「サステナビリティ」の基本知識

建設現場で取り組べき環境対策とは?5つの実践例を解説


更新日: 2025/10/28
建設現場で取り組べき環境対策とは?5つの実践例を解説

この記事の要約

  • 建設現場で求められる環境対策の背景を解説
  • 具体的な5つの環境対策(3R、省エネ等)を紹介
  • コストと手間の課題を解決するヒントを提供

建設現場で今、環境対策が求められる背景

建設業界は社会基盤を支える重要な産業ですが、その活動が環境に与える影響も少なくありません。今、建設現場では、単なる法令遵守を超えた積極的な環境対策が求められています。これは、企業のサステナビリティ(持続可能性)に関わる重要な経営課題となっています。

建設業と環境問題の現状

建設業は、その事業活動の過程で多方面にわたり環境へ負荷を与えています。主な課題として以下のような点が挙げられます。

大量のエネルギー消費
建設資材の製造・輸送や、建設機械(重機)の稼働(化石燃料の使用)により、多くのエネルギーを消費します。

CO2(二酸化炭素)の排出
エネルギー消費に伴い、地球温暖化の原因となるCO2が大量に排出されます。

建設廃棄物の発生
新築工事や解体工事の現場から、コンクリート塊、木くず、廃プラスチックなど多種多様な廃棄物が大量に発生します。

周辺環境への影響
工事に伴う騒音、振動、粉じんの飛散、工事排水による水質汚濁などが、地域住民の生活環境に影響を与える可能性があります。

法規制の強化と社会的責任(CSR)

環境問題への意識の高まりを受け、建設業に関連する法規制は年々強化されています。これらは遵守すべき最低限のルールです。

建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)
特定の建設資材(コンクリート、アスファルト、木材など)について、現場での分別(ぶんべつ)解体と再資源化(リサイクル)を義務付けています。
[出典:環境省「建設リサイクル法」]

大気汚染防止法
アスベストを含む特定粉じんの飛散防止措置や、ディーゼルエンジンを搭載した特定の建設機械からの排出ガス(NOx, PM)規制を定めています。
[出典:環境省「大気汚染防止法」]

騒音規制法・振動規制法
杭打ち機などの特定の建設作業で発生する騒音や振動について、敷地境界での基準値や、作業可能な時間帯(夜間・早朝の禁止など)を制限しています。

これらの法令遵守はもちろんのこと、近年は発注者、投資家、金融機関、地域住民といったステークホルダー(利害関係者)からの要求も高まっています。企業が環境に配慮し、社会的責任(CSR)を果たすことは、信頼獲得や事業継続のための必須条件となりつつあります。

環境対策がもたらす企業メリット

環境対策は「コストがかかるもの」と捉えられがちですが、実際には企業に多くのメリットをもたらす「未来への投資」です。

環境対策がもたらす主な企業メリット

コスト削減
省エネ活動による燃料費・光熱費の削減や、廃棄物の削減(3R)による処理費用の削減。

企業イメージ・ブランド価値の向上
環境に配慮する「クリーンな企業」としての社会的評価の獲得。

入札における優位性
公共工事の総合評価落札方式などで、環境への取り組み(ISO14001取得など)が加点対象となるケース。

ESG投資の呼び込み
投資家が環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を考慮する「ESG投資」の対象となり、資金調達が有利になる可能性。

人材の確保・定着
社会貢献意識の高い企業として、優秀な人材の採用や従業員のモチベーション向上に寄与。

建設現場で実践すべき5つの環境対策とサステナビリティへの貢献

建設現場で取り組むべき環境対策は多岐にわたりますが、ここでは特に重要かつ実践的な5つの対策を紹介します。これらはすべて、企業のサステナビリティ(持続可能性)に直結する活動です。

本セクションで解説する5つの対策
  1. 廃棄物の削減と適正処理(3Rの推進)
  2. 省エネルギー・CO2削減の取り組み
  3. 水資源の保全と水質汚濁の防止
  4. 周辺環境への配慮(騒音・振動・粉じん対策)
  5. グリーン調達の推進

【対策1】廃棄物の削減と適正処理(3Rの推進)

建設現場から出る廃棄物を減らし、資源を循環させることは、環境負荷低減の基本です。3R(スリーアール)の考え方に基づき、徹底した管理を行います。

発生抑制(Reduce)
資材の歩留まり(使用効率)を向上させる施工計画を立て、端材の発生を最小限に抑えます。また、資材搬入時の過剰な梱包(こんぽう)をサプライヤーと協議し、簡素化します。

再使用(Reuse)
仮設材(足場、型枠など)は、洗浄や補修を行い、繰り返し転用します。まだ使用できる資材や工具は、安易に廃棄せず、他現場での再利用を検討します。

再生利用(Recycle)
廃棄物の分別(ぶんべつ)を現場で徹底することが最も重要です。法律(建設リサイクル法)で定められた品目以外も細かく分別し、信頼できるリサイクル業者に処理を委託します。

建設現場で廃棄物を正しく分別する作業員たち

現場での主な分別品目とリサイクル例

コンクリート塊、アスファルト塊:破砕して再生砕石(路盤材など)に利用されます。
木くず:チップ化して燃料(バイオマス発電)やボードの原料にします。
金属くず(鉄筋、鉄骨など):製鋼原料として再利用されます。
廃プラスチック類:種類によっては再生プラスチック製品の原料や固形燃料(RPF)になります。
石膏(せっこう)ボード:リサイクル工場で紙と石膏を分離し、再度石膏ボードの原料として利用されます。

【対策2】省エネルギー・CO2削減の取り組み

建設現場は重機や照明などで多くのエネルギーを消費します。脱炭素社会の実現(カーボンニュートラル)に向け、積極的な省エネ活動が求められます。

重機・車両の運用改善
エコドライブの徹底(急発進・急加速の禁止、経済速度での走行)や、不要なアイドリングストップを励行します。また、燃費効率の良い低燃費重機(ハイブリッド重機など)への切り替えや導入を検討します。

現場事務所・照明の省エネ
現場事務所や仮設トイレ、作業灯をLED照明に切り替えます。これは消費電力の大幅な削減に繋がります。事務所のエアコンの適正温度設定や、人感センサー付き照明の導入も有効です。

再生可能エネルギーの活用
現場事務所の屋根や仮囲いなど、設置可能なスペースがあれば太陽光パネルを設置し、発電した電力を現場の電力として利用します。

【対策3】水資源の保全と水質汚濁の防止

工事は、周辺の河川や地下水に影響を与える可能性があります。貴重な水資源を守り、水質汚濁を防ぐ対策が必要です。

現場内での節水
工事車両のタイヤ洗浄や、粉じん防止のための散水方法の工夫(ミスト散水、散水量の適正管理)を行います。また、現場事務所や仮設トイレに節水型機器(節水コマ、節水型トイレ)を導入します。

排水管理の徹底
掘削工事などで発生する泥水(濁水)を、そのまま河川や下水道に流さず、「濁水処理設備(沈殿槽やフィルター)」を通して浄化してから排水します。

油の流出防止
重機の燃料やオイルが地面に漏れ、雨水と共に流出するのを防ぎます。オイルパンや吸着マットを常備し、万が一の漏洩(ろうえい)に備えます。

雨水の有効活用
現場に貯留タンクを設置して雨水を溜め、散水や車両洗浄に利用することで、上水道の使用量を削減します。

【対策4】周辺環境への配慮(騒音・振動・粉じん対策)

建設工事は、近隣住民の生活環境に直接影響を与えます。良好な関係を保ち、クレームを未然に防ぐため、最大限の配慮が求められます。

低騒音・低振動型の機械の使用
可能な限り、国土交通省が指定する「低騒音型建設機械」「低振動型建設機械」を選定します。

作業時間の管理
騒音規制法などで定められた作業時間を遵守します。特に早朝・夜間の作業を避けるとともに、近隣住民への事前説明や工事案内の掲示で理解を求めます。

防音・防じん対策
騒音が発生する機械の周囲や現場の境界に、防音シート防音パネルを設置します。また、解体作業や土砂の運搬時には適宜散水を行い、粉じんの飛散を防ぎます。現場出入口での車両のタイヤ洗浄や、周辺道路の清掃も徹底します。

【対策5】グリーン調達の推進

使用する資材そのものから環境に配慮することも、重要なサステナビリティ活動です。

環境に配慮した資材の積極的な採用
エコマーク商品グリーン購入法適合商品(OA機器、文房具、作業着など)を優先的に選びます。また、リサイクル建材(再生砕石、再生骨材コンクリートなど)の使用を検討します。

サプライチェーン全体での環境配慮
資材の購入先や協力会社(サプライヤー)を選定する際、価格や品質だけでなく、その企業の環境への取り組み(ISO14001の取得状況など)も評価基準に含めます。自社だけでなく、取引先とも協力して環境負荷の低減(サステナブルなサプライチェーンの構築)を目指します。

環境対策とサステナビリティ実現の壁|よくある課題と解決策

環境対策の重要性は理解していても、実際の現場では「コスト」や「手間」が壁となり、実行が難しいケースもあります。ここでは、よくある不安と、その課題を乗り越えてサステナビリティを実現するためのヒントを解説します。

読者のよくある不安:「コスト」と「手間」

現場担当者や経営者からは、以下のような不安の声が聞かれます。

・ 「低燃費重機やLED照明の導入には、初期費用(イニシャルコスト)がかかりすぎる」
・ 「廃棄物の分別を細かくすると、作業員の工数(手間)が増えてしまい、工期に影響が出ないか心配だ」
・ 「具体的に何から始めればよいか、社内にノウハウが蓄積されていない」

これらの不安はもっともですが、環境対策を「コスト」としてだけ捉えると、その本質的な価値を見失ってしまいます。

課題解決のヒント:初期投資と長期リターンの比較

環境対策は、短期的に見ればコスト増や工数増になる側面もあります。しかし、長期的(LCC:ライフサイクルコスト)な視点で見れば、先に述べたような「企業メリット(コスト削減、企業価値向上)」としてリターンが期待できます。

重要なのは、初期投資と長期リターンを比較検討することです。

表:環境対策のコストとリターンの比較例
以下の表は、対策ごとのコスト感と期待されるリターンの一例をまとめたものです。

対策例 想定される初期コスト 期待される長期的リターン(一例)
LED照明への切り替え 中(導入費用) (電気代の大幅削減、電球の交換手間の削減)
廃棄物の分別徹底 低(教育、スペース確保) (廃棄物処理コストの削減、リサイクル率向上による企業評価UP)
低燃費重機の導入 高(リース・購入費用) (燃料費の大幅削減、CO2排出量削減による企業評価UP)
節水機器の導入 低~中(導入費用) (水道代の削減、水資源の保全アピール)

このように、初期コストがかかる対策ほど、長期的なコスト削減効果も大きい傾向があります。まずは「廃棄物の分別」など、低コストで始められる対策から着手し、そこで得られたノウハウやコスト削減分を、次の投資に回していくのが現実的な進め方です。

継続的なサステナビリティ活動のための体制づくり

環境対策は、一度行えば終わりではありません。企業のサステナビリティ活動として継続的に取り組むためには、現場任せにせず、会社全体での体制づくりが不可欠です。

PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を粘り強く回し続けることが、サステナビリティ活動を企業文化として定着させる鍵となります。

  1. Plan(計画)
    会社として「廃棄物リサイクル率◯%達成」「CO2排出量◯%削減」といった具体的な環境目標と、それを達成するための実行計画を立てます。

  2. Do(実行)
    計画に基づき、現場で対策を実行します。作業員全員が重要性を理解し、正しい行動(分別、アイドリングストップなど)を実践できるよう、朝礼での呼びかけや勉強会(「環境KY活動」など)を実施します。

  3. Check(評価)
    環境担当者を配置し、廃棄物の量、燃料の使用量、電力使用量などを定期的にチェック(モニタリング)し、計画通りに進んでいるか評価します。

  4. Action(改善)
    評価結果に基づき、問題点があれば計画や方法を見直し、次の活動に活かします。

まとめ:建設現場の環境対策で未来のサステナビリティを築こう

この記事では、建設現場で取り組むべき5つの具体的な環境対策と、その背景、課題の解決策について解説しました。

建設現場での環境対策は、法規制への対応や地域社会への配慮といった「守り」の側面だけでなく、コスト削減企業価値の向上競争力の強化といった「攻め」の経営戦略でもあります。そして何よりも、企業の持続可能性(サステナビリティ)を実現するために不可欠な取り組みです。

建設現場のサステナビリティを高める5つの対策
  1. 【廃棄物】3R(リデュース、リユース、リサイクル)の徹底
  2. 【省エネ】重機のエコドライブと現場事務所のLED化
  3. 【水資源】濁水処理の徹底と節水・雨水活用
  4. 【周辺環境】低騒音・低振動機械の採用と防音・防じん対策
  5. 【調達】リサイクル建材やエコ商品の積極的な採用

まずは「現場事務所の電気をこまめに消す」「廃棄物の分別を一つ徹底する」といった、明日からでも始められる小さな一歩が、未来のサステナビリティを築く大きな力となります。できることから着実に実行に移していきましょう。

よくある質問(FAQ)

ここでは、建設現場の環境対策に関して多く寄せられる質問とその回答をまとめます。

Q1. 中小規模の建設会社でも取り組める、優先度の高い環境対策は何ですか?

A1.
まずは、大きな初期投資を必要としない対策から始めることをお勧めします。

  1. 廃棄物の分別徹底:コストは教育と分別スペースの確保程度ですが、廃棄物処理コストの削減に直結します。
  2. アイドリングストップの励行:現場でのルール化と意識徹底で、燃料費の削減に繋がります。
  3. 事務所の節電・節水:エアコンの温度設定、こまめな消灯、節水コマの設置など、すぐに実行できることが多いです。
    これらの取り組みで成果(コスト削減)が出たら、次に費用対効果の高い「現場照明のLED化」などを検討する、というステップを踏むと無理なく進められます。

Q2. 環境対策の取り組みを外部にアピールする方法はありますか?

A2.
取り組みを「見える化」し、外部に発信することは非常に重要です。
自社ホームページ:サステナビリティ(またはCSR、環境活動)の専門ページを設け、具体的な取り組み内容や環境目標を公開します。
ISO14001の取得:国際規格である「環境マネジメントシステム(EMS)」の認証を取得することは、対外的な信頼度を大きく高めます。
自治体や業界団体の表彰制度:環境に配慮した優良な取り組みを行っている企業や現場を表彰する制度に応募し、認定を受けることも有効なアピールになります。
現場の仮囲い:現場の仮囲いに、実施している環境対策(「アイドリングストップ実施中」「リサイクル推進現場」など)を掲示するのも良い方法です。

Q3. 環境対策に使える補助金や助成金はありますか?

A3.
はい、国や地方自治体が、企業の環境対策(特に脱炭素化、省エネ)を支援するための様々な補助金・助成金制度を用意しています。
対象例:省エネルギー設備(高効率空調、LED照明、断熱改修など)の導入費用、低公害車(EV、ハイブリッド重機など)の購入費用の一部を補助するものが代表的です。
注意点:補助金は年度ごとに内容が変わり、公募期間も限られています。また、申請には詳細な計画書が必要になる場合が多いです。
情報収集:まずは、環境省の「脱炭素化事業支援サイト」や、各都道府県・市町村の環境局や産業振興課のウェブサイトで、最新の公募情報を確認することをお勧めします。
[出典:環境省「脱炭素化事業支援サイト(事業一覧)」]

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