「会計」の基本知識

完成工事高とは?建設業における計上方法を解説


更新日: 2025/10/23
完成工事高とは?建設業における計上方法を解説

この記事の要約

  • 建設業の「売上」である完成工事高の基本を丁寧に解説
  • 2つの会計基準「完成基準」「進行基準」の選び方が分かる
  • 経審や融資にも影響する正しい会計処理のポイントを網羅

完成工事高とは?建設業会計の基本を理解しよう

建設業の会計を理解する上で、「完成工事高(かんせいこうじだか)」は最も基本となる勘定科目です。これは一般企業の「売上高」に相当しますが、建設業特有の事情を反映しています。このセクションでは、完成工事高の正確な定義とその重要性、そして一般会計との違いを明確にし、建設業会計の基礎知識を固めていきましょう。

完成工事高の定義と重要性

完成工事高とは、建設業において、契約に基づいた工事がすべて完了し、完成した目的物を顧客(発注者)に引き渡した時点*で認識される収益、つまり売上高のことです。

この完成工事高は、企業の経営成績を測る上で極めて重要な指標となります。なぜなら、単に企業の収益規模を示すだけでなく、企業の評価に直結するからです。

完成工事高が影響する重要な評価

金融機関からの融資審査:企業の収益力や安定性を判断する主要な指標となります。
公共工事の入札における経営事項審査(経審):完成工事高の額は、企業の施工能力を示す「X1評点」の算出に直接影響し、入札の受注能力を左右します。

つまり、完成工事高を正確に計上し管理することは、企業の資金調達能力や事業拡大の機会に直接的な影響を与えるのです。

建設現場で財務諸表を確認する管理者

一般的な「売上高」との違い

会計上の収益であるという点で、完成工事高と一般的な「売上高」は本質的に同じものです。しかし、建設業には他の業種と大きく異なる「工事期間が長期にわたる」という特性があります。

一般的な商品の販売であれば、商品の引き渡しと代金の回収が比較的短期間で行われます。しかし、建設工事は数ヶ月から数年に及ぶことも珍しくありません。そのため、「どのタイミングで収益を認識(計上)すべきか」という点が会計上、非常に重要な論点となります。この建設業特有の事情を会計処理に反映させるため、「完成工事高」という固有の勘定科目が用いられているのです。

建設業会計における完成工事高の位置づけ

企業の財務諸表の一つである損益計算書(P/L)において、完成工事高は収益の部に記載されます。これは、一般企業の損益計算書で「売上高」が記載されるのと同じ場所です。

そして、この完成工事高から、その工事にかかった費用である「完成工事原価」を差し引くことで、「完成工事総利益」が算出されます。これは一般企業でいう「売上総利益(粗利)」にあたり、その企業の本業における収益性を示す核となる利益です。

完成工事高の会計処理で重要な2つの計上基準

完成工事高をいつ、いくら計上するのかを決定する会計上のルールには、大きく分けて「工事完成基準」「工事進行基準」の2つが存在します。どちらの基準を採用するかによって損益計算書に計上される利益の額が大きく変動するため、両者の違いを正確に理解しておくことが不可欠です。ここでは、それぞれの会計処理方法を詳しく見ていきましょう。

短期工事と長期工事の収益認識タイミングの違いを示すイメージ

原則的な計上方法「工事完成基準」

工事完成基準は、その名の通り、工事が完成し、目的物を顧客に引き渡した時点で、その工事に関する収益(完成工事高)と原価(完成工事原価)を一度にまとめて計上する方法です。非常にシンプルで分かりやすく、特に工期が短い工事で主に採用されます。

工事完成基準のポイント

収益計上タイミング:工事の完成・引渡し時
メリット:会計処理が簡便であり、工事の完成という客観的な事実に基づいて収益を計上するため、利益操作の余地がなく信頼性が高い。
デメリット:決算期をまたぐ長期の工事の場合、工事が完成するまでの一切の損益が業績に反映されない。そのため、工事期間中の経営成績が実態と乖離したり、完成が集中する年度だけ利益が突出するなど、業績が不安定に見えやすくなります。

長期工事で適用される「工事進行基準」

工事進行基準は、工事期間が長期にわたる場合に用いられる会計処理方法です。決算日時点で、工事全体の進捗度を合理的に見積もり、その進捗度に応じて収益と原価を期間ごとに按分して計上します。これにより、工事期間中であっても、毎期の業績をより実態に即して財務諸表に反映させることができます。

進捗度は、一般的に「原価比例法(決算日までに発生した実際原価が、工事原価総額に占める割合)」によって算出されます。

工事進行基準のポイント

収益計上タイミング:決算期末ごとに、工事の進捗度に応じて計上
メリット:工事期間中の損益を毎期の業績に反映できるため、期間ごとの経営成績を正確に把握できる。これにより、単年度の業績のブレが少なくなり、経営成績が安定します。
デメリット:進捗度を合理的に見積もる必要があるため、客観性の担保が難しく、会計処理が複雑になる。特に工事原価総額の見積りが不正確だと、計上される利益も不正確になります。

【比較】工事完成基準と工事進行基準、どちらを選ぶべき?会計上の違い

工事完成基準と工事進行基準は、それぞれにメリットとデメリットがあり、どちらを選択すべきかは企業の状況や請け負う工事の性質によって異なります。特に2021年4月からは新たな会計基準が適用されており、その要件も理解しておく必要があります。ここでは両者を比較し、自社に最適な基準を選ぶための判断手順を解説します。

メリット・デメリットを比較

以下の表は、工事完成基準と工事進行基準の主な特徴を比較したものです。

項目 工事完成基準 工事進行基準
メリット ・会計処理がシンプル
・収益認識の客観性が高い
・期間ごとの業績を正確に把握できる
・経営成績が安定する
デメリット ・長期工事では期間損益が把握しにくい
・業績の変動が大きくなりやすい
・進捗度の見積りが必要で複雑
・客観的な進捗度算定が難しい
適した工事 工期が短い工事 工期が1年を超えるような長期工事

適用要件の違い

従来、どちらの基準を適用するかは企業の任意な部分もありましたが、2021年4月1日から「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」が強制適用(※中小企業は任意適用)され、考え方が大きく変わりました。

この新基準では、履行義務(顧客との契約内容)が一定の期間にわたって充足されるものについては、工事進行基準の考え方で収益を認識することが原則とされています。ただし、契約における履行義務がごく短い期間で完了する工事については、引き続き工事完成基準で処理することが認められています。

出典:企業会計基準委員会 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」

【3ステップで判断】自社に適した会計基準の選び方

どの基準を適用すべきか迷う場合は、以下の3ステップで自社の状況を整理し、判断を進めていきましょう。

1. 請け負う工事の「工期」を確認する
まず最初の判断基準は「工期」です。請け負う工事の大半が、決算期をまたがずに完了する短期的なものであれば、会計処理が簡便な工事完成基準の適用が合理的です。一方で、ビル建設や大規模なインフラ整備など、工期が1年を超え、決算期をまたぐことが常態である場合は、STEP2に進んでください。

2. 「収益認識会計基準」の原則を理解する
2021年4月から適用が始まった「収益認識に関する会計基準」では、工事の進捗に応じて収益を認識する「工事進行基準」の考え方が原則とされています。したがって、長期工事を請け負う企業は、原則として工事進行基準を適用しなければなりません。このルールは、企業の業績をより実態に即して報告させることを目的としています。

3. 会計処理の負担と経営への影響を考慮する
原則は進行基準ですが、実務上の負担も考慮する必要があります。工事進行基準は進捗度の算定など会計処理が複雑になり、経理体制の構築が求められます。もし自社での対応が難しい場合や、基準の選択に確信が持てない場合は、必ず顧問税理士などの専門家に相談してください。適切な会計処理は、企業の信頼性を守るための重要な経営判断です。

完成工事高の会計処理を正しく行うためには、それに関連するいくつかの重要な勘定科目を理解しておく必要があります。特に「完成工事原価」「未成工事支出金」「未成工事受入金」は、建設業会計の基本セットとして必ず押さえておきましょう。

完成工事原価とは?

完成工事原価は、計上した完成工事高に対応する直接的な費用の合計額です。一般企業の「売上原価」に相当します。具体的には、以下の4つの要素で構成されます。

材料費:工事のために仕入れた資材や部品の費用
労務費:工事に直接従事した作業員への賃金や給与
外注費:他の業者へ工事の一部を依頼した場合の費用
経費:上記以外で工事に直接かかった費用(機械のレンタル代、水道光熱費など)

損益計算書では、完成工事高のすぐ下にこの完成工事原価が記載され、両者を差し引くことで「完成工事総利益」が計算されます。

未成工事支出金と未成工事受入金の違い

この2つは、まだ完成していない工事(未成工事)に関するお金の動きを処理するための、建設業に特有な勘定科目です。

未成工事支出金(みせいこうじししゅつきん)

これは、まだ完成していない工事のために、先に支払った原価(材料費や外注費など)を一時的に計上しておくための資産の勘定科目です。いわば「工事中の立替金」や「仕掛品」のようなものです。工事が完成し、完成工事高を計上するタイミングで、この未成工事支出金は「完成工事原価」に振り替えられます。

未成工事受入金(みせいこうじうけいれきん)

こちらは、工事が完成する前に、発注者から前払金や中間金として受け取ったお金を一時的に計上しておくための負債の勘定科目です。「顧客からの前受金」にあたります。工事が完成し、売上として計上するタイミングで、この未成工事受入金は「完成工事高」に振り替えられます。

完成工事高の会計処理における注意点

完成工事高の会計処理は、企業の財務状況を正しく示すために極めて重要です。特に、消費税の扱いや赤字が見込まれる工事の処理は、実務上間違いやすいポイントであり、税務調査などで指摘される可能性もあるため、正確な知識を身につけておく必要があります。

消費税の計上タイミング

消費税を計上するタイミングは、原則として完成工事高を計上するタイミングと一致します。

工事完成基準の場合:工事が完了し、目的物を引き渡した日の属する課税期間で消費税を認識します。
工事進行基準の場合:決算期ごとに進捗度に応じて完成工事高を計上するタイミングで、その計上額に対応する消費税を認識します。

お金の入金タイミングではなく、あくまで収益を認識するタイミングで消費税を計上する必要がある点に注意してください。

赤字が見込まれる工事の会計処理(工事損失引当金)

工事の途中で、工事原価の総額が工事収益の総額を上回り、最終的に赤字(損失)となることが確実に見込まれる場合があります。このような場合、その損失が見込まれた期の時点で、将来発生するであろう損失額を「工事損失引当金(こうじそんしつひきあてきん)」として費用計上しなければなりません。

これは、会計の「保守主義の原則」に基づく処理であり、予想される損失を早期に財務諸表に反映させることで、企業の財政状況をより健全に示すことを目的としています。赤字の兆候を隠蔽せず、判明した時点で適切に会計処理を行うことが、企業の信頼性を保つ上で重要です。

まとめ:正確な完成工事高の計上が健全な経営の第一歩

適切な会計処理は、税務申告や融資審査をスムーズに進めるだけでなく、自社の経営状態を客観的に分析し、将来の経営戦略を立てる上での羅針盤となります。この記事で解説した要点を改めて確認し、自社の会計体制を見直すきっかけとしてください。

この記事のまとめ

完成工事高は建設業における売上高であり、融資や経審にも影響する重要な経営指標です。
・計上基準には「工事完成基準」「工事進行基準」の2つがあり、2021年からの新収益認識基準により、長期工事では進行基準の考え方が原則となっています。
・2つの基準の違いや、完成工事原価未成工事支出金などの関連科目をセットで理解することで、自社の財務状況をより正確に把握できます。

もし会計処理に不安な点があれば、速やかに税理士などの専門家に相談しましょう。

完成工事高に関するよくある質問

ここでは、完成工事高に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式で回答します。会計処理の実務や、他業種への応用に関する疑問を解消しましょう。

Q. 個人事業主でも工事進行基準は適用できますか?
A. はい、適用できます。法人・個人事業主の別を問わず、請け負った工事の契約内容や工期に応じて適切な会計基準を選択する必要があります。ただし、工事進行基準は会計処理が複雑になるため、ご自身での判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談することを強く推奨します。

Q. 完成工事高と売上高は決算書でどのように表示されますか?
A. 損益計算書(P/L)の収益の部、一番上に「完成工事高」として表示されます。これが建設業会計における「売上高」に相当します。一般企業の損益計算書で「売上高」と表示されている項目が、「完成工事高」という建設業特有の科目名に置き換わっていると理解してください。

Q. 赤字の工事でも完成工事高は計上するのですか?
A. はい、計上します。完成工事高はあくまで収益(売上)の総額であり、それに対応する完成工事原価が上回った場合に結果として赤字(完成工事総損失)となります。赤字だからといって完成工事高を計上しないわけではありません。また、損失が確実になった時点で「工事損失引当金」を計上する必要があります。

Q. ソフトウェアの受託開発にも工事進行基準は使えますか?
A. はい、使えます。ソフトウェアの受託開発のように、成果物の完成までに長期間を要し、かつ進捗度を合理的に見積もることが可能な契約の場合、建設業と同様に工事進行基準の考え方(収益認識会計基準における進行基準の考え方)が適用されるのが一般的です。

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