グリーン調達とは?建設業に求められる認証対応を解説

この記事の要約
- 建設業で必須化するグリーン調達の定義と背景を解説
- 公共工事や入札に有利な環境認証や法規制を網羅
- コストや手間を抑えて導入するための実践手順を紹介
- 目次
- 建設業におけるグリーン調達とサステナビリティの重要性
- グリーン調達の定義と本質(QCD+E)
- 建設業界における脱炭素化とエンボディド・カーボン
- 発注者からの要求水準(スコープ3への対応)
- グリーン調達の基準となる主な評価指標と法規制
- グリーン購入法の影響力と特定調達品目
- 建設リサイクル法と資源有効利用促進法
- エコマークやJIS規格の活用と確認方法
- 建設業が対応すべき主要な環境認証とサステナビリティ評価
- CASBEE(建築環境総合性能評価システム)
- LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)
- エコリーフ環境ラベルとEPD
- ISO 14001(環境マネジメントシステム)
- グリーン調達を導入するメリットと企業の社会的責任
- 受注機会の拡大と入札優位性
- 企業ブランドの向上と人材確保
- コスト削減とLCC(ライフサイクルコスト)
- 読者が抱く「グリーン調達」導入への不安と解決策
- コストアップへの懸念と対処
- 資材調達の難易度とサプライチェーン管理
- グリーン調達の実践ステップ:サステナビリティを意識した工程
- 建設資材の比較検討:環境負荷と品質の両立
- 再生資材 vs バージン資材
- 地産地消の推進(地域資材の活用)
- まとめ:サステナビリティを核としたグリーン調達の実現に向けて
- よくある質問(FAQ)
- Q1. グリーン調達は中小企業でも対応が必要ですか?
- Q2. 最も優先して取得すべき認証や対応は何ですか?
- Q3. グリーン資材は通常より価格が高いのでしょうか?
建設業におけるグリーン調達とサステナビリティの重要性
建設業界において、品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)に加え、環境(Environment)への配慮が不可欠な時代となりました。本章では、グリーン調達の定義と、なぜ今サステナビリティへの対応が急務となっているのか、その背景と市場からの要求について解説します。

グリーン調達の定義と本質(QCD+E)
グリーン調達とは、製品やサービスを購入する際、価格や品質だけでなく「環境負荷の少なさ」を優先的な選定基準とする取り組みのことです。建設業においては、単にエコなものを買うだけでなく、サプライチェーン全体で環境負荷を低減させる仕組みづくりが本質となります。
- 建設業におけるグリーン調達の具体的要素
- 環境配慮型資材の採用
再生材の使用、有害物質を含まない材料、長寿命化資材の選定。 - サプライヤーの選定
ISO 14001(環境マネジメントシステム)を導入している協力会社への優先発注。 - 物流の効率化
地産地消による輸送時のCO2排出削減、積載率の向上。
- 環境配慮型資材の採用
建設業界における脱炭素化とエンボディド・カーボン
建設産業は資源の大量消費産業であり、国内の廃棄物排出量の約2割、全産業のCO2排出量の相当数を占めています。政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」達成には、建設分野での取り組みが不可欠です。
特に注目されているのがエンボディド・カーボン(Embodied Carbon)の削減です。これは、建物の運用時のエネルギー(エアコンや照明)ではなく、資材の調達・製造・運搬・建設・廃棄の過程で排出されるCO2を指します。省エネビルの普及により運用時のCO2が減る中、建設段階でのCO2削減(グリーン調達)の重要性が相対的に増しています。
発注者からの要求水準(スコープ3への対応)
現在、グリーン調達は「推奨事項」から「必須要件」へとシフトしています。背景には、発注者である国や大企業が、自社の活動だけでなくサプライチェーン全体(スコープ3)での脱炭素を求められている事情があります。
- 公共工事
国や自治体の発注工事では、環境配慮が原則必須です。グリーン購入法に基づく資材選定ができなければ、仕様書を満たせません。 - 民間企業案件
ESG経営を推進する大手デベロッパーや施主企業は、建設会社に対しても同等の環境基準を要求します。これに対応できない場合、入札や見積もりの土俵に上がれないリスクが生じます。
グリーン調達の基準となる主な評価指標と法規制
グリーン調達を実践する上で、遵守すべき法規制と、資材選定の「ものさし」となる評価指標を理解することは実務の第一歩です。ここでは、公共工事で特に重要となる法律や、現場で確認すべきマークについて詳述します。
グリーン購入法の影響力と特定調達品目
2001年に本格施行されたグリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)は、国や独立行政法人などの公的機関に対し、環境負荷低減に資する物品の調達を義務付ける法律です。
建設業において公共工事を受注する場合、この法律に基づき定められた「特定調達品目」に該当する資材については、判断基準を満たす製品を使用することが原則必須となります。
- 建設分野における主な特定調達品目の例
- 資材類
高炉セメント、フライアッシュセメント、再生骨材コンクリート、防水材、断熱材、アスファルト合材など。 - 設備類
LED照明器具、高効率空調機、太陽光発電システム、変圧器。 - 内装・外装材
再生プラスチックを使用した床材、パーティション、壁紙、屋上緑化資材。
- 資材類
これらの品目を選定する際は、メーカーが発行する「適合証明書」やカタログ等の記載を確認し、基準を満たしている根拠(エビデンス)を保管しておく必要があります。
建設リサイクル法と資源有効利用促進法
グリーン調達は「買う」側面だけでなく、「廃棄・循環」の側面も考慮する必要があります。以下の二つの法律は、調達段階での意思決定に強く影響します。
- 建設リサイクル法
特定建設資材(コンクリート、木材、アスファルト等)を用いた工事において、分別解体と再資源化(リサイクル)を義務付けています。 - 資源有効利用促進法
建設現場で発生する土砂やコンクリート塊などの「建設副産物」について、再生資源としての利用を促進することを求めています。
つまり、調達段階から「リサイクルしやすい素材か」「再生材が含まれているか」を確認することは、これらの法規制を遵守し、廃棄コストを抑制する上でも非常に有効な手段となります。
エコマークやJIS規格の活用と確認方法
数ある資材の中から環境配慮型製品を効率的に見分けるために、以下の第三者認証マークや規格が活用されます。これらを指標にすることで、個別の調査工数を削減できます。
| 評価指標 | 概要 | 建設実務での活用ポイント |
|---|---|---|
| エコマーク | 日本環境協会が認定する環境ラベル。ライフサイクル全体で環境負荷が少ないと認められた商品。 | 資材カタログでこのマークがある製品を選べば、グリーン購入法の基準を満たすケースが多い。 |
| JIS規格 | 日本産業規格。品質だけでなく、再生材の混合率などの環境側面も規定されている。 | 再生骨材コンクリートなどはJIS適合品を選ぶことで、強度などの品質と環境性能を両立できる。 |
[出典:環境省「グリーン購入法基本方針」、日本産業標準調査会]
建設業が対応すべき主要な環境認証とサステナビリティ評価
建物の資産価値や企業の信頼性を高めるためには、第三者による環境認証の取得が有効です。ここでは、建設業の実務において頻出する4つの主要な認証・評価制度について、それぞれの特徴と目的を解説します。
CASBEE(建築環境総合性能評価システム)
CASBEE(キャスビー)は、日本国内で開発された建築物の環境性能評価システムです。「環境品質(Q)」を「環境負荷(L)」で割った指標(BEE値)で評価します。
評価結果は「Sランク(素晴らしい)」から「Cランク(劣る)」までの5段階で表示されます。省エネルギー性だけでなく、室内の快適性や景観への配慮なども総合的に評価されるため、自治体の条例で一定規模以上の建築物に届出が義務化されているケースが多く、国内での認知度は圧倒的です。
LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)
LEED(リード)は、アメリカのグリーンビルディング協会が開発・運用している、世界で最も普及している環境性能認証制度です。
グローバル企業がテナントとして入居するオフィスビルや、外資系企業の工場建設などで取得が求められる傾向にあります。プラチナ、ゴールドなどのランクがあり、取得により国際的なサステナビリティ基準を満たしていることの証明になります。
エコリーフ環境ラベルとEPD
エコリーフは、LCA(ライフサイクルアセスメント)の手法を用いて、製品の製造から廃棄までの環境情報を定量的に開示する環境ラベルです。
これは「良い・悪い」の判定ではなく、CO2排出量などのデータを「見える化」するものです。説明責任を果たしたい発注者に対して、客観的なエビデンスとして機能します。国際的なEPD(環境製品宣言)との相互認証も進んでおり、海外プロジェクトでも有効です。
ISO 14001(環境マネジメントシステム)
ISO 14001は、製品そのものの認証ではなく、企業が環境リスクを低減し、環境への貢献を目指すための仕組み(マネジメントシステム)に関する国際規格です。
これを取得していることは、グリーン調達における「サプライヤー選定」の際の重要な加点要素となります。公共工事の入札参加資格審査(経審)においても、加点対象となる場合があります。
グリーン調達を導入するメリットと企業の社会的責任
環境への配慮はコスト増と捉えられがちですが、中長期的な視点では企業の成長戦略そのものです。グリーン調達を積極的に導入することで得られる、経営上の具体的なメリットを3つの観点から解説します。
受注機会の拡大と入札優位性
公共工事の総合評価落札方式では、企業の環境活動や技術提案の内容が点数化されます。グリーン調達の実績や、CASBEEなどの認証取得支援能力は、技術提案の評価を底上げし、落札率の向上に直結します。
また、民間工事においても、SDGsに関心の高い大手デベロッパーからの指名獲得につながります。環境対応能力がない建設会社は、将来的にサプライチェーンから外されるリスクがあります。
企業ブランドの向上と人材確保
サステナビリティへの取り組みは、企業の社会的信用を大きく左右します。「環境に配慮したクリーンな建設会社」というブランディングは、地域社会からの信頼獲得だけでなく、採用活動においても重要です。
特に若年層(Z世代など)は、就職先を選ぶ際に企業の社会的責任(CSR)や環境への姿勢を重視する傾向があります。グリーン調達への取り組みは、優秀な人材を確保するためのアピール材料となります。
コスト削減とLCC(ライフサイクルコスト)
導入初期の資材費は、汎用品に比べて割高になる可能性があります。しかし、以下の視点を持つことで、トータルでのコストメリットを出せます。
- LCCの低減
高耐久な資材や断熱性能の高い建材を選ぶことで、建物の運用段階での光熱費や修繕費を大幅に削減できます。施主に対して「建設費は上がるが、総保有コストは下がる」という提案が可能です。 - 廃棄コストの抑制
リサイクル容易な資材や、梱包材の削減に取り組むことで、施工現場から出る産業廃棄物の処理費用を削減できます。
読者が抱く「グリーン調達」導入への不安と解決策
中小建設業や現場担当者にとって、新しい調達基準の導入は不安要素も多いものです。ここでは、現場からよく挙がる懸念点と、それに対する現実的な解決策を整理しました。

コストアップへの懸念と対処
「環境配慮型資材は高い」という認識は根強いですが、普及に伴い価格差は縮小しています。
- コスト課題への対策アプローチ
- 補助金・助成金の活用
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)関連の補助金などを活用し、イニシャルコストの上昇分を相殺する。 - 資産価値による訴求
環境認証を受けた建物は不動産価値が高まり、テナント料を高く設定できる傾向があることを施主に説明する。
- 補助金・助成金の活用
資材調達の難易度とサプライチェーン管理
必要な認証資材がすぐに入手できるか、協力会社が対応してくれるかという不安に対しては、事前の供給網確認が不可欠です。
- 専門コンサルタントの活用
認証手続きや複雑な資材選定を最初から全て自社で行わず、外部の知見を借りることでスムーズに導入できます。 - 社内マニュアルの整備
よく使う標準資材から順に「グリーン購入法適合品」への切り替えリストを作成し、現場ごとの調査負担を減らします。
グリーン調達の実践ステップ:サステナビリティを意識した工程
実際にグリーン調達を業務フローに組み込むための手順を解説します。曖昧な運用を避け、確実に成果を出すための構造化されたステップです。
- 1. 方針の策定と基準の明確化
まず、自社が目指す環境方針(サステナビリティ・ポリシー)を決定します。「グリーン購入法の特定品目は100%採用する」「地産材を〇〇%以上使用する」など、数値目標を伴う具体的な調達基準を作成します。 - 2. サプライヤー調査と協力依頼
既存の取引先や協力会社に対し、環境への取り組み状況を調査します。ISO 14001の取得有無、産業廃棄物の処理フロー、化学物質の管理体制などをアンケート形式で確認し、基準を満たすサプライヤーを優先取引先としてリスト化します。 - 3. 資材選定と比較検討
設計・積算段階で、設定した基準に基づき資材を選定します。カタログスペックだけでなく、エコマークの有無、再生材含有率、製造地(輸送距離)などを比較項目に入れます。 - 4. 進捗管理と事後評価
施工中は、計画通りにグリーン資材が納入されているかをマニフェストや納品書で管理します。工事完了後は、実際に調達できた割合(グリーン調達率)を集計し、目標未達であればその原因を分析して、次のプロジェクトの改善につなげます。
建設資材の比較検討:環境負荷と品質の両立
資材選定においては、環境性能だけでなく、建設資材としての本来の機能(強度・耐久性・施工性)とのバランスが重要です。ここでは代表的な検討ポイントを挙げます。
再生資材 vs バージン資材
再生砕石や再生アスファルトなどの再生資材は、環境負荷低減に大きく寄与しますが、品質のばらつきに注意が必要です。
- メリット:廃棄物の削減、天然資源の節約、コストが安い場合がある。
- 注意点:不純物の混入リスク。JIS規格等の公的基準を満たしていることを前提に、構造体以外の部分や仮設材などで積極的に活用するなど、適材適所の判断が求められます。
地産地消の推進(地域資材の活用)
地元で生産された木材や石材を使用することは、輸送にかかるエネルギー(CO2)を削減する上で非常に効果的です。
- 地域資材活用のメリット
- 輸送コストとCO2の削減
長距離輸送を避けることで、環境負荷と物流費を同時に抑えることができる。 - 地域貢献評価の向上
公共工事や自治体発注の案件では、地域経済への貢献として高い評価点(加点)を得られる場合が多い。
- 輸送コストとCO2の削減
まとめ:サステナビリティを核としたグリーン調達の実現に向けて
建設業におけるグリーン調達は、もはや一部の先進企業だけのものではなく、業界全体のスタンダードとなりつつあります。
- 「選択」から「必須」へ
グリーン調達への対応は、事業継続のためのライセンスのような存在になっています。 - 「コスト」から「投資」へ
環境認証への対応やサステナブルな資材選定は、企業のブランド価値と競争力を高める確実な投資です。
一朝一夕に全ての資材を切り替えることは困難ですが、まずはガイドラインを整え、できるところから一歩ずつ、サプライチェーン全体で取り組むことが成功の鍵となります。
よくある質問(FAQ)
Q1. グリーン調達は中小企業でも対応が必要ですか?
はい。大手ゼネコンやハウスメーカーがサプライチェーン全体での脱炭素(スコープ3)への対応を掲げているため、協力会社である中小企業にも同等の対応や報告が求められるケースが急増しています。対応しないことが受注機会の損失につながる可能性があります。
Q2. 最も優先して取得すべき認証や対応は何ですか?
事業内容によりますが、公共工事が多い場合は「エコマーク」や「JIS」適合資材の把握と、グリーン購入法への対応が最優先です。民間建築や設計業務が中心なら「CASBEE」への理解と、評価員資格の取得などを深めるのが一般的です。
Q3. グリーン資材は通常より価格が高いのでしょうか?
一部高価なものもありますが、市場の需要拡大により価格差は縮小傾向にあります。また、単純な購入価格だけでなく、廃棄コストの削減や、補助金活用、建物の資産価値向上などのメリットも含めた総合的な判断が重要です。





