「DX・IT」の基本知識

建設業のDX推進に必要な人材とは?育成方法も紹介


更新日: 2025/10/23
建設業のDX推進に必要な人材とは?育成方法も紹介

この記事の要約

  • 建設業のDXを推進する3つの必須人材像を解説
  • 人材確保の3つの方法(育成・採用・外部活用)を比較
  • DX人材育成を成功させる具体的な4つの手順を紹介

建設業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

建設業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、単にデジタルツールを導入することではありません。AI、IoT、BIM/CIMといったデジタル技術を活用して、業務プロセス、組織、企業文化そのものを変革し、新たな価値を創造することを指します。これにより、生産性の向上、安全性の確保、そして働き方改革といった業界全体の課題解決を目指します。

建設業におけるDX・IT化の現状と人材不足の課題

建設業界では、生産性の向上や深刻な人手不足の解消を目指し、DXの推進が急務です。しかし、その動きを加速させる上で「ITスキルを持つ人材の不足」が大きな壁となっています。本章では、建設業でDXがなぜこれほどまでに重要なのか、そして推進を阻む人材面の課題は何かを具体的に解説します。

なぜ今、建設業でDXが求められるのか

現代の建設業界がDXを必要とする背景には、避けては通れない複数の構造的な課題が存在します。これらは個別の問題ではなく、相互に絡み合いながら業界全体の持続可能性を脅かしています。

建設業界でDXが求められる4つの背景

深刻化する人手不足と高齢化:限られた人員で高い生産性を維持・向上させるため、省人化・効率化が不可欠です。

「2024年問題」による働き方改革への対応:時間外労働の上限規制を遵守し、従業員のワークライフバランスを確保するため、ITを活用した労働環境の改善が必須です。[出典:国土交通省「建設業における働き方改革」]

生産性向上と業務効率化の必要性:情報共有の遅れや手作業による非効率な業務を解消し、工期の遅延やコスト増加を防ぎます。

技術継承の困難さ:熟練技術者のノウハウをデジタルデータとして記録・可視化し、効率的かつ質の高い技術継承を実現します。

建設現場でタブレットを使い業務効率化を図る技術者

建設業のDX・IT化を阻む人材面の3つの課題

多くの企業がDXの重要性を認識しながらも、推進に苦戦しているのが実情です。その根底には、以下のような人材に関する根深い課題があります。

1. ITスキルを持つ人材が業界全体で不足している
建設業務とITスキルの両方に精通した人材は市場に非常に少なく、採用競争が激化しています。特に、全社的なDX戦略を策定できる高度な知見を持つ人材や、最新のデジタルツールを使いこなせる専門人材は、多くの業界で引く手あまたの状態です。

2. 既存の従業員のITリテレシ―にばらつきがある
長年アナログな手法で業務を行ってきた従業員にとって、新しいデジタルツールの導入は大きな心理的障壁となることがあります。全社的にITリテラシーが高いとは言えず、一部の社員だけがツールを使いこなし、他の社員は追随できないという「デジタルデバイド(情報格差)」が、DX推進の足かせとなるケースは少なくありません。

3. DXを牽引できるリーダー層が不在
DXは単なるツール導入ではなく、業務プロセスや組織文化の変革を伴います。この変革を力強く推進するためには、経営層と現場の橋渡し役となり、プロジェクト全体を牽引するリーダーの存在が不可欠です。しかし、そうしたリーダーシップを発揮できる人材が社内にいないため、DXが「掛け声」だけで終わってしまう企業も多く見られます。

建設業のDX推進に不可欠な3種類の人材像

一口に「DX人材」と言っても、その役割は様々です。自社の状況に合わせて、どのような役割を担う人材が必要なのかを明確にすることが、DX成功の第一歩となります。ここでは、建設業のDXを推進するために特に重要となる3つの人材タイプを、その役割や求められるスキルとともに紹介します。

建設業のDXを推進する3つの人材タイプ

これらの人材は、それぞれが独立して動くのではなく、相互に連携することでDX推進の強力なエンジンとなります。例えば、「プロデューサー」が描いた全社戦略に基づき、「プロジェクトマネージャー」が具体的な実行計画を立て、それを「DX推進担当者」が現場に落とし込み、フィードバックを行う、というサイクルを生み出すことが理想です。

【建設業のDXを推進する3つの人材タイプ別役割・スキル】

人材タイプ 主な役割 求められるスキルの例
① DX・IT戦略を主導する「プロデューサー」 経営視点でDX全体の戦略を立案・指揮する。 経営戦略、IT・デジタルの最新知識、リーダーシップ、変革推進力
② 業務とITを繋ぐ「プロジェクトマネージャー」 具体的なDXプロジェクトを計画し、実行・管理する。 プロジェクト管理能力、業務知識、ITの基本知識、課題解決能力
③ 現場のIT活用を支える「DX推進担当者」 現場にITツールを導入し、その定着をサポートする。 コミュニケーション能力、ITツールの操作スキル、現場業務への深い理解

【育成方法別】建設業でDX・IT人材を確保する3つのアプローチ

DX推進に必要な人材像が明確になったら、次に考えるべきは「どうやってその人材を確保するか」です。方法は一つではなく、社内で育成するのか、外部から採用するのか、あるいは専門家の力を借りるのか、自社の状況に応じて最適な手段を選択する必要があります。ここでは、3つの確保方法のメリット・デメリットを比較検討します。

【DX・IT人材の確保に向けた3つのアプローチ比較表】

アプローチ メリット デメリット こんな企業におすすめ
① 社内人材のリスキリングによる育成 ・企業文化や業務への理解が深い
・採用コストを抑えられる
・従業員のモチベーション向上に繋がる
・育成に時間がかかる
・育成のノウハウが必要
・必ずしも全員が適応できるとは限らない
・自社の業務に精通した人材にDXを任せたい企業
・長期的な視点で人材育成に取り組みたい企業
② DX・ITスキルを持つ人材の中途採用 ・即戦力としてすぐに活躍が期待できる
・社内にない新しい知識や視点を取り込める
・採用コストが高くなる傾向がある
・企業文化に馴染めない可能性がある
・採用の競争率が高い
DXをスピーディーに進めたい企業
・社内に専門知識を持つ人材がいない企業
③ 外部専門家やITサービスの活用 ・最新の専門知識をすぐに活用できる
・必要な時に必要な分だけリソースを確保できる
・社内にノウハウが蓄積しにくい
・継続的なコストが発生する
・何から手をつければ良いかわからない企業
・特定のプロジェクトで専門家の支援が必要な企業

これらのアプローチは、どれか一つを選ぶというよりも、組み合わせて活用することが有効です。例えば、まずは外部専門家の支援を受けながら社内の育成体制を構築し、将来的には内製化を目指す、といったハイブリッドな戦略も考えられます。

【4ステップで解説】DX・IT人材の育成・確保を成功させる手順

DXIT人材の育成や確保は、行き当たりばったりでは成功しません。経済産業省が示す「DX推進指標」でも、戦略に基づいた人材育成の重要性が強調されています。ここでは、DX人材の育成・確保を成功に導くための具体的な手順を4つのステップで解説します。[出典:経済産業省「DX推進指標とそのガイダンス」]

ステップ1:経営層がDXのビジョンと戦略を明確に定義する

目的:全社的なDXの方向性を定め、推進の土台を築く。
実行内容:
まず、経営層自身がDXの重要性を深く理解し、「なぜ自社がDXに取り組むのか」というビジョンを策定します。これは「生産性を15%向上させる」「若手人材が定着する魅力的な職場環境を作る」といった具体的な目標です。このビジョンに基づき、どのような経営課題をデジタル技術で解決するのかというDX戦略を明確に定義し、社内外に力強く発信することが成功への第一歩となります。

ステップ2:DX戦略に基づき、必要な人材像と育成計画を策定する

目的:DX戦略の実行に必要な人材を定義し、確保・育成までの道筋を設計する。
実行内容:
策定したDX戦略から逆算し、「誰が・何を・いつまでに」実行するのかを計画します。

計画立案の3つのアクション

1. ゴール達成に必要な人材像の定義:戦略の実行には「プロデューサー」が必要か、「プロジェクトマネージャー」が何人必要か、といった具体的な人材要件を定義します。

2. 現状とのギャップ分析:社内の既存人材のスキルを棚卸しし、必要な人材像とのギャップを可視化します。

3. 育成・確保計画の策定:ギャップを埋めるため、「誰をリスキリングするか」「どのようなスキルを持つ人材を中途採用するか」という具体的なアクションプランと期限、KPI(重要業績評価指標)を設定します。

ステップ3:ITツール導入と連動した継続的な教育・サポート体制を構築する

目的:全従業員のITリテラシーを底上げし、導入したツールが形骸化するのを防ぐ。
実行内容:
高機能なITツールも、使う人がいなければただの箱です。ツールの導入計画と必ずセットで、継続的な教育とサポート体制を構築します。具体的には、全従業員向けのITリテラシー研修の実施、ツール別の勉強会の定期開催、質問やトラブルに即時対応する社内ヘルプデスクの設置などが有効です。従業員が安心してツールを使える環境づくりが、DX定着の鍵を握ります。

ステップ4:挑戦を評価し、学びを促進する企業文化を醸成する

目的:従業員が失敗を恐れずに新しい挑戦を続けられる組織風土を作る。
実行内容:
DX推進には試行錯誤が不可欠です。短期的な成果だけで評価するのではなく、新しいスキルの習得やDXへの貢献意欲といったプロセスや挑戦そのものを評価する人事制度を検討しましょう。資格取得支援制度の拡充や、外部セミナーへの参加奨励など、従業員が自律的に学び続けられる環境を整えることで、組織全体のDX推進力が向上します。

まとめ

建設業が今後も持続的に成長していくためには、DXの推進が不可欠です。そして、その鍵を握るのが間違いなく「人材」です。

本記事のポイント

・建設業のDX推進には、役割の異なる「プロデューサー」「プロジェクトマネージャー」「DX推進担当者」という3つの人材像が必要です。

・人材確保には「社内育成」「中途採用」「外部活用」の3つのアプローチがあり、自社の状況に応じた選択が求められます。

・成功のためには、経営層のリーダーシップのもと、明確な戦略に基づいて計画的に人材の確保・育成に取り組むことが重要です。

まずは自社にどのような人材が、なぜ必要なのかを明確にすることから始めてみてはいかがでしょうか。

よくある質問

Q. ITに全く詳しくない社員でも、DX人材になることはできますか?
A. はい、可能です。特に、長年の経験で現場の業務プロセスや課題を熟知している社員は、ITスキルを身につけることで、業務とITを繋ぐ非常に価値の高い人材になる可能性があります。重要なのは、現場知識がDXの成功に不可欠であるという点です。まずは基本的なITリテラシー研修や、特定のツールの操作研修から始めるのがおすすめです。本人の意欲と、会社としての継続的なサポート体制が成功の鍵となります。

Q. 中小企業で、DX人材の育成や採用にかける予算が限られています。何から始めるべきですか?
A. まずは、比較的低コストで始められる公的な支援を活用することをおすすめします。国や自治体が提供するIT導入補助金や人材開発支援助成金、DXに関する無料相談窓口などを積極的に利用しましょう。また、いきなり大規模なシステムを導入するのではなく、特定の業務課題(例:勤怠管理、経費精算)を解決する安価なクラウドサービス(SaaS)などを試験的に導入し、社内で「小さな成功体験」を積み重ねていくことも、投資対効果の高い有効なアプローチです。

Q. 建設業のDX推進で、よくある失敗例を教えてください。
A. よくある失敗例として、以下の3点が挙げられます。
目的の形骸化:「DXをやること」自体が目的になってしまい、経営課題の解決に繋がっていない。
ツールの導入だけで満足:従業員への教育やサポート体制が不十分で、ツールが全く使われない。
現場の巻き込み不足:経営層や一部の部署だけで話が進み、実際に業務を行う現場の意見が反映されず、反発を招いてしまう。
これらの失敗を避けるためには、本記事で解説した「なぜDXをやるのか」という戦略の明確化と、全社的な文化醸成が不可欠です。


[出典:国土交通省「建設業における働き方改革」]
[出典:経済産業省「DX推進指標とそのガイダンス」]

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