建設業の勘定科目とは?一覧と仕訳の基本ルールを解説

この記事の要約
- 建設業特有の勘定科目を一覧で解説
- 一般会計との違いと仕訳ルールを整理
- 建設業会計の注意点と基本を網羅
- 目次
- 建設業の会計処理が特殊な理由
- 理由1:工事期間が長期にわたる
- 理由2:一般的な会計との主な違い
- 建設業特有の勘定科目一覧【会計の基本】
- 資産の部(主な勘定科目)
- 負債の部(主な勘定科目)
- 収益の部(主な勘定科目)
- 費用の部(主な勘定科目)
- 完成工事原価の主な内訳
- 【比較】一般的な勘定科目との違い
- 建設業の基本的な仕訳ルールと会計処理
- 工事受注から完成・入金までの会計処理の流れ
- 1. 材料を仕入れた時・外注費が発生した時
- 2. 工事が完成し、引き渡した時
- 3. 工事代金が入金された時
- 4. (参考)前受金を受け取った時
- 建設業の勘定科目を扱う際の注意点
- 不安1:どの工事の原価か分からなくなる
- 不安2:兼業事業との経費の区別
- 注意点:税務調査でチェックされやすいポイント
- まとめ: 建設業の勘定科目を理解して正確な会計処理を
- 建設業の勘定科目に関するよくある質問
- Q. 勘定科目はすべて完璧に覚える必要がありますか?
- Q. 建設業会計ソフトを使った方が良いですか?
- Q. 小規模な工事ばかりでも、これらの勘定科目を使うべきですか?
建設業の会計処理が特殊な理由
建設業の会計処理は、他の多くの業種とは異なる独自性を持っています。その最大の理由は、事業の特性である「工事期間の長さ」にあります。一般的な小売業のように商品を仕入れてすぐに販売する形態とは異なり、受注から完成・引き渡しまでに数年を要することも珍しくありません。この特性が、会計上の収益や費用を認識するタイミングや、勘定科目の使い方に大きな影響を与えています。
理由1:工事期間が長期にわたる
建設工事は受注から完成・引き渡しまでに数ヶ月から数年かかることが特徴です。このため、売上や原価をどのタイミングで計上するか(=収益認識)が、会計上非常に重要な論点となります。
以前は「工事完成基準」と「工事進行基準」という基準が主に用いられていましたが、現在は「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)に基づき、「履行義務が充足された時点」で収益を認識します。
・ 工事完成基準(に類似する考え方):
工事が完成し、発注者に引き渡した時点(=履行義務が一時点で充足される)で、売上(完成工事高)と原価(完成工事原価)をまとめて計上する方法。工期がごく短い場合などに適用されます。
・ 工事進行基準(に類似する考え方):
工事の進捗度に応じて、決算期末ごとに収益(売上)と原価を計上する方法。工事期間にわたり履行義務が充足されると判断される場合に適用され、長期の工事ではこちらが原則となります。
[出典:企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準」]
理由2:一般的な会計との主な違い
製造業や小売業、サービス業など、他業種の会計処理との間には、使用する勘定科目に明確な違いがあります。これは前述の「工事期間の長さ」と「請負契約」という特性に起因しています。
・ 在庫の考え方: 一般的な「商品」や「製品」といった在庫勘定は使用しません。代わりに、まだ完成していない工事のために支出した原価(材料費や労務費など)は、「未成工事支出金」(みせいこうじししゅつきん)という勘定科目(資産)で集計します。これは製造業の「仕掛品(しかかりひん)」に相当するものです。
・ 売上の計上: 一般的な「売上高」ではなく、「完成工事高」(かんせいこうじだか)という収益の勘定科目を使用します。
・ 債権・債務: 工事代金の未回収分は「売掛金」ではなく「完成工事未収入金」(かんせいこうじみしゅうにゅうきん)を、工事原価の未払分は「買掛金」ではなく「工事未払金」(こうじみはらいきん)を使用します。
建設業特有の勘定科目一覧【会計の基本】
建設業の会計で使われる主要な勘定科目を、財務諸表の区分ごとに解説します。これらの科目は、建設業法施行規則によって標準的な様式(財務諸表)が定められており、建設業の経営状況を正しく示すために不可欠です。一般的な会計ソフトでは初期設定されていない場合もあるため、意味を正確に理解しておくことが重要です。
[出典:e-Gov法令検索「建設業法施行規則(昭和二十四年建設省令第十四号)」の「別記様式第十五号(損益計算書)」および「別記様式第十六号(貸借対照表)」]
資産の部(主な勘定科目)
資産の部では、特に「未成工事支出金」と「完成工事未収入金」が建設業特有の科目です。これらは会社の資産状況を把握する上で非常に重要です。
(表)資産の部の主な建設業勘定科目
| 勘定科目名 | 読み方 | 概要 |
|---|---|---|
| 完成工事未収入金 | かんせいこうじみしゅうにゅうきん | 完成した工事の代金のうち、まだ回収していない金額。(一般的な「売掛金」に相当) |
| 未成工事支出金 | みせいこうじししゅつきん | まだ完成していない工事のために支出した材料費、労務費、外注費、経費の合計額。(一般的な「仕掛品」に相当する資産) |
| (参考)売掛金 | うりかけきん | 建設業以外の事業(兼業事業:不動産賃貸など)で発生した未回収の代金。明確に区別します。 |
負債の部(主な勘定科目)
負債の部では、工事原価の未払いを処理する「工事未払金」や、工事完成前に受け取った金額を示す「未成工事受入金」が特徴的です。
(表)負債の部の主な建設業勘定科目
| 勘定科目名 | 読み方 | 概要 |
|---|---|---|
| 工事未払金 | こうじみはらいきん | 工事原価(材料費、外注費など)に関連する費用のうち、まだ支払っていない金額。(一般的な「買掛金」に相当) |
| 未成工事受入金 | みせいこうじうけいれきん | 工事が完成する前に、発注者から前受け金や中間金として受け取った金額。(一般的な「前受金」に相当する負債) |
| (参考)買掛金 | かいかけきん | 兼業事業の仕入れや、一般管理費(事務用品の購入など)で発生した未払いの金額。工事未払金と区別します。 |
収益の部(主な勘定科目)
収益(売上)を示す科目が、建設業会計の根幹となります。会社の主たる営業活動の成果を示す「完成工事高」が最も重要です。
(表)収益の部の主な建設業勘定科目
| 勘定科目名 | 読み方 | 概要 |
|---|---|---|
| 完成工事高 | かんせいこうじだか | 完成した工事の請負金額。(一般的な「売上高」に相当) |
| 兼業事業売上高 | けんぎょうじぎょううりあげだか | 建設業以外の事業(不動産賃貸、物品販売、設計監理など)による売上。 |
費用の部(主な勘定科目)
収益に対応する費用として、「完成工事原価」を正確に把握することが、利益管理の鍵となります。
(表)費用の部の主な建設業勘定科目
| 勘定科目名 | 読み方 | 概要 |
|---|---|---|
| 完成工事原価 | かんせいこうじげんか | 完成した工事(完成工事高)に対応する原価の合計。(一般的な「売上原価」に相当) |
| 販売費及び一般管理費 | はんばいひおよびいっぱんかんりひ | 工事原価以外の、営業活動や会社全体の管理にかかる費用。(内容は他業種とほぼ同様。例:本社従業員の給与、広告宣伝費、事務所家賃など) |
| 兼業事業売上原価 | けんぎょうじぎょううりあげげんか | 兼業事業売上高に対応する原価。 |
完成工事原価の主な内訳
完成工事原価は、その工事を完成させるために直接かかった費用であり、損益計算書に計上されます。この原価は、主に以下の4つの要素で構成されます。これらの内訳を正確に集計・管理することが、建設業の利益確保において不可欠です。
・ 材料費: 工事に直接使用した資材、部品、消耗品などの購入費用。
・ 労務費: 工事現場で直接作業に従事する従業員(職人など)への賃金、給与、手当。
・ 外注費: 自社で施工せず、他社(下請業者など)に工事の一部を依頼した場合に支払う費用。建設業ではこの外注費の比重が大きくなる傾向があります。
・ 経費: 上記3つ以外の、工事現場で発生する費用。例として、現場の水道光熱費、重機や車両のリース料・燃料費、設計費、特許使用料などが含まれます。

【比較】一般的な勘定科目との違い
建設業特有の勘定科目は、一般的な商業簿記の勘定科目と役割が対応しています。どの科目が何に相当するのかを理解することで、会計処理の全体像が掴みやすくなります。特に「未成工事支出金」が「仕掛品」に相当する資産であるという点が重要です。
以下の表で、建設業の主要な勘定科目と、一般的な商業簿記・製造業簿記の勘定科目との対応関係を整理します。
(表)建設業会計と一般会計の勘定科目比較
| 建設業の勘定科目 | 一般的な勘定科目 | 違い・ポイント |
|---|---|---|
| 完成工事高 | 売上高 | 建設工事の完成・引き渡しによる収益を示します。 |
| 完成工事原価 | 売上原価 | 完成工事高(売上)に対応する直接的な原価です。 |
| 未成工事支出金 | 仕掛品・製造勘定 | 期末時点で未完成の工事にかかった原価の累計額(資産)です。 |
| 完成工事未収入金 | 売掛金 | 完成した工事代金の未回収分(債権)です。 |
| 工事未払金 | 買掛金 | 工事原価(材料費、外注費等)の未払分(債務)です。 |
| 未成工事受入金 | 前受金 | 工事完成前に受け取った手付金や中間金(負債)です。 |
建設業の基本的な仕訳ルールと会計処理
ここでは、工事の発生から完成、入金までの典型的な流れに沿って、基本的な仕訳のルールを解説します。建設業の会計処理では、「いつ原価(未成工事支出金)が発生し、いつ売上(完成工事高)と原価(完成工事原価)に振り替わるか」という時間軸の管理が非常に重要です。
工事受注から完成・入金までの会計処理の流れ
建設工事における会計処理は、一般的に以下のステップで進行します。
1. 原価の発生: 材料の仕入れ、外注先への発注、現場作業員の労務費、その他経費の支払いが発生します。この時点ではまだ「費用」ではなく、「未成工事支出金」という「資産」として計上されます。
2. (場合によって)前受金の入金: 工事着手時や中間時点で、発注者から手付金や中間金を受け取ります。これは「未成工事受入金」という「負債」として処理されます。
3. 完成・引き渡し: 工事が完成し、発注者に引き渡します。この時点で初めて「完成工事高(収益)」を計上し、それまで資産計上していた「未成工事支出金」を「完成工事原価(費用)」に振り替えます。
4. 代金の回収: 発注者から工事代金が振り込まれます。「完成工事未収入金(資産)」を減らし、「現金預金(資産)」を増やします。
1. 材料を仕入れた時・外注費が発生した時
工事原価(材料費、労務費、外注費、経費)が発生した時点では、まだ工事は完成していません。そのため、これらの支出は費用(完成工事原価)ではなく、「未成工事支出金」(資産)として処理します。
・ (仕訳例)材料100万円を掛けで仕入れた
(借方)未成工事支出金 1,000,000 / (貸方)工事未払金 1,000,000
・ (仕訳例)現場作業員の労務費50万円を現金で支払った
(借方)未成工事支出金 500,000 / (貸方)現金預金 500,000

2. 工事が完成し、引き渡した時
工事が完成し、発注者に引き渡した時点(または工事進行基準により決算期末を迎えた時点)で、売上と原価を計上します。
この時、それまで「未成工事支出金」として蓄積してきた金額を「完成工事原価」(費用)へ振り替えます。
また、工事代金(ここでは仮に500万円とする)は「完成工事高」(収益)として計上し、同時に債権として「完成工事未収入金」(資産)を立てます。
・ (仕訳例)上記1.の工事(原価合計150万円)が完成し、500万円で引き渡した
(借方)完成工事原価 1,500,000 / (貸方)未成工事支出金 1,500,000
(借方)完成工事未収入金 5,000,000 / (貸方)完成工事高 5,000,000
3. 工事代金が入金された時
後日、発注者から工事代金(500万円)が銀行口座に振り込まれた時の仕訳です。資産である「完成工事未収入金」を減らし、「現金預金」を増やします。
・ (仕訳例)工事代金500万円が普通預金に入金された
(借方)現金預金 5,000,000 / (貸方)完成工事未収入金 5,000,000
4. (参考)前受金を受け取った時
工事完成前に手付金や中間金として200万円を受け取った場合、これは売上ではなく「預り金」の性質を持つため、「未成工事受入金」(負債)として処理します。
・ (仕訳例)手付金200万円が普通預金に入金された
(借方)現金預金 2,000,000 / (貸方)未成工事受入金 2,000,000
※この「未成工事受入金」は、上記2.の工事完成・引き渡し時に、「完成工事未収入金」(売上債権)から相殺する処理を行います。(例:借方に未成工事受入金200万円、貸方に完成工事未収入金200万円を計上し、債権債務を消去する)
建設業の勘定科目を扱う際の注意点
建設業特有の会計処理は、正確な経営状況の把握や税務申告のために不可欠ですが、実務上いくつかの注意点があります。特に原価の管理と費用の区分は、初心者がつまずきやすいポイントであり、税務調査でも厳しくチェックされる項目です。
不安1:どの工事の原価か分からなくなる
複数の工事を同時に進めるのが一般的な建設業では、材料費や外注費が「どの工事のために発生したものか」を明確に管理する必要があります。これが曖昧になると、工事ごとの正確な利益計算ができなくなります。
対策として、工事ごとに番号(「工番」や「工事番号」)を割り当て、すべての支出を工番ごとに集計する「工番管理」(個別原価計算)を行うことが不可欠です。
不安2:兼業事業との経費の区別
建設業以外に、不動産賃貸や物品販売などの兼業事業を行っている場合、経費の区分に注意が必要です。
例えば、事務所の家賃や光熱費、事務スタッフの給与など、両方の事業に共通して発生する経費(共通費)は、売上高の比率や人員の比率など、合理的な基準を見つけて按分(あんぶん)し、それぞれ「完成工事原価(または販管費)」と「兼業事業売上原価(または販管費)」に振り分ける必要があります。
注意点:税務調査でチェックされやすいポイント
建設業の会計処理は、税務調査において特に注目されやすいポイントがいくつかあります。
・ 未成工事支出金の内容: 決算期末に残っている「未成工事支出金」(資産)が、過大または過少に計上されていないか。原価の集計漏れや、逆に完成済みの原価が含まれていないかなどがチェックされます。
・ 完成工事高の計上時期: 売上(完成工事高)を計上するタイミングが恣意的(しいてき)でないか。特に期末間際の工事について、完成基準・進行基準のルール通りに正しく計上されているか(売上の計上漏れがないか)は厳しく見られます。
・ 外注費と給与の区分: 勘定科目を「外注費」(消費税の仕入税額控除の対象)として処理している支出が、実態としては「給与」(源泉徴収と社会保険の対象)ではないか。指揮命令系統や時間的拘束の有無などから実態で判断されます。
まとめ: 建設業の勘定科目を理解して正確な会計処理を
建設業の会計処理は、「完成工事高」「未成工事支出金」といった特有の勘定科目と、工事の進捗に合わせた処理ルールを理解することが第一歩です。これらの基本ルールを押さえ、自社の状況に合わせて正しく勘定科目を使い分けることが、正確な月次決算や経営状況の把握、そして適切な税務申告につながります。
- 建設業会計の重要ポイント
・ 建設業会計は、工事期間の長さから「収益認識に関する会計基準」(工事完成基準や工事進行基準の考え方)に基づいた処理が必要です。
・ 「完成工事高」(売上)、「未成工事支出金」(仕掛品)、「工事未払金」(買掛金)など、一般的な会計とは異なる勘定科目を正しく使用する必要があります。
・ 工事ごとの原価を「未成工事支出金」として正確に集計し、工事の完成(または進捗)に合わせて適切なタイミングで「完成工事高」と「完成工事原価」を計上することが重要です。
建設業の勘定科目に関するよくある質問
建設業の会計処理に関して、経理担当者や経営者から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。
Q. 勘定科目はすべて完璧に覚える必要がありますか?
A.
すべてを暗記する必要はありませんが、主要な科目、特にこの記事で紹介した「完成工事高」「完成工事原価」「未成工事支出金」「完成工事未収入金」「工事未払金」「未成工事受入金」の6つの科目の役割と、一般的な科目との違いは確実に理解しておくことが重要です。
実務では建設業対応の会計ソフトを使用することが多いため、ソフトの初期設定と、これらの基本的な勘定科目の考え方を連動させて覚えるのが効率的です。
Q. 建設業会計ソフトを使った方が良いですか?
A.
建設業特有の原価管理(工番管理)や勘定科目に標準で対応しているため、建設業専用の会計ソフト(または原価管理ソフト)の利用を強く推奨します。
一般的な会計ソフトでも勘定科目を設定すれば対応可能ですが、工番ごとの原価集計や、未成工事支出金から完成工事原価への振替処理などが非常に煩雑になりがちです。専用ソフトなら、これらの建設業特有の処理をスムーズに行えるよう設計されています。
Q. 小規模な工事ばかりでも、これらの勘定科目を使うべきですか?
A.
はい、事業規模に関わらず、建設業を営んでいる場合はこれらの勘定科目を使用すべきです。
建設業法に基づく会計処理は、税務申告の正確性はもちろん、金融機関から融資を受ける際の信用評価や、建設業の許可を維持・更新する際の経営事項審査(経審)においても、正確な財務諸表の提出が求められるためです。小規模な工事であっても、日頃から建設業特有の勘定科目を用いて正しく会計処理を行う習慣をつけておくことが、将来的な事業拡大においても不可欠です。




