「会計」の基本知識

建設業の経理・会計とは?基本知識を網羅解説


更新日: 2025/10/14
建設業の経理・会計とは?基本知識を網羅解説

この記事の要約

  • 「完成工事高」「未成工事支出金」など建設業特有の勘定科目を解説
  • 工事完成基準と工事進行基準の違いや、適切な選び方を比較表で整理
  • 建設業の会計処理の流れから、経理担当者が注意すべきポイントまで網羅

建設業の会計とは?一般会計との違いを理解しよう

建設業の会計は、一般的な商品の売買とは異なり、工事の完成までに長期間を要するという特性を反映した特殊なルールが適用されます。このため、一般の商業簿記とは異なる考え方や勘定科目が存在します。まずは、建設業における会計の基本的な考え方と、一般的な商業簿記との違いを明確に理解し、建設業経理の全体像を掴みましょう。

建設業会計の基本的な考え方

建設業会計の最大の特徴は、収益をどのタイミングで計上するかという点にあります。一般的な小売業では商品を引き渡した時点で売上を計上しますが、建設業では工事が数年にわたることも珍しくありません。

そのため、工事の完成時に一括で収益を計上する「工事完成基準」や、工事の進捗度合いに応じて収益を分割して計上する「工事進行基準」といった特有の会計基準が用いられます。この収益認識の考え方が、建設業会計の根幹をなす重要なポイントです。

一般的な商業簿記との主な違い

建設業会計と一般的な商業簿記では、収益を認識するタイミングのほか、原価の計算方法や使用する勘定科目にも違いがあります。以下の表は、両者の主な違いをまとめたものです。これらの違いを理解することが、建設業の正確な会計処理への第一歩となります。

【建設業会計と商業簿記の比較表】

項目 建設業会計 一般的な商業簿記
収益認識基準 工事完成基準、工事進行基準 実現主義(商品の引渡し時)
原価計算 工事原価計算 製品原価計算
勘定科目 未成工事支出金完成工事未収入金 など 売掛金、商品 など

建設業の会計で使われる特有の勘定科目

建設業の会計処理を正確に行うためには、この業界特有の勘定科目を正しく理解し、使い分けることが不可欠です。これらの勘定科目は、長期にわたる工事の原価や収益、未回収の代金などを適切に管理するために設けられています。ここでは、建設業の財務諸表を読み解く上で特に重要となる勘定科目を、その役割ごとに分けて具体的に解説します。

収益に関する勘定科目

収益に関する勘定科目は、完成した工事の売上高や、まだ入金されていない売上代金を示します。

勘定科目 概要
完成工事高 一般会計の「売上高」に相当。完成し、顧客に引き渡した工事の収益を計上する際に使用します。
完成工事未収入金 一般会計の「売掛金」に相当。工事は完了したが、まだ代金が回収できていない場合に計上します。

原価に関する勘定科目

工事にかかった費用を管理するための勘定科目です。建設業では、原価管理が利益を確保する上で極めて重要になります。

勘定科目 概要
未成工事支出金 一般会計の「仕掛品」に相当。未完成の工事のために支払った材料費・労務費などの原価を一時的に資産として計上します。
工事原価 一般会計の「売上原価」に相当。完成した工事にかかった原価の総額を示し、「未成工事支出金」から振り替えられます。

その他の重要な勘定科目

上記のほかにも、建設業の取引で頻繁に使用される重要な勘定科目があります。

工事未払金(こうじみばらいきん)
一般会計の「買掛金」に相当します。工事に関する材料の仕入れや外注費などで、まだ支払いが完了していない債務を計上します。

前受金(まえうけきん)
工事の着手金など、工事が完成して引き渡す前に発注者から受け取った金銭を処理するための勘定科目です。一般会計では負債として扱われます。

建設業における2つの重要な会計基準

建設業の会計における収益計上のタイミング、すなわち「収益認識基準」は、企業の損益を左右する極めて重要な論点です。これには、工事完成時に一括で収益を計上する「工事完成基準」と、工事の進捗に応じて収益を分割計上する「工事進行基準」の2種類があります。どちらを選択するかは経営の安定性に直結するため、各工事の特性を見極めて適切に適用する必要があります。

建設現場の事務所で打ち合わせを行う技術者と経理担当者

工事完成基準とは?

工事完成基準とは、工事がすべて完了し、目的物を発注者に引き渡した時点で、収益(完成工事高)と原価(工事原価)をまとめて計上する会計処理の方法です。

会計処理がシンプルで分かりやすいというメリットがありますが、工事期間が複数年度にまたがる場合、工事が完成するまで利益が計上されず、年度ごとの業績が大きく変動する可能性があります。そのため、主に工期が1年以内の短期的な工事に適用されることが多いです。

工事進行基準とは?

工事進行基準とは、決算期末の時点で工事の進捗度を合理的に見積もり、その進捗割合に応じて収益と原価を各会計年度に計上する会計処理の方法です。

長期大規模工事であっても、期間中に収益を計上できるため、年度ごとの業績を安定させられる点が最大のメリットです。一方で、工事の進捗度(発生した工事原価が原価総額に占める割合で計算する「原価比例法」などが一般的)や、工事全体の原価総額を合理的に見積もる必要があり、客観的な根拠に基づいた高度な管理体制が求められます。

[出典:企業会計基準委員会 企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」]

2つの基準の比較検討

工事完成基準と工事進行基準は、それぞれにメリットとデメリットがあります。どちらを選択すべきかは、企業の状況や受注する工事の性質によって異なります。以下の比較表を参考に、自社に最適な方法を検討してください。

【工事完成基準と工事進行基準の比較表】

比較項目 工事完成基準 工事進行基準
メリット 会計処理がシンプルで客観性が高い 毎期安定した利益を計上でき、業績を把握しやすい
デメリット 利益が完成年度に集中し、業績が不安定になりやすい 原価総額や進捗度の見積もりが必要で、会計処理が複雑
適用場面 工期が短い工事、進捗度の見積もりが困難な工事 工期が1年以上の長期工事、進捗度を合理的に見積もれる工事

建設業の会計処理の主な流れ

建設業の会計処理は、日々の取引の記録から始まり、最終的に年次決算で財務諸表を作成するという一連の流れに沿って行われます。このプロセスを理解することで、各業務の目的が明確になり、効率的かつ正確な経理処理が可能になります。ここでは、建設業における会計処理の主な流れを3つのステップに分けて解説します。

1. 日常的な経理業務

日々の業務では、工事現場で発生する様々な取引を正確に記帳していくことが基本となります。
伝票の起票・入力: 材料の購入、外注先への支払い、経費の精算など、すべての取引について伝票を作成し、会計ソフトに入力します。
工事台帳の作成: 工事ごとに材料費、労務費、外注費、経費を管理するための「工事台帳(工事元帳)」を作成・更新します。これは正確な原価計算の基礎となります。
入出金管理: 工事代金の入金や各種費用の支払いなど、預金口座の動きを管理し、残高を確認します。

2. 月次決算

月次決算は、月単位で会社の経営成績や財政状態を把握するために行います。これにより、経営判断を迅速に行うことができます。
月次試算表の作成: 1ヶ月分の取引記録を集計し、試算表を作成します。これにより、勘定科目ごとの残高や借方・貸方の合計が一致しているかを確認します。
原価管理: 各工事の進捗状況と原価の発生状況を照らし合わせ、予算と実績に大きな乖離がないかを確認します。問題があれば、原因を分析し対策を講じます。

3. 四半期・年次決算

会計年度の締めくくりとして、1年間の経営成績をまとめた決算書を作成します。これは、税務申告や株主への報告、金融機関からの融資判断など、様々な場面で必要となる重要な書類です。
決算整理仕訳: 棚卸資産の計上、減価償却費の計算、引当金の設定など、決算期末に特有の会計処理を行います。
財務諸表の作成: 損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、そして建設業特有の「完成工事原価報告書」などを作成します。
税務申告: 法人税や消費税などの税額を計算し、税務署へ申告・納税します。

【読者のよくある不安】建設業の会計で注意すべきポイント

建設業の会計は専門性が高く、特有のルールも多いため、経理担当者が不安を感じやすいポイントがいくつか存在します。特に、原価の管理や収益計上のタイミングは、会社の利益に直結する重要な要素です。ここでは、建設業の会計処理を行う上で特に注意すべき3つのポイントを解説し、よくある疑問や不安を解消します。

原価管理の徹底

建設業において利益を確保するためには、工事原価を正確に把握し、管理すること(原価管理)が最も重要です。工事ごとに材料費、労務費、外注費、経費を正確に集計し、予算内に収まっているかを常に監視する必要があります。どんぶり勘定で原価を管理していると、気づいたときには赤字工事になっているという事態に陥りかねません。工事台帳などを活用し、リアルタイムで原価を把握する体制を構築しましょう。

適切な収益認識基準の選択

前述の通り、建設業には「工事完成基準」と「工事進行基準」という2つの収益認識基準があります。自社の受注する工事の規模や工期を考慮し、実態に合った会計基準を選択することが重要です。一度選択した基準は、正当な理由がない限り継続して適用する必要があります。税理士などの専門家と相談の上、慎重に決定しましょう。不適切な基準を選択すると、実態とかけ離れた決算書になってしまう可能性があります。

税務調査への備え

建設業は、税務調査で指摘を受けやすい業種の一つと言われています。特に、外注費と給与の区分、未成工事支出金の内容、完成工事高の計上時期などが厳しくチェックされる傾向にあります。日頃から契約書や請求書、領収書といった証憑書類をきちんと整理・保管し、すべての取引について客観的な説明ができるように準備しておくことが、税務調査への最良の備えとなります。

[出典:国土交通省 建設業法令遵守ガイドライン]

まとめ

本記事では、建設業の会計に関する基本知識を、一般会計との違いから特有の勘定科目、重要な会計基準に至るまで網羅的に解説しました。

建設業の会計は、一般的な商業簿記とは異なり、「工事完成基準」や「工事進行基準」といった特有の収益認識基準や、「未成工事支出金」「完成工事高」などの専門的な勘定科目が存在する点が大きな特徴です。これらのルールを正しく理解し、自社の工事の実態に合わせて適切な会計処理を行うことが、健全な企業経営の土台となります。

この記事で解説したポイントを押さえ、日々の正確な記帳と徹底した原価管理を実践することで、会社の財政状態を正確に把握し、安定した企業運営を目指しましょう。

よくある質問

Q1. 小規模な工務店でも建設業会計は必要ですか?
A1. はい、事業規模の大小にかかわらず、建設業を営むすべての事業者は建設業法に基づいた会計処理(建設業会計)を行うことが求められます。特に、建設業許可の取得や5年ごとの更新、金融機関からの融資、公共工事の入札に参加するための経営事項審査(経審)など、様々な場面で建設業会計に則った正確な財務諸表の提出が必要となります。

Q2. どの会計ソフトを使えば良いですか?
A2. 建設業の会計処理には、建設業会計に特化した会計ソフトの利用を強く推奨します。建設業対応のソフトには、工事ごとの原価を管理する「工事台帳」の作成機能や、複雑な原価計算を自動で行う機能が搭載されており、手作業によるミスを防ぎ、経理業務を大幅に効率化できます。

Q3. 建設業経理士の資格は取得した方が良いですか?
A3. 必須ではありませんが、取得することで多くのメリットがあります。第一に、建設業会計に関する専門知識を体系的に習得でき、日々の業務の質が向上します。第二に、公共工事の入札に参加する企業が受ける経営事項審査(経審)において、有資格者がいると評価点が加算され、受注に有利に働くことがあります。キャリアアップや会社の信頼性向上にも繋がるため、経理担当者にとって非常に価値のある資格と言えます。

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