建設業における人事の役割とは?求められるスキルを解説

この記事の要約
- 建設業の人事の役割とは?経営支援から従業員サポートまで網羅解説
- 人手不足や2024年問題など、建設業界特有の課題と人事の重要性
- 未経験者向けに、建設業人事に求められる専門スキルとキャリアパス
- 目次
- 建設業における人事の基本的な役割とは?
- 経営層のパートナーとしての人事
- 従業員のサポーターとしての人事
- 企業の成長を支える戦略的人事
- なぜ重要?建設業で人事の仕事が注目される背景
- 深刻化する人手不足と技術者の高齢化
- 「2024年問題」への対応
- 働き方改革とコンプライアンス遵守
- DX推進と多様な人材の活躍
- 建設業の人事が行う具体的な業務内容
- 他業界とどう違う?建設業における人事の特殊性
- 建設業の人事に求められる必須スキル
- 建設業界と現場への深い理解
- 高いコミュニケーション能力
- 法律に関する専門知識
- 人材を育成・配置するマネジメント能力
- データに基づき課題を解決する分析・活用スキル
- 未経験から建設業の人事を目指すには?【3つのステップ】
- まとめ:企業の持続的成長を支える建設業の「人事」
- よくある質問
- Q. 建設業の人事職は未経験でも転職できますか?
- Q. 建設業の人事で役立つ資格はありますか?
- Q. 建設業で人事として働くやりがいは何ですか?
建設業における人事の基本的な役割とは?
建設業界で働く「人」を支え、企業成長の基盤を築くのが人事の役割です。その業務は単なる事務作業に留まりません。経営層の視点と従業員の視点の両方を持ち、人と組織の成長を促進する重要なポジションです。本章では、建設業における人事の根幹をなす3つの基本的な役割について、その目的と機能に焦点を当てて解説します。
経営層のパートナーとしての人事
企業の経営戦略を深く理解し、事業目標の達成に必要な人材戦略(採用・育成・配置)を立案・実行する役割です。経営会議などで決定された事業計画に対し、「どのような人材が、何人、いつまでに必要なのか」を具体化し、採用計画に落とし込みます。また、組織全体の生産性を最大化するための人員配置や組織開発を提案することも重要な任務です。まさに「ヒト」の側面から経営を能動的にサポートする、企業の重要なパートナーとしての機能が求められます。
従業員のサポーターとしての人事
従業員一人ひとりが心身ともに健康で、安心してその能力を最大限に発揮できるよう、労働環境の整備やキャリア開発の支援を行います。具体的には、適切な労働時間の管理、公正な評価制度の運用、福利厚生の充実、個々のキャリア相談などが挙げられます。採用から育成、評価、そして退職に至るまで、従業員のライフサイクル全般に寄り添い、悩みや課題解決をサポートする身近な相談役としての役割を担います。
企業の成長を支える戦略的人事
目先の課題対応だけでなく、3年後、5年後といった会社の将来の事業展開を見据え、計画的な人材採用や育成、最適な人員配置を行う役割です。例えば、新規事業への進出が決まれば、それに必要なスキルを持つ人材の採用や、既存社員への教育研修を計画します。このように変化の激しい時代において、企業が持続的に成長するための原動力を「人事戦略」という側面から創り出し、組織の未来を形作っていきます。
なぜ重要?建設業で人事の仕事が注目される背景
近年、多くの産業の中でも特に建設業界において人事の重要性がますます高まっています。その背景には、業界特有の構造的な課題や、避けては通れない社会情勢の変化が存在します。ここでは、なぜ今、建設業で人事業務が企業の将来を左右するほど注目されているのか、その具体的な4つの背景について深く掘り下げていきます。

深刻化する人手不足と技術者の高齢化
建設業界では、かねてより若手入職者の減少と、それを支えてきた技術者・技能者の高齢化が極めて深刻な課題となっています。この状況下で、企業が事業を継続し成長していくためには、優秀な人材をいかにして確保し、長く働いてもらうか(定着)、そしてベテランが持つ貴重な技術をいかにして次世代へ継承していくかという点が生命線となります。これら採用・定着・技術承継の課題解決に向けた人事の戦略的な取り組みが不可欠です。
「2024年問題」への対応
2024年4月1日から、建設業にも「時間外労働の上限規制」が適用され、業界は働き方の大きな変革を迫られています。これがいわゆる「建設業の2024年問題」です。具体的には、災害の復旧・復興事業を除き、時間外労働の上限が原則として月45時間・年360時間となり、特別な事情があっても年720時間以内に収めなければなりません。この規制を遵守しつつ、従来の工期や品質を維持するためには、人事部門が中心となって勤怠管理システムの刷新、生産性向上のための制度設計、そして従業員の健康確保といった多角的な対応を進める必要があります。
[出典:厚生労働省 時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務]
働き方改革とコンプライアンス遵守
「きつい、汚い、危険」といったかつての業界イメージを払拭し、若者や女性からも選ばれる魅力ある職場環境を作ることは、人材確保の観点からも極めて重要です。具体的には、週休2日制の導入や長時間労働の是正といった働き方改革の推進、そしてパワーハラスメント防止措置や各種法規制を遵守するコンプライアンス体制の強化が求められます。従業員が心身ともに健康で、安心して公正に働ける企業であり続けるために、人事部門が主導して制度を整え、企業文化を醸成していく役割はますます大きくなっています。
DX推進と多様な人材の活躍
他業界に比べてデジタル化が遅れているとされる建設業界でも、生産性向上の切り札としてDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が急務です。勤怠管理や人材育成にITツールを導入するなど、人事業務の効率化も重要なテーマとなります。また、女性や外国人材、若者といった多様な人材(ダイバーシティ)が活躍できる環境を整備することも、新たな視点を取り入れ、組織を活性化させる上で不可欠な人事戦略となっています。
建設業の人事が行う具体的な業務内容
建設業の人事業務は、デスクワークから現場訪問まで非常に多岐にわたります。企業の「人」に関するあらゆる事柄がその対象範囲です。ここでは、その中でも代表的な業務内容を5つのカテゴリーに分け、それぞれにどのような活動が含まれるのかを具体的に解説します。
- 建設業における人事の5大業務
・採用活動
新卒・中途採用計画の立案、技能実習生等の受け入れ管理、求人媒体の選定、会社説明会の企画・運営、面接対応など。・人材育成と教育研修
新入社員研修、職長教育、階層別研修の企画・実施、資格取得支援制度の運用、技術承継のための教育プログラム構築など。・労務管理
勤怠管理、給与計算、社会保険手続き、現場作業員の特殊な勤務形態に応じた労働時間管理、就業規則の整備・改定など。・安全衛生管理
安全衛生委員会の運営、定期健康診断やストレスチェックの実施、労働災害防止に向けた啓蒙活動、再発防止策の策定など。・人事制度の構築と運用
公平な評価制度や賃金制度の設計・見直し、従業員のキャリアパス策定支援、福利厚生の充実といった働きやすい環境整備など。
他業界とどう違う?建設業における人事の特殊性
建設業の人事業務には、オフィスワーカー中心の他業界にはない特殊性が数多く存在します。本社スタッフだけでなく、日々状況が変わる「現場」で働く従業員が多く、多様な雇用形態が混在するため、特有の専門知識や柔軟な対応が強く求められます。

ここでは、代表的なIT業界の人事業務と比較する形で、建設業の人事の特殊性を以下の表に整理しました。
- 表:建設業とIT業界における人事の業務比較
比較項目 建設業の人事 他業界(例:IT業界)の人事 主な管理対象 現場作業員、技術者、施工管理者、事務職など、職種や働き方が極めて多様。 エンジニアや企画職など、比較的均質な働き方のオフィスワーカーが中心。 労務管理の重点 労働安全衛生、労働災害の防止、現場ごとの特殊な勤怠管理、悪天候時の対応。 長時間労働の是正、リモートワーク管理、メンタルヘルスケア、知的財産権の管理。 必要な専門知識 建設業法、労働安全衛生法、一人親方など特殊な雇用形態に関する社会保険知識。 労働基準法、裁量労働制やフレックスタイム制の知識、IT関連の技術トレンドや契約形態の知見。 採用における課題 若手人材の確保、技能承継、業界の3Kイメージの払拭、多段階の請負構造の理解。 高度な専門性を持つハイスキル人材の獲得競争、リファラル採用の活性化。
建設業の人事に求められる必須スキル
建設業界で人事として成果を出し、企業に貢献するためには、一般的な人事実務の知識に加えて、業界特有の課題に対応できる専門的なスキルが求められます。ここでは、特に重要となるスキルを挙げ、それぞれがなぜ必要なのかを具体的に解説します。
建設業界と現場への深い理解
人事施策を企画・実行する上で、建設業のビジネスモデル(元請・下請構造)、専門用語、現場の仕事の流れ、特有の慣習などを理解していることは大前提となります。「現場ではどのような危険があり、どのような苦労があるのか」を肌で感じることが、実効性のある安全管理や労務管理につながります。机上の空論ではなく、現場で働く人々の気持ちを理解し、寄り添う姿勢が何よりも重要です。
高いコミュニケーション能力
建設業の人事は、実に様々な立場の人々と関わります。経営層への戦略提案、現場の職長や作業員からの相談対応、協力会社の担当者との調整、ハローワークや行政機関への手続きなど、社内外のあらゆる関係者と円滑な関係を築く能力が不可欠です。特に、日頃オフィスにいない現場従業員の本音や課題を吸い上げる傾聴力と、会社の決定事項を丁寧に説明する伝達力の両方が求められます。
法律に関する専門知識
コンプライアンス遵守が厳しく問われる現代において、法律知識は人事担当者の必須スキルです。労働基準法はもちろんのこと、建設業に特有の建設業法や労働安全衛生法といった関連法規への深い理解は欠かせません。頻繁に行われる法改正の動向を常に正確に把握し、自社の就業規則や制度へ適切に反映させていく責任があります。
[出典:e-Gov法令検索 建設業法]
[出典:e-Gov法令検索 労働安全衛生法]
人材を育成・配置するマネジメント能力
企業の財産である「人」の能力を最大限に引き出すことも人事の重要な役割です。従業員一人ひとりのスキル、経験、そして本人のキャリア希望を見極め、適切な育成プランやキャリアパスを提示し、組織全体のパフォーマンスを最大化させるためのタレントマネジメント能力が求められます。適材適所の配置は、従業員のモチベーション向上と企業の生産性向上に直結します。
データに基づき課題を解決する分析・活用スキル
現代の人事には、勘や経験だけでなく、客観的なデータに基づいて意思決定を行う能力が求められます。例えば、離職率や残業時間のデータを分析して職場環境の課題を特定したり、採用活動のデータから効果的な募集チャネルを見つけ出したりするなど、データ分析・活用スキルは、より戦略的な人事施策を立案・実行する上で不可欠です。
未経験から建設業の人事を目指すには?【3つのステップ】
未経験から建設業の人事という専門職に挑戦する場合、熱意だけでなく戦略的なアプローチが重要です。具体的に以下の3つのステップを踏むことで、目標達成の可能性を高めることができます。
- 未経験から建設業人事をめざすためのロードマップ
・目的:
未経験というハンデを乗り越え、建設業界の人事職への転職を成功させる。・必要なもの:
建設業界への強い関心と学習意欲、専門資格の学習時間、業界動向に関する情報収集・注意点:
資格取得だけがゴールではなく、それをどう実務に活かしたいかを具体的に説明できることが重要。
1. 専門資格の取得で知識と意欲を証明する
まず、客観的な形で専門知識と業務への意欲を示すことが有効です。特に以下の資格は、人事労務領域との関連性が高く、転職活動において強力なアピール材料となります。
・社会保険労務士:人事労務の専門家としての最高峰資格の一つ。
・衛生管理者(第一種):建設業を含む多くの業種で必須となる、職場の安全衛生に関する国家資格。
・キャリアコンサルタント:従業員のキャリア形成支援に関する専門知識を証明。
2. 関連職種から段階的にキャリアを築く
即戦力採用が多い中、まずは業界知識を身につけることも現実的な選択肢です。例えば、総務や経理といった同じ管理部門の職種で建設会社に入社し、実務経験を積みながら業界特有の文化や課題への理解を深めます。その上で、社内異動や経験者としての転職を通じて、人事職へのキャリアチェンジを目指します。
3. 業界の最新動向を徹底的に情報収集する
業界への深い理解を示すために、主体的な情報収集は不可欠です。国土交通省が発表する統計データや白書、業界専門誌、ニュースサイトなどを通じて、建設業界が直面する課題(2024年問題、DXの遅れ、若手入職率など)について、自分なりの考えや解決策の仮説を述べられるように準備しておくことが、面接などの場で他の候補者との差別化につながります。
まとめ:企業の持続的成長を支える建設業の「人事」
本記事では、建設業における人事の役割、具体的な業務内容、そして求められるスキルについて網羅的に解説しました。
建設業の人事は、単なる給与計算や社会保険手続きを行う事務処理担当者ではありません。深刻な人手不足や2024年問題といった業界全体の大きな課題に真正面から立ち向かい、人材の採用・育成・定着を通じて企業の競争力を高め、持続的な成長を支える極めて重要な戦略的パートナーです。
経営と現場の架橋となり、現場で働く人々を深く理解し、彼らの声に耳を傾けること。そして、すべての従業員が「この会社で、この仲間たちと働き続けたい」と心から思えるような、安全で魅力的な職場環境を創り出していくこと。それが、これからの建設業の人事に最も期待される役割と言えるでしょう。
よくある質問
Q. 建設業の人事職は未経験でも転職できますか?
A. はい、転職は可能です。ただし、ポテンシャルを重視される第二新卒層を除き、何らかの形で人事・労務関連の知識や実務経験、あるいは建設業界への強い関心と学習意欲を示すことが重要になります。特に、本記事で紹介した社会保険労務士や衛生管理者といった資格は、未経験からの転職において専門知識を証明する上で有利に働く場合があります。
Q. 建設業の人事で役立つ資格はありますか?
A. はい、以下の資格が業務に直接役立ちます。
・社会保険労務士:労働・社会保険諸法令に基づく専門家であり、労務管理全般で活躍できます。
・衛生管理者(第一種・第二種):職場の労働安全衛生を管理する専門家で、建設業では特に重要視されます。
・キャリアコンサルタント:従業員のキャリア形成を支援する専門家として、人材育成や定着に貢献できます。
・建設業経理士:業界特有の会計知識を証明する資格で、経営視点を養い、経営層のパートナーとしての人事を目指す上で有効です。
Q. 建設業で人事として働くやりがいは何ですか?
A. 大きなやりがいは、「人」と「組織」の成長を直接支援できる点にあります。自らが企画した採用活動で入社した人材が現場で活躍したり、構築した研修制度によって社員のスキルが向上したりする様子を間近で見ることができます。また、働きやすい環境を整備することで従業員の満足度が高まり、それが企業の業績向上につながるなど、会社の基盤を支えている実感を得やすい仕事です。




