| 比較項目 | 一般的な人事 | 建設業の人事 |
|---|---|---|
| 管理対象 | 主にオフィスワーカーで、勤務地が固定的。 | オフィスワーカーに加え、全国各地の工事現場で働く多数の技術者・技能者。勤務地が流動的。 |
| 労務管理の複雑さ | 比較的定型的な勤怠管理。残業時間や有給休暇の管理が中心。 | 現場ごとの労働時間、休日、天候による変動など、複雑で柔軟な勤怠管理が必須。直行直帰も多い。 |
| 安全衛生の重要度 | 主にメンタルヘルス対策やオフィス環境(VDT作業など)の管理が中心。 | 労働災害のリスクが常に伴うため、物理的な安全確保が最優先課題。安全教育や現場パトロールが極めて重要。 |
| 必要な知識 | 労働基準法などの基本的な労働法規。 | 基本的な労働法規に加え、労働安全衛生法、建設業法など、業界特有の専門的な法律知識が不可欠。 |
建設業の人事に求められるスキルとキャリアの魅力
建設業の人事は、専門的な知識と対人スキルが高度に求められる職務です。その分、他では得られない大きなやりがいと、社会に貢献している実感を得ることができます。ここでは、求められる主要なスキルと、この仕事ならではのキャリアの魅力について解説します。
- 求められるスキルセット
・専門的な法務知識
労働基準法はもちろん、労働安全衛生法や建設業法など、業界特有の法律に関する深い知識が不可欠です。・高度なコミュニケーション能力
経営層から現場の技術者、協力会社のスタッフまで、多様な立場の人々と円滑に意思疎通を図り、信頼関係を築く能力が求められます。・課題解決能力と企画力
人手不足や働き方改革といった業界全体の課題に対し、自社の状況を分析し、具体的な人事施策(採用戦略、新制度導入など)を企画・実行する力が必要です。
キャリアの魅力としては、自らの仕事が従業員の安全や会社の成長に直結しているという強い実感を得られる点が挙げられます。また、社会インフラという「地図に残る仕事」を支える一員であるという誇りも、大きなモチベーションとなるでしょう。
まとめ
本記事では、建設業における人事の役割と具体的な業務内容について体系的に解説しました。建設業の人事は、単なる事務手続きに留まらず、企業の成長と全従業員の安全を支える、極めて重要な戦略的役割を担っています。
・建設業の人事は、人手不足や2024年問題といった業界特有の課題解決に貢献する、経営のパートナーです。
・業務は「採用」「育成」「労務」「評価」と多岐にわたり、特に従業員の命を守る「安全衛生管理」の比重が大きいです。
・業界特有の法知識や、多様なバックグラウンドを持つ従業員と円滑に連携する高度なコミュニケーション能力が求められます。
建設業界で働くすべての人々が、誇りとやりがい、そして何よりも「安全」を確保しながら仕事に取り組める環境を創り出すこと。それこそが、これからの建設業の人事部門に課せられた最大のミッションと言えるでしょう。
よくある質問
Q1. 未経験でも建設業の人事になれますか?
A1. はい、未経験からでも建設業の人事職に就くことは可能です。ただし、建設業法や労働安全衛生法といった専門知識が業務上不可欠となるため、入社後に積極的に学ぶ意欲が非常に重要です。まずは労務管理や採用アシスタントなど、特定の業務から経験を積み、徐々に専門性を高めていくキャリアパスが一般的です。
Q2. 建設業の人事に必要な資格はありますか?
A2. 必須の資格はありませんが、業務に直結し、キャリアアップに有利となる資格はいくつか存在します。代表的なものに、人事労務の専門家である「社会保険労務士」、労働者の健康管理を担う「衛生管理者」、キャリア開発を支援する「キャリアコンサルタント」などがあります。特に「第一種衛生管理者」は、建設業を含む多くの業種で、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任が義務付けられており、企業からのニーズが高い国家資格です。
[出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則 第七条」]
Q3. 建設業の人事にはどのような人が向いていますか?
A3. 以下のような資質を持つ方が向いていると言えます。
・公正さと誠実さ:従業員の評価やプライベートな情報を扱うため、高い倫理観が求められます。
・コミュニケーション能力:多様な従業員と対話し、現場の声を経営に届ける橋渡し役を担える人。
・学習意欲:法改正や新しい労務管理の手法など、常に新しい知識を学び続ける姿勢がある人。
・タフさ:時には厳しい判断や難しい調整も必要となるため、精神的な強さも重要です。




