「補助金」の基本知識

個人事業主が申請可能な建設業向け補助金とは?


更新日: 2025/12/03
個人事業主が申請可能な建設業向け補助金とは?

この記事の要約

  • 建設業の個人事業主も使える主要な補助金制度4選を徹底比較
  • 設備投資やIT化に役立つ対象経費と採択率を高める選び方
  • 後払いの資金繰りや電子申請など申請前に知るべき注意点
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建設業における「補助金」と「助成金」の違いとは?

建設業を営む個人事業主が資金調達を検討する際、最初に理解すべきなのが「補助金」と「助成金」の明確な違いです。両者は混同されがちですが、管轄する省庁や目的、受給の難易度が大きく異なります。ここではそれぞれの定義と、なぜ個人事業主が対象となるのかを解説します。

補助金と助成金の定義と特徴

資金調達手段としての「補助金」と「助成金」は、以下のように定義されます。建設業の事業拡大(ドローン導入やシステム化など)を目指す場合は、主に「補助金」が対象となります。

  • 補助金
    主に経済産業省が管轄し、事業の拡大や設備投資を支援する制度。予算に上限があるため審査があり、要件を満たしても必ず受給できるわけではありません(採択率が存在する)。

  • 助成金
    主に厚生労働省が管轄し、雇用環境の改善や人材育成を支援する制度。要件を満たしていれば原則として受給可能で、通年で募集されていることが多いのが特徴です。

両者の主な違いは以下の表の通りです。

比較項目 補助金 助成金
主な管轄省庁 経済産業省(中小企業庁など) 厚生労働省
主な財源 税金(予算上限あり) 雇用保険料など
審査の有無 あり(事業計画書の審査が必要) なし(形式要件の確認のみ)
受給難易度 高い(倍率により不採択のリスクあり) 低い(要件合致なら受給可)
公募期間 1ヶ月〜数ヶ月程度の期間限定 通年(予算消化まで)

[出典:中小企業庁 補助金等の広報・公募案内]

個人事業主でも申請可能な理由

「補助金は法人のためのもの」と誤解されがちですが、多くの制度において個人事業主(フリーランス・一人親方含む)も正式な支援対象とされています。

個人事業主が申請資格を得るための主な条件
  • 開業届を提出し、事業実態があること
  • 確定申告を行っていること(納税証明書が必要になる場合が多い)
  • (制度によるが)建設業許可の有無は問われないことが多いが、あると事業実態の証明に有利

国としては中小企業の活性化を目的としているため、事業規模の大小よりも「具体的で実現性の高い事業計画」を持っているかどうかが重視されます。

建設業を営む個人事業主が実際に活用しやすい補助金として、国の予算規模が大きく、採択実績も豊富な主要4制度をご紹介します。それぞれの補助金は、「販路開拓」「設備投資」「IT化」「事業転換」と目的が明確に分かれています。自社の課題に合わせて最適な制度を選ぶことが重要です。

補助金名 最大補助額(目安) 補助率 主な対象経費 おすすめ度
小規模事業者持続化補助金 50万円〜200万円 2/3 広報費、ウェブサイト、機械装置 ★★★★★
ものづくり補助金 750万円〜 1/2 または 2/3 高額な重機、革新的な設備 ★★★★☆
IT導入補助金 5万円〜450万円 1/2〜4/5 図面作成ソフト、管理システム ★★★★☆
事業再構築補助金 成長枠等は高額 1/2 など 建物の改修、大規模設備 ★★★☆☆

小規模事業者持続化補助金

常時使用する従業員が20人以下(建設業の場合)の小規模事業者を対象とした、最も利用しやすい補助金です。商工会議所や商工会のサポートを受けながら事業計画を作成できるため、補助金申請が初めての個人事業主(一人親方)に特におすすめです。

  • 目的
    地道な販路開拓や業務効率化の取り組みを支援。

  • 建設業での活用例
    自社ホームページの作成・リニューアルによる直接受注(BtoC)の獲得、地域へのチラシ配布、特定業務用の小規模な機械装置の導入など。

ものづくり補助金

新しいサービスや試作品の開発、生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援する制度です。補助金額が大きいため、建設現場の生産性を劇的に向上させるような本格的な設備投資に向いています。

  • 目的
    革新的なサービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善。

  • 建設業での活用例
    ICT建機(情報通信技術を活用した建設機械)、3D測量用ドローン、3Dスキャナ、レーザー加工機などの高額設備の導入。

IT導入補助金

中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助する制度です。建設業界でも進むDX(デジタルトランスフォーメーション)や、インボイス制度への対応に最適です。

  • 目的
    業務効率化、DXの推進、インボイス制度への対応。

  • 建設業での活用例
    建設業向け原価管理システム、CAD(図面作成)ソフト、会計ソフト、受発注システムなど。

事業再構築補助金

新型コロナウイルスの影響や経済社会の変化に対応するため、思い切った事業再構築に意欲を有する事業者を支援する大型の補助金です。既存の建設業の枠を超えた、大胆な業態転換に挑戦する場合に活用できます。

  • 目的
    新市場進出、事業転換、業種転換。

  • 建設業での活用例
    建設業から不動産業への参入、下請け中心から元請けリフォーム事業への本格転換(ショールーム建設など)、建設廃材を活用したリサイクル事業の開始など。

建設業における補助金の対象経費と使い道

補助金は「事業のために使うお金なら何でも出る」わけではありません。各公募要領には明確な「補助対象経費」が区分されています。ここでは、建設業の個人事業主が申請時によく計上する経費カテゴリについて解説します。

建設現場でドローンとタブレットを活用し、IT導入による業務効率化を図る個人事業主の様子

機械装置・システム構築費

業務の効率化や生産性向上に直結する設備の購入費用です。単なる老朽化に伴う買い替え(更新)は対象外となることが多く、新たな価値を生むものが推奨されます。

  • 建設重機・特殊車両
    ※汎用性が高く、公道を走る車両は対象外になるケースが多いので注意が必要です。
  • 測量用ドローン
  • 3Dスキャナ
  • ICT建機
  • 専用ソフトウェアの構築・購入費

広報費・Webサイト関連費

新規顧客を獲得するための販路開拓にかかる費用です。特に小規模事業者持続化補助金でメインとなる経費です。

  • Webサイト制作・更新費
    集客用ホームページの新規作成やSEO対策を施したリニューアル。
  • Web広告費
    リスティング広告やSNS広告の出稿費用。
  • チラシ・カタログ作成費
    ポスティング用チラシや会社案内のデザイン・印刷・配布費。
  • 看板設置費
    現場シートや野立て看板の設置費用。

専門家経費・外注費

自社だけでは実施できない業務を外部に委託する費用や、専門家からの指導料です。

  • 専門家謝金
    経営コンサルタントや中小企業診断士への相談費用。
  • 業務委託費
    システム開発の外注や、市場調査の依頼費用。
  • 行政書士等への申請代行費
    補助金申請そのものの代行費用は対象外ですが、「事業遂行に必要な」許認可取得などの費用は対象になる場合があります(制度により異なるため要確認)。

自分に合った補助金の選び方と難易度比較

多くの補助金の中から自社に最適なものを選ぶには、「補助金額」だけでなく「採択される可能性(難易度)」や「事業のフェーズ」を考慮する必要があります。無理に高額な補助金を狙って不採択になり、時間を無駄にするリスクは避けるべきです。

補助金額と採択率のバランスで選ぶ

補助金額が高くなればなるほど、求められる事業計画のレベルが上がり、審査も厳しくなります。

難易度・金額 補助金額:低(〜100万円未満) 補助金額:中(100〜1,000万円) 補助金額:高(1,000万円〜)
採択難易度:高 - ものづくり補助金
(革新性が必須)
事業再構築補助金
(大規模な転換が必要)
採択難易度:中 IT導入補助金
(ツール選定が鍵)
- -
採択難易度:低 小規模事業者持続化補助金
(比較的通りやすい)
- -
  • まずはここから
    初めて申請するなら、難易度が比較的低く、使い勝手の良い「小規模事業者持続化補助金」が推奨されます。

  • 設備投資があるなら
    明確に導入したい機械やソフトがある場合は「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」を検討します。

事業規模と投資タイミングで選ぶ

現在の事業状況によっても選ぶべき制度は変わります。

事業フェーズごとの推奨補助金
  • 開業直後・安定化フェーズ
    知名度アップや顧客基盤を作りたい時期。
    推奨:小規模事業者持続化補助金(HP作成やチラシで地域に周知)

  • 成長期・効率化フェーズ
    受注が増え、人手不足や生産性の低さが課題になる時期。
    推奨:IT導入補助金(事務作業の自動化)、ものづくり補助金(生産性の高い重機の導入)

  • 変革期・転換フェーズ
    建設需要の低下や資材高騰に対応するため、業態を変えたい時期。
    推奨:事業再構築補助金(リフォームや不動産など新分野へ進出)

建設業の個人事業主が補助金申請で注意すべきポイント

補助金は「貰えるお金」というメリットばかりに目が行きがちですが、制度特有のルールやリスクも存在します。特に建設業の個人事業主が陥りやすいトラブルを未然に防ぐためのポイントを解説します。

電子申請の手続きを進める建設業の個人事業主の様子

原則「後払い」であることの資金繰り対策

最も重要な点は、補助金は原則として後払い(精算払い)であることです。採択されてもすぐに入金されるわけではありません。

補助金受給までの一般的なフロー
  • 1. 交付決定(採択)
  • 2. 契約・発注・納品・支払い(全額自己負担
  • 3. 実績報告書の提出
  • 4. 確定検査・承認
  • 5. 補助金の入金

このサイクルにより、実際に補助金が入金されるのは、経費を支払ってから半年〜1年以上先になることもあります。数百万円の設備を購入する場合、その期間の資金(つなぎ融資や自己資金)を確保しておかなければ、最悪の場合、黒字倒産するリスクがあります。事前に金融機関へ相談しておくことが重要です。

課税対象となる場合と税務処理

受け取った補助金は、税務上「事業所得(雑収入)」として扱われます。つまり、所得税や住民税の課税対象となります。

  • 補助金を受け取った年度は利益が大きく跳ね上がる可能性があります。
  • 「圧縮記帳」という会計処理を行うことで、補助金分の課税を翌年度以降に繰り延べ、固定資産の取得価額を減額して減価償却する方法が一般的です。
  • 税務処理が複雑になるため、必ず税理士に相談して確定申告を行う必要があります。

事務作業の負担と電子申請(gBizID)の準備

近年の補助金申請は、ほぼ全てインターネット経由の電子申請となっています。

  • gBizIDプライムアカウントの取得
    申請には政府共通の認証システム「gBizIDプライム」のアカウントが必要です。発行には印鑑証明書の郵送などが必要で、2週間程度かかる場合があるため、早めの取得が必須です。

  • 事務負担の覚悟
    申請書の作成だけでなく、採択後の「実績報告」や、その後数年間にわたる「事業化状況報告」など、多くの事務作業が発生します。現場に出ている個人事業主にとっては大きな負担となるため、事務作業の時間を確保するか、専門家のサポートを受ける体制を整える必要があります。

まとめ:建設業の個人事業主も補助金を活用して事業拡大を目指そう

建設業の個人事業主にとって、補助金は設備投資や販路拡大を加速させる強力なツールです。法人でなくとも申請可能な制度は多く存在します。

  • まずは小規模事業者持続化補助金で、HP作成やチラシ配布などの少額投資から始めるのがおすすめです。
  • 設備投資にはものづくり補助金、事務効率化にはIT導入補助金を検討しましょう。
  • 資金繰り(後払い)と事務負担を考慮し、計画的に準備を進めることが採択への近道です。

自身の事業課題に合った補助金を選定し、賢く活用することで、厳しい建設業界での競争力を高めていきましょう。

補助金に関するよくある質問

ここでは、建設業の個人事業主から寄せられる補助金申請に関する疑問に回答します。

Q1. 赤字決算や開業届を出したばかりでも申請できますか?

原則として可能です。多くの補助金では「直近が赤字であること」だけを理由に不採択にはなりません。ただし、今後どのように黒字化していくかという実現性の高い事業計画書が求められます。開業直後の場合、開業届の写し等で事業実態が確認できれば申請可能です(一部、決算書が一期分必要な場合もあります)。

Q2. 自分で申請手続きを行うことは可能ですか?

可能です。すべての手続きは事業者本人が行うことが前提となっています。しかし、事業計画書の作成には専門的な知識や文章力が求められるため、採択率を高めるために認定支援機関(商工会議所、金融機関、税理士、行政書士など)のサポートを受けるケースが一般的です。

Q3. 補助金が不採択になった場合、再申請はできますか?

可能です。多くの補助金は年に複数回の締め切り(公募回)を設けています。不採択となった理由(事務局からのフィードバックがある場合もあります)を分析し、事業計画書をブラッシュアップして次の公募回に再度申請することができます。

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