中小建設業が始めるサステナ対応とは?第一歩を紹介

この記事の要約
- 中小建設業もサステナビリティ対応が必須な理由を解説
- コストや人材不安を解消するサステナビリティの始め方
- 建設業が取り組むべきE・S・Gの具体的な行動ステップ
- 目次
- 中小建設業が知るべき「サステナビリティ」の基本
- サステナビリティとは?(ESG・SDGsとの違い)
- なぜ今、建設業界で「サステナビリティ」が重要なのか
- 中小建設業がサステナビリティに取り組むメリット
- サステナビリティ対応、中小企業には難しい?(よくある不安)
- 不安1:「何から手をつければ良いか分からない」
- 不安2:「コストがかかりすぎて本業を圧迫しそう」
- 不安3:「専門知識を持つ人材がいない」
- 中小建設業が「サステナビリティ」を始めるための具体的な第一歩
- 建設業におけるサステナビリティの主要分野と取り組み例
- 【環境:E】資源循環と脱炭素への取り組み
- 【社会:S】働きやすい環境づくりと安全管理
- 【ガバナンス:G】透明性の高い経営とコンプライアンス
- 「サステナビリティ」と「SDGs」「CSR」はどう違う?
- 言葉の意味と関係性の比較
- 中小建設業はどれを意識すべきか?
- まとめ:サステナビリティは未来への投資。まずは第一歩から
- 中小建設業のサステナビリティに関するよくある質問
中小建設業が知るべき「サステナビリティ」の基本
近年、「サステナビリティ」という言葉を耳にする機会が増えましたが、具体的に何を指すのか、特に中小建設業にとってどう関係するのか、基本から解説します。これは大企業だけのものではなく、企業の存続に直結する重要な経営課題です。
サステナビリティとは?(ESG・SDGsとの違い)
サステナビリティ(Sustainability)とは、日本語で「持続可能性」と訳されます。これは、地球環境や社会システムを将来の世代にわたって維持し、企業活動と社会・環境が長期的に両立できる状態を目指す考え方です。
建設業におけるサステナビリティは、単なる環境配慮(CO2削減や廃棄物対策)だけを指すものではありません。以下の3つの側面から成り立っています。
- 環境(Environment): 省エネ建築、廃棄物削減、資源の有効活用など
- 社会(Social): 労働者の安全確保、働きやすい職場環境、地域社会への貢献など
- 経済・ガバナンス(Economic/Governance): 健全な経営基盤、法令遵守、公正な取引など
よく似た言葉にESGやSDGsがありますが、以下のように整理できます。
・ESG: 企業がサステナビリティを実現するために配慮すべき3つの観点(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)を示す、投資家目線の用語です。
・SDGs: 2030年までに世界が達成すべき17の国際目標です。企業がサステナビリティを考える上での「共通のゴール」として活用されます。
つまり、中小建設業にとってのサステナビリティとは、環境に配慮し、働く人々を守り、法令を守って健全な経営を行うことで、「長期的に企業を存続させていくための経営戦略」そのものと言えます。
なぜ今、建設業界で「サステナビリティ」が重要なのか
建設業界において、今まさにサステナビリティの重要性が急速に高まっています。その背景には、中小建設業の経営に直結する4つの大きな変化があります。
- 建設業界でサステナビリティが重要な4つの背景
・1. 法規制の強化
脱炭素社会の実現に向け、国は法規制を強化しています。代表的なものが「建築物省エネ法」(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)であり、省エネ基準への適合義務化が進んでいます。また、「建設リサイクル法」(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)や廃棄物処理法など、環境負荷低減に関する規制も年々厳しくなっています。これらの法令に対応することは、企業の最低限の責務です。
[出典:国土交通省「建築物省エネ法のページ」]
[出典:環境省「建設リサイクル法」]・2. 発注者・取引先からの要請
官公庁の公共工事はもちろん、近年は民間デベロッパーや大手ゼネコンも、サプライチェーン全体でのサステナビリティ対応を重視しています。一次下請けだけでなく、二次、三次下請け企業に対しても、環境配慮や安全管理、適正な労働環境の整備などを求めるケースが増加しています。対応が遅れれば、取引から除外されるリスクさえあります。・3. 人材確保の観点
建設業界は深刻な人手不足に直面しています。特に若手の求職者は、給与や待遇だけでなく、「働きがい」や「社会貢献度」「安全に働ける環境」を重視する傾向が強まっています。サステナビリティ(特に「社会」分野)への取り組みは、労働環境の整備に直結し、企業の採用力強化や従業員の定着率向上に不可欠です。・4. 金融機関の評価
金融機関が企業に融資や投資を行う際、財務情報だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを評価する「ESG投融資」が広がっています。中小企業であっても、サステナビリティに配慮した経営を行っていることが、資金調達時の信用評価や金利優遇につながる可能性が出てきています。
中小建設業がサステナビリティに取り組むメリット
サステナビリティへの対応は「コスト」や「義務」と捉えられがちですが、特にリソースの限られる中小建設業にとっては、経営基盤を強化するための多くのメリットがあります。
サステナビリティ対応による主なメリット
以下の表は、中小建設業がサステナビリティに取り組むことで得られる具体的なメリットを分類したものです。
| メリットの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 経営基盤の強化 | コスト削減(光熱費、燃料費、廃棄物処理費の削減)、コンプライアンス遵守による行政処分等のリスク回避 |
| 競争力の向上 | 取引先(大手ゼネコン・官公庁)からの信頼獲得、入札時の加点評価、環境配慮などを求める新規顧客の開拓 |
| 人材の確保と定着 | 労働環境の改善(長時間労働是正、安全確保)による離職率低下、若手・多様な人材の採用力アップ |
| 企業イメージの向上 | 地域社会からの評価向上、自社の取り組みの「見える化」による信頼性向上 |
このように、サステナビリティへの取り組みは、守りの側面(リスク回避、コスト削減)と、攻めの側面(競争力向上、人材確保)の両方を持つ、重要な経営戦略です。
サステナビリティ対応、中小企業には難しい?(よくある不安)
メリットは分かっても、「サステナビリティは大企業の話だろう」「日々の業務で手一杯なのに、コストや人手をかけられない」といった不安を感じる経営者の方も多いはずです。ここでは、中小建設業ならではの「よくある不安」とその解消法を考えます。
不安1:「何から手をつければ良いか分からない」
これは最も多い不安です。「サステナビリティ」という言葉が壮大で、情報が多すぎることが原因です。また、他社の立派な取り組みを見ても、自社にどう置き換えれば良いか分からず、立ち止まってしまいがちです。
しかし、心配は不要です。重要なのは「自社のできること」から始めること。この記事の後半で紹介する「具体的な第一歩」のセクションで、どんな中小企業でも始められるステップを解説します。
不安2:「コストがかかりすぎて本業を圧迫しそう」
確かに、省エネ性能の高い重機への買い替えや、事務所のLED化など、初期投資が必要な取り組みもあります。しかし、サステナビリティ対応はそれだけではありません。
例えば、「現場での廃棄物分別の徹底」「社用車のアイドリッピングストップ」「事務所の不要な照明の消灯」などは、コストゼロですぐに始められます。これらは、長期的には廃棄物処理費用や燃料費、光熱費の削減につながり、むしろコストダウンに貢献します。まずは「コストをかけずにできること」から始めるのが賢明です。
不安3:「専門知識を持つ人材がいない」
サステナビリティ推進のために、専門部署を新設したり、専任の担当者を雇ったりする必要はありません。中小建設業の場合、まずは経営者自身がその重要性を理解し、既存の管理部門(総務や経理)や現場の責任者が兼任する形で十分です。
大切なのは「知識」よりも「意識」です。自社の現状を把握し、「安全管理を徹底する」「無駄をなくす」といった、建設業として当たり前のことを確実に実行していくことが、サステナビリティの基本となります。必要であれば、商工会議所や外部機関が提供する簡易診断などを活用するのも一つの方法です。

中小建設業が「サステナビリティ」を始めるための具体的な第一歩
ここからは、実際にサステナビリティ対応を始めるための具体的な4つのステップを紹介します。難しく考えず、自社にできることから取り組むことが重要です。これは、自社の経営課題を整理し、足元を固めるプロセスでもあります。
- サステナビリティを始めるための具体的な4ステップ
・ステップ1:自社の現状と課題の「見える化」
最初に行うべきは、自社が置かれている状況を客観的に把握することです。まずは以下の3つの観点から「見える化」を試みましょう。
1. エネルギー使用量の確認
事務所や倉庫の電気代、ガス代の請求書、社用車や重機のガソリン代・軽油代の記録を確認し、月別・年別でどれくらい使用しているかを把握します。
2. 廃棄物の確認
現場ごと、または会社全体で、どのような種類の廃棄物(コンクリートがら、木くず、廃プラスチックなど)が、どれくらいの量発生し、その処理にいくらコストがかかっているかを確認します。
3. 労働環境の確認
従業員の残業時間、有給休暇の取得率、労災の発生件数、ヒヤリハットの報告状況、安全パトロールの実施状況などを確認します。・ステップ2:取り組むべき優先課題(マテリアリティ)の決定
ステップ1で自社の現状が見えると、「光熱費が高い」「廃棄物処理費がかさんでいる」「残業が多い」といった課題が浮かび上がってきます。
次に、それらの課題の中から、「自社の経営にとって重要度が高く」かつ「社会や取引先からの要請も強い」ものを選び出します。これを専門用語でマテリアリティ(重要課題)の特定と呼びます。リソースが限られる中小企業だからこそ、すべての課題に手を出すのではなく、最も影響が大きく、自社でも取り組む意義のある課題にリソースを集中させることが重要です。・ステップ3:小さな目標と行動計画の策定
優先課題が決まったら、具体的な目標を立てます。ここで重要なのは、いきなり「CO2排出ゼロ」のような大きな目標を立てないことです。
まずは「今年中に事務所の照明をすべてLED化する」「現場の廃棄物分別ルールを策定し、全現場で徹底する」「社用車のアイドリングストップを義務化する」といった、達成可能で具体的な小さな目標を立てます。そして、それを「誰が」「いつまでに」「どうやって」実行するのかという簡単な行動計画に落とし込みます。・ステップ4:社内での共有と意識改革
決めた目標や計画は、経営者だけが知っていても意味がありません。朝礼やミーティングの場、あるいは社内掲示板などを活用し、全従業員に共有します。
その際、単に「ルールだから守れ」と指示するのではなく、「なぜこれに取り組むのか(例:コスト削減のため、取引先の信頼を得るため、安全に働くため)」という背景やメリットを丁寧に説明し、全社的な意識改革につなげることが成功の鍵となります。
建設業におけるサステナビリティの主要分野と取り組み例
ステップを踏まえた上で、具体的にどのような取り組みが考えられるか、「環境(E)」「社会(S)」「ガバナンス(G)」の3つの分野に分けて、中小建設業でも始めやすい行動例を紹介します。まずは自社の業務に最も関連が深いものからチェックしてみてください。
【環境:E】資源循環と脱炭素への取り組み
建設業は資源やエネルギーを多く消費する産業だからこそ、環境配慮の取り組みはコスト削減にも直結しやすい分野です。
・ 現場での廃棄物の徹底した分別(リサイクル率の向上、処理コストの削減)
・ 節水・節電の徹底(事務所、現場事務所でのこまめな消灯、エアコンの温度設定)
・ 社用車・重機の燃費管理、急発進・急加速の禁止、アイドリングストップの徹底
・ 可能な範囲でのエコ資材(リサイクル材、低VOC塗料など)の利用検討や顧客への提案
・ 事務所や倉庫の照明のLED照明への切り替え
【社会:S】働きやすい環境づくりと安全管理
建設業の持続可能性において、「人」の問題は最も重要です。「安全」と「働きがい」は、人材確保の生命線となります。
・ 安全パトロールの強化と、ヒヤリハット事例の収集・共有・対策会議の実施
・ 定期的な安全衛生教育の実施(新規入場者教育の徹底、KY活動(危険予知活動)の質の向上)
・ 長時間労働の是正(ノー残業デーの設定、適正な工期の交渉)
・ 有給休暇取得の奨励(計画的付与制度の導入)
・ 資格取得支援制度の整備とキャリアアップの明確化
・ 現場周辺の清掃活動など、地域社会への貢献活動への参加
[出典:厚生労働省「職場のあんぜんサイト:安全衛生教育(危険性又は有害性等の調査等)」]
[出典:厚生労働省「職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット活動」]

【ガバナンス:G】透明性の高い経営とコンプライアンス
健全な企業統治(ガバナンス)は、取引先や従業員からの信頼の土台となります。法令遵守はサステナビリティの最低条件です。
・ 法令遵守(建設業法、労働基準法、下請法など)の再徹底と社内教育
・ 就業規則や安全管理マニュアルなど、明確な社内ルールの策定と周知
・ 取引先(特に下請業者)との公正な関係構築(不当な値引き要求の禁止、適正な支払いサイトの遵守)
・ 小さな取り組みでも良いので、自社のウェブサイトなどで情報発信(「安全への取り組み」「環境への配慮」など)
「サステナビリティ」と「SDGs」「CSR」はどう違う?
サステナビリティと共によく聞かれる「SDGs」や「CSR」との違いについて混乱する方も多いため、ここでそれぞれの関係性を整理します。これらの言葉を正しく理解することで、自社の取り組みを整理しやすくなります。
言葉の意味と関係性の比較
以下の表は、3つの用語の主な意味や焦点を比較したものです。
サステナビリティ・CSR・SDGsの比較
| 用語 | 主な意味・焦点 | 目的・ゴール |
|---|---|---|
| サステナビリティ | 持続可能性(環境・社会・経済) | 企業活動と社会・環境が長期的に両立できる状態。経営戦略そのもの。 |
| CSR | 企業の社会的責任 | 主に本業活動や、本業で得た利益の還元(寄付、ボランティア等)を通じた社会貢献。法令遵守も含む。 |
| SDGs | 持続可能な開発目標 | 2030年までの世界共通の17の目標(国際社会の課題)。サステナビリティを実現するための「共通言語」。 |
中小建設業はどれを意識すべきか?
結論として、中小建設業は「サステナビリティ」を自社の基本的な考え方(経営戦略の土台)として意識することが最も重要です。
その上で、自社のサステナビリティ(持続可能性)を高めるための具体的な行動(例:安全教育の徹底、廃棄物削減)が、結果として「SDGs」のゴール(例:ゴール8「働きがいも経済成長も」、ゴール12「つくる責任つかう責任」)の達成に貢献している、と整理するのが分かりやすいでしょう。
また、法令遵守や地域清掃といった「CSR」活動も、広い意味でサステナビリティを支える重要な要素となります。
まずは「自社の事業を未来永劫続けていくため(=サステナビリティを高めるため)に何をすべきか」という視点で考えることが第一です。
まとめ:サステナビリティは未来への投資。まずは第一歩から
中小建設業にとってのサステナビリティ対応は、遠い未来の話や大企業だけのものではありません。むしろ、人手不足やコスト管理、コンプライアンス対応が経営に直結する中小企業こそ、持続可能な経営基盤を築くために不可欠な取り組みです。
- 中小建設業がサステナビリティに取り組む意義
・ サステナビリティは、環境配慮だけでなく、働き手の確保や健全な経営を含む「企業存続のための戦略」です。
・ 「コストがかかる」「人手がいない」と諦めず、まずは自社の現状把握(エネルギー使用量、労働環境など)から始めましょう。
・ 廃棄物の分別徹底や安全管理の強化、法令遵守など、建設業としての「当たり前」を確実にレベルアップさせることが、サステナビリティの確実な第一歩になります。
すべてを一度にやろうとする必要はありません。この記事で紹介した「現状把握」という第一歩から着実に始めることが、5年後、10年後も発注者や従業員、そして地域社会から必要とされる企業であり続けるための鍵となります。
中小建設業のサステナビリティに関するよくある質問
Q. サステナビリティ対応は法律上の義務ですか?
A. サステナビリティという概念自体が「義務」として法律で定められているわけではありません。しかし、サステナビリティに関連する個別の法律(例:建築物省エネ法、廃棄物処理法、労働安全衛生法、建設業法など)は、当然ながら遵守する義務があります。サステナビリティへの取り組みは、これらの法令遵守(コンプライアンス)を確実にし、さらに一歩進んで企業の競争力を高め、リスクを管理する活動と捉えると良いでしょう。
Q. 取り組みを始めるにあたり、活用できる補助金や助成金はありますか?
A. あります。取り組む内容によって様々な制度が用意されています。例えば、省エネ設備の導入(事務所のLED化、高効率空調への更新など)に対する補助金(例:事業再構築補助金、ものづくり補助金、各自治体の省エネ補助金など)や、働き方改革・労働環境改善(例:ITツール導入による業務効率化、新たな休暇制度の導入)に対する助成金(例:キャリアアップ助成金、業務改善助成金など)が代表的です。取り組みたい内容に応じて、管轄の省庁や自治体、商工会議所などの情報を確認することをおすすめします。
Q. 取り組みを対外的にアピールする簡単な方法はありますか?
A. まずは自社のウェブサイト(ホームページ)に「サステナビリティ方針」や「私たちの取り組み」といった簡単なページを作ることが第一歩です。大掛かりなレポートを作成する必要はありません。「私たちは安全管理を徹底しています」「廃棄物の分別・リサイクルに取り組んでいます」「従業員の資格取得を支援しています」といった、すでに行っていることを整理して記載するだけでも、発注者や金融機関、そして未来の従業員(求職者)への有効なアピールにつながります。




